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ダブルケアの実態、自分の老後と親の介護が重なったら

2026 9/28
生活
2026年11月2日

定年退職を迎え、これから自分の老後をどう過ごすか考え始めた矢先に、実家から「母の様子がおかしい」という連絡が入る。この二つの出来事が同時に押し寄せる状態は「ダブルケア」と呼ばれ、六十代前後の世代に特有の重なりとして近年注目されています。自分自身の老後の備えと、親の介護という二つの重い課題を並行して背負うことになったとき、何が起きるのか、そして実際にどう対処すればよいのかを、実例とともに整理します。

目次

ダブルケアとは何か

ダブルケアという言葉は、もともと育児と親の介護が同時期に発生する子育て世代の負担を指す用語として広まりましたが、六十代の定年退職者にとっては別の形で現れます。自分自身がこれから老いていくことへの備え、つまり老後資金の管理や自身の健康維持、生活基盤の再構築を進めなければならない時期に、同時に親の介護という待ったなしの課題が発生する状態です。自分がケアされる側に近づきつつある年齢で、同時に誰かをケアする側にも回らなければならないという二重の負荷が、この世代のダブルケアの本質です。

定年退職と親の要介護が重なりやすい理由

定年退職の年齢は六十歳から六十五歳が一般的ですが、この年代の親はおおむね八十代から九十代にあたります。厚生労働省の統計でも、要介護認定率は八十五歳を境に急激に上昇することが示されており、まさに子世代が定年退職を迎える時期と、親世代が要介護状態になりやすい時期が重なるように出来ています。現役時代は仕事が忙しく親の変化に気づきにくかった人も、退職して時間に余裕ができた途端、それまで見えていなかった親の衰えが一気に目に入るようになることも、この重なりを強く感じさせる一因です。

直面したときの優先順位のつけ方

ダブルケアに直面すると、多くの人が「親を優先すべきか、自分の生活基盤を優先すべきか」という二者択一で悩みますが、実際にはどちらか一方をゼロにする必要はありません。まず整理すべきは、時間軸の違いです。親の介護は今この瞬間に対応が必要な緊急性の高い課題である一方、自分の老後資金や健康管理は数年単位で調整が利く課題です。この違いを踏まえ、直近で命や安全に関わる親の状況には即座に対応しつつ、自分自身の備えは「今すぐ全て」ではなく「今年度中にここまで」というように期限を区切って並行させる考え方が現実的です。緊急度と重要度を分けて捉えることで、両方を同時に抱えているという圧迫感がいくらか和らぎます。

ある元経理職の体験

ある元経理職の六十二歳女性は、定年退職の翌月に、離れて暮らす八十八歳の母が自宅で転倒し骨折したという連絡を受けました。退職後は自分の趣味であった陶芸教室に通うつもりで準備を進めていましたが、その計画は一旦白紙になり、月の半分を実家のある地方都市へ通う生活が始まりました。当初は「自分の老後の準備などしている場合ではない」と、老後資金の見直しや健康診断の予約まで後回しにしていましたが、半年ほど経ったころ、自分自身の体調を崩して倒れかけたことで、このままでは共倒れになると気づいたといいます。そこから地域包括支援センターに相談し、訪問介護サービスと母のためのデイサービスを組み合わせることで実家への往復頻度を減らし、自分の通院や健康診断の時間を確保する生活に切り替えました。「介護に全部振り切っていたら、先に自分が倒れていた」と振り返っています。

家族だけで背負わずに使える制度・サービス

介護保険サービスの活用

親が要介護認定を受ければ、訪問介護、デイサービス、ショートステイなど、家族の負担を分散させる介護施設・サービスの選択肢が利用できます。自宅での介護を全て家族だけで担おうとすると、時間的にも体力的にも早晩限界が訪れます。サービスを使うことは手抜きではなく、介護を継続的に続けるための仕組みとして最初から組み込んでおくべきものです。費用面については介護保険の自己負担の仕組みを事前に把握しておくと、想定外の出費に慌てずに済みます。

地域包括支援センターへの早めの相談

親がまだ要介護認定を受けていない段階、「最近物忘れが増えた」「一人での買い物が難しくなってきた」という程度の変化の時点で、地域包括支援センターに相談しておくことが後の負担を大きく左右します。親の介護が始まるときの初動を早めに把握しておけば、要介護状態が進行してから慌てて制度を調べるよりも、落ち着いて選択肢を検討する時間を確保できます。センターの職員は介護保険の申請手続きだけでなく、家族間の役割分担の相談にも応じてくれる窓口です。

もう一つの実例、遠距離ダブルケアの場合

親と離れて暮らしている場合、ダブルケアはさらに複雑になります。ある元システムエンジニアの六十五歳男性は、定年退職と同時に妻と二人で自分たちの老後の住まいを郊外に移す計画を進めていましたが、その矢先に新幹線で二時間離れた実家の父が認知症の診断を受けました。当初は毎週末実家に通い、平日は自宅で老後の生活設計を進めるという二重生活を試みましたが、移動だけで体力を消耗し、肝心の自分たちの計画がまったく進まない状態が三か月続いたといいます。最終的には、父の生活圏にある地域包括支援センターと連携し、平日は訪問介護とデイサービスを組み合わせて父の生活を支え、自分たちは月一回の訪問と電話での様子確認に切り替えることで、ようやく自分たちの住み替え計画を再開できたそうです。「毎週通うことが親孝行だと思い込んでいたが、続けられない献身は結局どちらのためにもならない」という言葉が印象的でした。

介護離職を避けるという視点

定年退職前の在職中にダブルケアに直面した場合、親の介護を理由に仕事を辞める介護離職という選択肢が頭をよぎることもあります。しかし退職まで数年を残して離職してしまうと、退職金の減額や厚生年金の加入期間短縮につながり、結果として自分自身の老後資金計画そのものが崩れてしまいます。介護休業制度や勤務先の短時間勤務制度を確認し、離職以外の選択肢を先に検討したほうが、長期的には自分と親の両方にとって安定した結果につながりやすくなります。

よくある質問

Q. きょうだいがいるのに自分ばかり負担が集中してしまいます。

A. 介護の分担は「近くに住んでいる人」に偏りがちですが、体力を伴う直接的な介護だけでなく、費用負担や事務手続き、きょうだい間の情報共有役など、役割を分けて担当を決めることで偏りを減らせます。地域包括支援センターの担当者を交えて話し合うと、感情的な対立を避けながら分担を決めやすくなります。

Q. 親の介護と自分の老後資金の準備、どちらを先に手をつけるべきですか。

A. 親の安全に直結する緊急性の高い対応(転倒予防、医療機関の受診、介護保険の申請)を先に済ませたうえで、自分の老後資金は期限を区切って並行させる形が現実的です。どちらも完全に後回しにすると、後になって取り返しのつかない差が生まれます。

Q. まだ親は元気ですが、今からできる備えはありますか。

A. 親の資産状況やかかりつけ医、持病の有無を今のうちに聞いておくことが最大の備えになります。いざというときに慌てて調べる情報を、余裕のあるうちに共有しておくだけで、実際に介護が始まったときの初動が大きく変わります。

実際にダブルケアに直面した方々の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。

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