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老後資金の取り崩し方:定率 vs 定額のどちらが安心か

2026 9/28
お金
2026年10月6日

退職金と貯蓄を合わせて2,000万円前後の資産を持って退職を迎える人は多いのですが、「この資産をどのペースで使っていくか」まで具体的に決めている人は意外と少ないものです。毎月同じ額を取り崩す「定額」と、残高に対する一定割合を取り崩す「定率」では、資産が尽きるタイミングも受け取れる金額の変動幅もまったく違います。ここでは数字を使って両者の違いを比較します。

目次

定額取り崩しとは:毎月一定額を使う方法

定額取り崩しは、たとえば「毎月10万円」「年間120万円」のように、残高に関係なく一定額を引き出す方法です。仮に2,000万円を年利2%で運用しながら毎年120万円(月10万円)を取り崩すと、単純計算では約20年で資産が底をつく計算になります。生活費の見通しが立てやすく、家計管理はしやすい反面、運用がマイナスの年に同じ額を引き出し続けると、資産が想定より早く目減りするリスクを抱えます。たとえば運用開始直後にリーマン・ショック級の下落(資産が3割減)が起きると、その後の回復局面でも取り崩し額が相対的に重くなり、同じ120万円でも資産寿命が数年単位で短くなることがあります。

定率取り崩しとは:残高の一定割合を使う方法

定率取り崩しは「毎年、その時点の残高の4%」のように割合で引き出す方法です。2,000万円なら初年度は80万円ですが、運用が好調で残高が2,200万円に増えれば翌年は88万円、逆に1,800万円に減れば72万円と、受け取る金額が残高に連動して変動します。この方法の利点は、理論上は資産が完全にゼロになりにくいことです。割合で引き出す限り残高が減るほど引き出し額も減るため、定額のように「資産が尽きる」事態を避けやすくなります。一方で、相場が悪い年は生活費として使える金額そのものが減るため、年金収入だけでは足りない部分をこの取り崩し分でまかなっている人にとっては、年ごとの手取りが不安定になるという弱点があります。

4%ルールを定年後の生活にどう当てはめるか

資産運用の世界でよく語られる「4%ルール」は、米国の研究をもとにした「年初の資産の4%を毎年取り崩せば、30年間資産が尽きにくい」という経験則です。FIREの現実:早期リタイアで気をつけたいことでは30代・40代の早期リタイアを前提に紹介しましたが、60代からの定年後生活では前提が変わります。60歳で定年を迎えて90歳まで生きるとすれば取り崩し期間は30年程度で近い条件になりますが、公的年金の受給が65歳から始まる点が大きく異なります。65歳までの「つなぎ期間」は年金収入がなく、退職金からの取り崩し比率が実質的に高くなるため、この5年間だけは4%よりやや高めの取り崩し率になることを織り込んでおく必要があります。

ハイブリッド型:生活費は年金+定額、余暇費は定率

実務でよく使われるのが、支出を「基礎生活費」と「趣味・旅行などの裁量費」に分け、それぞれ異なる方式で賄うハイブリッド型です。基礎生活費(食費・住居費・光熱費など)は公的年金と、退職金から毎月一定額を取り崩す定額分でまかない、裁量費は運用資産の残高に応じた定率分から支出します。相場が悪い年は旅行や趣味への支出を自然に抑えられる一方、基礎生活費は相場に関係なく確保できるため、精神的な安心感を保ちながら資産寿命を延ばせる設計です。ある65歳で定年退職した女性は、退職金1,800万円のうち1,200万円を年間4%(初年度48万円)の定率取り崩しに、残り600万円を医療・介護の備えとして手をつけない別枠に分けて管理しています。

取り崩し開始直後の下落が痛い理由

定額取り崩しで特に警戒したいのが「収益率配列のリスク」と呼ばれる現象です。運用の平均利回りが同じでも、取り崩しを始めた直後に相場が下落するか、後半で下落するかによって資産の残り方が大きく変わります。たとえば2,000万円を年100万円ずつ定額で取り崩す場合、1年目に資産が3割下落すると残高は1,300万円弱まで落ち込み、その後相場が回復しても取り崩す100万円は元の残高に対する比率としては重くなり続けます。逆に下落が15年目以降に起きた場合は、それまでに取り崩した分が少ない分だけ影響は相対的に軽くなります。定年直後の数年は特に大きな下落局面に当たっていないかを気にかけ、下落年だけは取り崩し額を一時的に減らす、あるいは生活防衛資金(生活費6か月〜1年分)を現金で別枠に確保しておくといった備えが有効です。

25年間の試算で見る資産の残り方

2,000万円を年利2%で運用しながら取り崩す場合を25年間で比較すると、方式による差がはっきり見えてきます。定額(年間100万円)なら、運用が平均通りに推移すれば22〜23年目あたりで残高がゼロに近づきます。一方、定率(毎年残高の5%)なら、初年度は100万円で同水準からスタートしますが、20年目には残高がおよそ1,300万円まで減っていても取り崩し額自体は年65万円程度に自動的に下がるため、25年目時点でも資産がゼロにはなりません。逆に言えば、定率方式では長生きするほど後半の年間受取額が目減りしていく点を理解しておく必要があります。「資産を使い切らない安心」と「後半の生活費が減る可能性」は表裏一体だと捉えておくと、方式選びで迷いにくくなります。

定率法と定額法の違いを表で整理すると、以下のようになります。

比較の観点 定率法 定額法
資産が尽きるリスク 残高に応じて取り崩し額が減るため、理論上ゼロになりにくい 相場下落時も同じ額を引き出すため、想定より早く資産が尽きるリスクがある
毎月の受取額の変動 残高の増減に連動して受取額が変わり、年ごとに変動する 相場に関係なく毎月・毎年同じ額を受け取れる
計算のわかりやすさ 残高を都度確認して割合をかける必要があり、やや手間がかかる 金額が固定されているため、家計管理がしやすい

退職金の運用先によって取り崩し方はどう変わるか

取り崩し方を考える前提として、退職金をどこに置いているかによって選べる選択肢そのものが変わります。定期預金に置いている場合は元本が減らない安心感がある一方、金利は年0.1〜0.3%程度にとどまることが多く、物価上昇が続けば実質的な目減りは避けられません。取り崩し自体は単純に引き出すだけで済みますが、増える見込みがない分、取り崩しペースがそのまま資産寿命に直結します。

投資信託で運用している場合は、基準価額が日々変動するため、「何口売るか(口数指定)」と「いくら受け取るか(金額指定)」のどちらで取り崩すかを選ぶ必要があります。金額指定は生活費の計算がしやすい半面、基準価額が下がっている月に多くの口数を売ることになり、定額取り崩しと同じ収益率配列のリスクを抱えます。口数指定であれば売却する口数は一定なので受け取る金額は変動しますが、資産の目減りペースは価格変動の影響を受けにくくなります。

実務では、退職金を「生活防衛資金として定期預金に1年分」「当面5年分の生活費相当を値動きの小さい債券中心の商品」「残りを株式を含む投資信託」のように3層に分け、現金に近い層から順番に取り崩す方法もよく使われます。相場が悪い年は値動きの大きい層に手をつけず現金層でしのぐことで、下落局面での「安値売り」を避けやすくなります。

iDeCoの受け取り方と、退職金と合算したときの税金

iDeCo(個人型確定拠出年金)も「一時金」「年金形式」「一時金と年金の併用」から受け取り方を選べます。一時金として受け取ると退職所得扱いになり、会社の退職金と同じ退職所得控除の枠を使います。この控除は勤続年数(iDeCoでは掛金の拠出年数)をもとに計算されるため、退職金とiDeCo一時金を同じ年か近い年に受け取ると、控除額を分け合う形になり課税対象が増えることがあります。

具体的には、会社の退職金を受け取った年の前年以前19年以内にiDeCoを一時金で受け取っていた場合(または退職金受け取り後5年以内にiDeCoを一時金で受け取る場合)、退職所得控除の計算で勤続年数と拠出年数の重複部分が調整され、控除額が減ります。例えば勤続35年で退職金側の控除額が1,850万円に達している人が、退職と同じ年にiDeCoの一時金300万円も受け取ると、iDeCo側で新たに使える控除はほとんど残らず、300万円の大部分が課税対象の退職所得に加算される計算になります。

一方、iDeCoを年金形式で受け取れば雑所得として公的年金等控除の対象になり退職所得とは別枠で扱われますが、公的年金と合算されるため毎年の所得水準や国民健康保険料の算定に影響します。受け取り時期をずらす、一部を一時金・一部を年金にする併用を選ぶなど、退職金の受け取り方とあわせて出口の順番を考えておく必要があります。iDeCoの受け取り方(一時金・年金・併用)の選び方もあわせて確認しておくと、退職金とiDeCoをセットで考えるときの判断材料が増えます。

取り崩し方を決める前に確認しておきたい数字

どちらの方式を選ぶにしても、まず自分の資産と年間支出の実態を数字で把握することが出発点になります。総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)」による調査では、高齢無職世帯の消費支出がひとつの目安として示されており、こうした水準も参考にしながら、退職後の家計簿・支出の見直し方で作った年間支出額と、退職後の収入シミュレーションの作り方で試算した公的年金・企業年金の受給額を突き合わせると、毎年どれだけ資産から補う必要があるかが見えてきます。年金の受給開始を遅らせる年金の繰り上げ・繰り下げ受給、どちらがいいかを選んだ場合は、繰り下げ期間中の取り崩し比率が高くなる点も試算に織り込んでおきましょう。退職金の受け取り方(一時金 vs 年金)、どちらが得かで一時金を選んだ人は、受け取った直後の運用先と取り崩しルールをセットで決めておくと、その後の管理がぶれにくくなります。

よくある質問

Q. 定率取り崩しなら資産は絶対になくなりませんか?

A. 理論上ゼロには近づきにくい方式ですが、絶対に尽きないわけではありません。長期の大幅な下落局面や、想定より長生きした場合には残高が想定を下回ることがあります。年1回は残高と支出のバランスを見直す機会を作っておくと安心です。

Q. 定額と定率、途中で方式を変更してもいいですか?

A. 問題ありません。多くの金融機関の投信定期売却サービスは、金額指定と口数指定(定率に近い形)を後から切り替えられます。65歳で年金受給が始まるタイミングなど、収入構成が変わる節目で見直す人が多いです。

Q. 取り崩す資産はNISA口座と課税口座、どちらから先に使うべきですか?

A. 一般的には非課税枠を持つNISA口座を長く残し、課税口座から先に取り崩す方が税制上有利になるケースが多いです。NISA口座の使い方(退職後の資産運用)もあわせて確認し、保有商品ごとの出口戦略を決めておくとよいでしょう。

定額と定率、どちらか一方に決め打ちする必要はなく、生活費の性質に応じて組み合わせるのが現実的な選択です。自分の資産額と支出額を具体的な数字に落とし込んだうえで、取り崩しのルールを一度書面にしておくと、相場が荒れたときにも判断がぶれにくくなります。

実際に退職金の取り崩し方を工夫している人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。

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