退職は、加入している生命保険や医療保険を見直す絶好のタイミングです。現役時代に「なんとなく」加入したままの保険が、退職後のライフスタイルに合わなくなっていることも少なくありません。保険料の負担を抑えつつ、必要な保障を確保するための考え方を紹介します。
なぜ退職後に保険の見直しが必要なのか
在職中は、子どもの教育費や住宅ローンなど、大きな保障が必要な時期でした。しかし退職を迎える頃には、子どもが独立している、住宅ローンを完済しているなど、必要な保障の内容や金額が変わっていることが多いです。若い頃に加入した保険をそのまま継続していると、実態に合わない保障のために、必要以上の保険料を払い続けていることがあります。
死亡保障はどこまで必要か
子育てや教育費の負担が終わっている場合、大きな死亡保障の必要性は下がっていることが一般的です。残された配偶者の生活費を考慮しつつ、退職金や年金の見込みも踏まえて、必要な保障額を一度計算し直してみるとよいでしょう。葬儀費用程度をカバーする少額の保険に切り替える、あるいは解約して貯蓄に回すという選択をする人も多くいます。
医療保険・がん保険はどう考えるか
年齢を重ねるほど病気やケガのリスクは高まるため、医療保険やがん保険の必要性は現役時代より増すという考え方もあります。一方で、公的な健康保険には高額療養費制度があり、医療費の自己負担には上限が設けられているため、民間保険で過剰に備える必要はないという考え方もあります。自分の貯蓄状況や、公的制度でどこまでカバーされるのかを踏まえて判断する必要があります。
保険料負担と家計のバランス
退職後は収入が限られるため、毎月の保険料負担が家計を圧迫することもあります。退職金の受け取り方(一時金 vs 年金)、どちらが得かや公的年金の見込み額を踏まえながら、毎月の保険料が年金収入の1割を超えていないかなど、具体的な基準を決めて見極めることが役立ちます。複数の保険に加入している場合は、保障内容が重複していないかもチェックしておきましょう。
見直しの具体的な進め方
まずは現在加入している保険の証券を一つにまとめ、保障内容・保険料・満期(あれば)を一覧に書き出します。その上で、「本当に必要な保障は何か」「重複している保障はないか」を確認します。判断に迷う場合は、保険会社の窓口だけでなく、特定の保険会社に属さない独立系のファイナンシャルプランナーに相談すると、中立的なアドバイスを受けやすくなります。
解約のタイミングに注意する
保険を解約する際は、健康状態によっては新たな保険への加入が難しくなる場合があることに注意が必要です。持病がある場合や、健康状態に不安がある場合は、既存の保険を先に解約せず、新しい保険への加入が確定してから見直しを進める方が安全です。保障の空白期間ができないよう、手続きの順番を先に決めておきましょう。
高額療養費制度も知っておく
公的医療保険には、1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合に払い戻される「高額療養費制度」があります。この制度の存在を知っておくだけでも、民間保険にどこまで備えるべきかの判断材料になります。年齢や所得によって自己負担限度額は異なるため、自分の場合の目安を一度確認しておくとよいでしょう。
介護保険・就業不能保険も検討に入れる
民間の介護保険や、働けなくなった場合の収入減を補う就業不能保険なども、退職後の暮らしに合わせて検討してもよい保険です。公的介護保険で足りない部分を補いたい人や、長期の介護が家計に与える影響を心配する人にとっては、こうした保険が安心材料になることもあります。ただし新たに加入するほど保険料負担も増えるため、本当に必要かどうかは慎重に見極めましょう。
火災保険・自動車保険もあわせて見直す
生命保険や医療保険だけでなく、火災保険や自動車保険も、退職を機に見直す価値があります。住宅の状況が変わった、車の使用頻度が減ったといった変化があれば、保障内容や保険料を今の生活に合わせて調整できる可能性があります。この機会に、加入している保険全体を一度棚卸ししておくと、抜け漏れなく比較できます。
火災保険・地震保険の見直しタイミング
火災保険は2022年10月の制度改定で契約期間の上限が最長10年から5年に短縮されており、多くの保険会社で契約更新が5年ごとの節目になっています。更新時は保険料が見直されるだけでなく、建物の評価額(再建築にかかる費用をもとにした保険金額)も見直されるため、築年数が古い住宅ほど契約時点の評価額と現在の再建築費用にずれが生じていないかを確認しておきたいタイミングです。特に築20年、築30年といった節目では、建物の構造区分(木造か鉄骨・鉄筋コンクリートかなど)によって保険料の水準が変わるため、保険会社に現在の評価額を確認しておくと安心材料になります。
地震保険は単独では加入できず、火災保険とセットで契約する仕組みで、保険金額は火災保険金額の30〜50%の範囲でしか設定できません。住宅ローンを完済した人は、団体信用生命保険とセットになっていた火災保険から単独の契約に切り替わることも多く、その切り替えのタイミングで地震保険の付帯有無や保険金額をあらためて確認しておく必要があります。
補償内容の重複にも注意が必要です。クレジットカードに付帯している家財保険や、自動車保険の特約に含まれる水災・個人賠償責任特約などが、火災保険の補償内容とすでに重なっていることがあります。複数の保険証券を並べて、同じリスクに対して二重に保険料を払っていないかを確認しておくと、保険料の無駄を減らせます。
高額療養費制度をあらためて確認する
医療保険の見直しを進める上で欠かせないのが、公的な「高額療養費制度」の理解です。医療費の自己負担には上限があるため、民間保険でどこまで備えるべきかを判断する材料になります。制度の存在を知った上で見直すのと知らずに見直すのとでは、選ぶ保障内容が変わってくることがあります。
資産運用とのバランスも考える
保険料を見直して浮いた分を、貯蓄や資産運用に回すという選択肢もあります。FIREの現実:早期リタイアで気をつけたいことも参考に、保険料を抑えた分を積立投資に回すなど、保険と資産運用のバランスをセットで考えてみるとよいでしょう。
終身保険と定期保険、退職後はどう考えるか
現役時代に加入した保険が「定期保険」の場合、一定の年齢で保障が終了するタイプが多く、更新のたびに保険料が上がっていく仕組みになっていることがあります。更新時期が近づいたら、保険料の上昇分と必要な保障のバランスを見直す良い機会です。一方、「終身保険」は保障が一生涯続き、保険料も上がらないタイプが多いですが、解約すると解約返戻金を受け取れる場合があるため、家計の状況に応じて、解約して貯蓄に回すか、そのまま保障として残すかを、家計の状況に応じて選べます。
保険証券の管理と家族への共有
見直しが完了したら、最終的にどの保険をどのくらいの保障で残したかを、一覧にして分かりやすくまとめておくと安心です。万が一のときに家族がスムーズに手続きできるよう、保険証券の保管場所や連絡先を家族と共有しておくと、いざという時に慌てずに済みます。退職を決める前に家族と話すべき5つのことにも通じる、家族への情報共有の一環として位置づけておくとよいでしょう。
よくある質問
Q. 保険はすべて解約してしまってもいい?
A. 貯蓄が十分にあり、公的制度でカバーできる範囲に納得できるのであれば、解約を検討する価値はあります。ただし、大きな病気やケガに備える最低限の保障は残しておくと安心という考え方もあり、一律の正解はありません。
Q. 見直しはどこに相談すればいい?
A. 保険会社の窓口のほか、独立系のファイナンシャルプランナーに相談する方法もあります。特定の保険会社に偏らないアドバイスを受けたい場合は、後者がおすすめです。
Q. 配偶者の保険も一緒に見直すべき?
A. はい、家庭全体の保障を効率よく整理するためにも、夫婦それぞれの保険をまとめて見直しておくと、無駄を見つけやすくなります。重複している保障がないか、必要な保障に過不足がないかを、世帯単位で確認すると無駄を見つけやすくなります。
Q. 高齢になってからでも新規加入できる保険はある?
A. 健康状態の告知が不要な「引受基準緩和型」の保険など、高齢者でも加入しやすい商品はあります。ただし保険料は割高になる傾向があるため、内容をよく比較してから加入を決めましょう。
Q. 見直しはどれくらいの頻度で行うべき?
A. 退職時に一度しっかり見直した後も、健康状態や家計の変化に応じて、数年に一度は保障内容を確認し直しておくと安心です。特に大きな病気をした後や、家族構成に変化があったときは、見直しの良いタイミングです。
保険の見直しは、退職後の家計を無理なく保つための大切な準備の一つです。焦らず、自分に本当に必要な保障を見極めていきましょう。
実際に退職を機に保険を見直した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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