退職を決めたとき、多くの人は「いつ辞めるか」と「次をどうするか」に意識が向きます。ところが、退職前の準備しだいで、受け取れるお金や手続きの手間が変わります。退職届を出した後には直せない点も少なくありません。
この記事では、退職前にやることを時系列で並べ、お金に関わる確認事項と、「自己都合」にしないための考え方をまとめます。退職後の手続きは、別の記事でまとめています。
退職前にやることの全体像
大きく分けると、次の4つです。
- 退職日と退職の理由を整理する(給付の種類に関わります)
- 会社でもらう書類と、会社に返すものを確認する
- 有給休暇、退職金、社会保険の扱いを確認する
- 退職後の収入が途切れる期間の生活費を試算する
退職日の1〜3か月前から動くと、確認と交渉の時間が取れます。引き継ぎの進め方は円満退職のための引き継ぎ資料の作り方、有給の消化は退職前の有給休暇消化を実現する交渉術で詳しく書いています。
自己都合にしない方法はあるのか
失業保険(雇用保険の基本手当)では、退職の理由によって「自己都合」「会社都合」「特定理由離職」などに分かれます。自己都合は、待機期間に加えて給付制限があり、受け取り始めが遅くなります。一方、定年退職は自己都合の給付制限がありません。
ここで押さえたいのは、「理由を自分で選べる」のではなく、実際の事情にもとづいてハローワークが判断するという点です。事実と違う理由で申請すると、不正受給として扱われるおそれがあります。そのうえで、事実に合った区分で手続きされるよう、次の点を確認します。
会社から退職をすすめられた場合
会社から退職をすすめられたり、人員整理の対象になったりした場合は、会社都合にあたる可能性があります。退職届や退職願の文言を「一身上の都合」にそろえるよう求められても、すぐに署名しないでください。書き方しだいで、離職票の理由欄が自己都合になることがあるためです。会社都合退職として認められるケースは会社都合退職として認められるケースとはで整理しています。
病気・介護など、やむを得ない事情がある場合
心身の不調、家族の介護、通勤が難しくなる転居などで退職した場合は、自己都合でも「特定理由離職者」として扱われることがあります。当てはまるかどうかは、診断書や介護の状況が分かる書類など、事情を示す資料で判断されます。退職前に、主治医や自治体の窓口に、資料の作り方を聞いておきます。
離職票の理由欄を確認する
退職後に会社から届く離職票には、離職理由の欄があります。記載が事実と違うと感じたら、ハローワークの窓口で異議を申し立てられます。申請の前に、離職票の理由欄を必ず見てください。
もらえるお金を退職前に確認する
失業保険(基本手当)
受給資格は、離職日以前2年間に、被保険者期間が通算12か月以上あることが基本です(会社都合などでは条件が異なります)。受給できる期間は、原則として離職日の翌日から1年です。この期間内に、手続きと待機を済ませる必要があります。金額の目安は失業保険の給付額はいくらになるか計算方法で確認できます。
傷病手当金
病気やけがで働けない場合は、傷病手当金の対象になることがあります。支給期間は通算1年6か月で、退職後も続けて受け取るには、退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日に受給中か、受給条件を満たしている必要があります。退職日に出勤すると対象外になるため、退職日の決め方に注意してください。
退職金と税金
退職金は、退職所得控除が使えます。勤続20年以下は1年あたり40万円(最低80万円)、20年を超える分は1年あたり70万円が加算されます。「退職所得の受給に関する申告書」を会社に出さないと、一律20.42%が源泉徴収されます。計算の流れは退職金にかかる税金の計算方法にまとめました。
教育訓練給付
資格取得や講座の受講を考えているなら、教育訓練給付も候補になります。一般は費用の20%(上限10万円)、特定一般は40%、専門実践は最大80%です。講座が指定対象かどうか、受講前の手続きが必要かどうかは、ハローワークで確認してください。
社会保険と税金の準備
退職後は、健康保険と年金を、次のいずれかに切り替えます。
- 健康保険の任意継続(最長2年。退職日の翌日から20日以内に申請)
- 国民健康保険と国民年金への切替(退職日の翌日から14日以内)
- 家族の被扶養者になる
退職日の翌日からは、会社の健康保険証が使えません。切替が遅れると、医療費を一時的に全額負担することになる場合があります。住民税は前年の所得に課税されるため、退職した翌年も請求が来ます。生活費の試算には、この分を入れておきます。
退職前の最終チェックリスト
- 退職の理由が、事実に合った区分になるか
- 退職日が、傷病手当金・賞与・社会保険料に影響しないか
- 有給休暇の残日数と消化の予定
- 退職金の受け取り方法と、申告書の提出
- 会社から受け取る書類(離職票、源泉徴収票、年金手帳など)の発行時期
- 健康保険と年金の切替先
- 収入がない期間の生活費(住民税の分も含める)
体験談:退職前の準備で差が出た2人
ある元営業職の30代男性は、上司から「自分から辞めてほしい」と言われ、退職届を出す前にハローワークに相談しました。会社とのやり取りの記録を残して、離職票の理由欄を確認したところ、事実に合った区分で手続きが進みました。受給の開始は、自己都合の場合より早くなったそうです。
ある元事務職の40代女性は、「一身上の都合」と書かれた退職届を、そのまま会社に出しました。実際には人員削減の話が先にあったのですが、記録が残っておらず、離職票の理由は自己都合になりました。窓口で相談したものの、事情を示す資料が少なく、区分は変わらなかったと話しています。「退職届を出す前に、経緯を書面で残すべきだった」と振り返っています。
よくある質問
Q. 退職届は、いつ出すのがよいですか?
会社の就業規則に、退職の申し出の期限が書かれています。期限と、有給の消化、引き継ぎの期間をそろえて決めます。会社から退職をすすめられた場合は、署名する前に、離職理由の扱いをハローワークに確認します。
Q. 退職後すぐに転職する場合も、手続きは必要ですか?
失業保険の申請は不要でも、健康保険と年金の切替は、入社日までの空白期間があれば必要です。次の会社の入社日と、会社の保険の加入日を確認してください。
Q. 退職金がない場合は、何を優先して確認しますか?
失業保険の受給資格と、健康保険・年金の切替先、住民税の支払い見込みの3点です。収入が途切れる期間の生活費を、先に数字にします。
実際に退職前の手続きとお金の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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