定年退職してしばらく経ってから、「気づけば連絡を取り合う相手が減っている」と感じる六十代は少なくありません。現役時代の友人関係の多くは、実は職場という共通の場があったからこそ成り立っていたものでした。その場がなくなった今、ゼロから新しい友人を作るにはどうすればいいのか。ここでは既存の友人関係を維持する話ではなく、退職後に新しく友人を作るための具体的な場と考え方を取り上げます。
職場の友人関係は「場」が作っていた
在職中、同僚との関係は自然に生まれ、自然に深まっていきました。毎日同じフロアで顔を合わせ、同じプロジェクトの成功や失敗を共有し、昼休みや飲み会でたわいもない話をする。この積み重ねが友人関係のように見えていましたが、その土台は「同じ職場にいる」という共通の場でした。退職すると、この場が消えます。かつて毎日のように話していた同僚とも、数ヶ月に一度の連絡に減っていき、やがて年賀状だけの関係になっていく。これは相手との関係が悪化したわけではなく、関係を支えていた場そのものがなくなったからです。
この事実に気づかないまま「昔の同僚と疎遠になってしまった、自分に何か問題があるのだろうか」と悩む人がいますが、原因は個人の魅力や人柄ではなく、単純に共通の場を失ったことにあります。だからこそ、退職後に友人を作るには、意識的に新しい「場」を作るか見つけるかする必要があります。
新しい友人ができる具体的な場
趣味のサークル
写真、囲碁、俳句、山歩き、社交ダンスなど、興味のある分野のサークルに参加すると、同じ関心を持つ人と定期的に顔を合わせる機会ができます。共通の話題があらかじめ用意されているため、初対面でも会話が続きやすいのが利点です。地域の広報誌や公民館の掲示板、インターネットの地域情報サイトなどで募集情報を探すところから始められます。具体的な探し方は趣味のサークル探しにまとめています。
地域活動
自治会の行事や地域の清掃活動、防災訓練などに参加すると、近所に住む同世代の人たちと接点ができます。趣味のサークルと違い共通の関心があるわけではありませんが、「同じ地域に住んでいる」という共通点そのものが会話の糸口になります。自治会になじんでいく方法で具体的な関わり方を紹介しています。
公民館講座
公民館や生涯学習センターが開く講座は、料理、語学、歴史、パソコンなど幅広いテーマがあり、数ヶ月単位の連続講座として開かれることが多いのが特徴です。同じ講座に数ヶ月通ううちに、休憩時間の雑談から自然と親しくなるケースがよくあります。受講料も比較的安価で、参加のハードルが低いことも利点です。講座の探し方や申し込みの流れは公民館講座の探し方で確認できます。
シルバー人材センター
軽作業や事務補助などの仕事を通じて登録者同士が顔を合わせるシルバー人材センターも、新しい人間関係が生まれる場になります。仕事という共通の目的があるため、職場にいた頃と似た感覚で関係を築きやすいという声もあります。登録の流れはシルバー人材センターへの登録方法を参考にしてください。
年齢を重ねてからの友人作りで意識したいこと
利害関係のない心地よさ
職場の人間関係には、多かれ少なかれ利害が絡んでいました。評価される側とする側、取引先との関係、部署間の力学。退職後に新しく作る友人関係には、こうした利害がほとんど存在しません。この「利害がない」という状態は、最初は物足りなく感じるかもしれませんが、慣れてくると非常に心地よいものだと気づく人が多いです。相手に気を遣って発言を選ぶ必要も、評価を気にする必要もなく、ただ一緒に時間を過ごせる関係として付き合えます。
無理に合わせようとしなくていい
現役時代は、上司や取引先に合わせて自分の意見を抑える場面が多くありました。しかし退職後の友人関係では、そこまで無理をする必要はありません。趣味のサークルで意見が合わない相手がいれば距離を置けばいいし、公民館講座で話が合う人が一人見つかれば、それで十分に関係は成り立ちます。全員と仲良くなろうとする必要はなく、数ある場の中で気の合う一人か二人と出会えれば、友人作りとしては十分な成果です。
複数の場を持っておく
一つの場だけに友人関係を頼ると、その場がなくなったとき(サークルの解散や講座の終了など)に関係も一緒に途切れてしまうことがあります。趣味のサークルと地域活動、公民館講座など複数の場を並行して持っておくと、一つの場が終わっても他の場での関係が残り、孤立するリスクを減らせます。
実際に友人ができるまでの過程
ある元商社勤務の六十一歳男性は、退職後に囲碁教室に通い始めましたが、最初の数ヶ月は挨拶を交わす程度の関係にとどまっていました。転機になったのは、教室帰りに近くの喫茶店に誘われたことでした。そこで初めて互いの現役時代の話や家族の話をするようになり、半年後には月に二回、教室のあとにお茶をする習慣ができていたといいます。本人は「最初の数ヶ月は友人ができる兆しが全くなかったが、場に通い続けていたことが結果的に関係につながった」と振り返っています。友人関係は一度や二度の参加で築けるものではなく、同じ場に繰り返し通う中で少しずつ形になっていくものだと分かる事例です。
一方、ある元中学校教員の六十四歳女性は、複数のサークルに同時に参加してみたものの、どこも表面的な付き合いにとどまり悩んでいました。しかし公民館の歴史講座に絞って半年通い続けたところ、同じ講座の受講者三人と定期的に食事に行く関係ができました。同時に多くの場に手を広げるより、一つの場に腰を据えて通うほうが、結果的に深い関係につながりやすいという例です。
友人作りと孤独への不安の関係
新しい友人を作ることは、単に楽しい時間を増やすだけでなく、孤独感への不安を和らげる効果もあります。孤独感そのものとの向き合い方については孤独感との向き合い方で扱っていますが、友人という具体的な相手ができることで、漠然とした孤独感が「誰かと話す約束がある」という具体的な予定に変わっていきます。既存の友人関係を維持する努力も欠かせませんが、退職後の生活を長い目で見れば、新しく関係を作れる力を持っておくことのほうが、環境の変化に強い生活につながります。
よくある質問
Q. 人見知りで、初対面の人と話すのが苦手です。それでも新しい友人はできますか。
A. 最初から積極的に話しかける必要はありません。同じ場に繰り返し顔を出し続けるだけでも、周囲から「よく来ている人」として認識され、向こうから話しかけられる機会が増えていきます。回数を重ねること自体が人見知りを補う方法になります。
Q. 妻(夫)と一緒に参加したほうがいいですか、一人で参加したほうがいいですか。
A. どちらでも構いませんが、夫婦一緒だと配偶者に会話を任せがちになり、自分自身の関係が築きにくくなることがあります。少なくとも一つは自分一人で参加する場を持っておくと、自分自身の友人関係が育ちやすくなります。
Q. 年齢が離れた人ばかりの場でも友人はできますか。
A. できます。年齢が離れていても、共通の趣味や活動があれば会話は十分に成り立ちます。むしろ同世代だけの集まりより、年齢層が幅広い場のほうが新鮮な話題に触れられるという声もあります。
実際に定年後に新しい友人ができた体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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