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定年後に「人に頼る」練習をする

2026 9/28
生活
2026年10月30日

長年、家族を支え、会社で責任ある立場を担ってきた人ほど、「人に頼る」ことに苦手意識を持っている場合が多いものです。困っていても自分で何とかしようとし、助けを求めることを弱さのように感じてしまう。しかし定年退職後は、体力の変化や環境の変化によって、これまで一人でこなせていたことが少しずつ難しくなっていく時期でもあります。ここでは、定年後に「人に頼る」ことを練習として身につけていく意味と、具体的な始め方を紹介します。

目次

なぜ「頼れない」人ほど退職後に苦労するのか

現役時代、特に管理職や自営業として人を支える側に長くいた人は、頼られることには慣れていても、自分が頼る側に回ることには慣れていないという傾向があります。「迷惑をかけたくない」「弱みを見せたくない」という思いが、助けを求める行動にブレーキをかけてしまうのです。しかし、退職後は職場という支えがなくなり、体調の変化や生活上の困りごとに、これまでよりも一人で向き合う場面が増えます。頼る力は、年齢を重ねるほど、生活の質を左右する実用的な技術になっていきます。

ある元工場長の男性が変わったきっかけ

三十年以上工場の管理職を務めてきた六十代の男性は、退職後、庭の手入れや家電の修理まですべて自分一人でこなそうとし、体を痛めることが度々ありました。ある日、脚立から足を滑らせて軽い捻挫をしたことをきっかけに、妻から「一言頼んでくれれば近所の人に手伝ってもらえたのに」と言われ、自分がこれまで誰にも頼らずに生きてきたことに初めて気づいたといいます。それ以降、庭木の剪定など体力を使う作業は、近所の知人に声をかけて一緒に行うようにしたところ、作業自体が楽になっただけでなく、頼んだ相手との会話も増えたと話しています。

頼ることは「弱さ」ではなく「関係づくり」

人に頼るという行為は、相手に負担をかけるだけの一方的なものではありません。頼られた側は、自分が役に立てたという実感を得られることが多く、頼ることをきっかけに関係が深まる場合も少なくありません。退職後の友人関係の作り方で紹介したように、お互いに頼り頼られる関係を築いている友人同士は、単に会って話すだけの関係より、長く続きやすい傾向があります。頼ることを、相手との距離を縮める一つのきっかけとして捉え直すと、抵抗感が和らぎます。

小さなお願いから練習を始める

いきなり大きな頼みごとをするのは、頼ることに慣れていない人ほどハードルが高く感じられます。まずは「重い荷物を一緒に持ってもらえますか」「これ、教えてもらえますか」といった小さなお願いから始めることで、頼ることへの抵抗感を少しずつ和らげていけます。小さな頼みごとが積み重なることで、相手との間に自然なやり取りの流れが生まれ、次第により大きなことでも頼みやすい関係が育っていきます。

肩書きがなくなったからこそ頼りやすくなる面もある

現役時代は、立場や役職があることで、頼ることへの心理的な壁がより高くなっていた人もいます。退職後に感じる「肩書きの喪失感」との向き合い方で紹介したように、肩書きがなくなることには喪失感がある一方、一人の人間として気軽に頼み合える関係を築きやすくなるという面もあります。「元部長」ではなく「近所の人」として頼み事をする方が、相手にとっても応じやすいことが多いのです。

孤立を防ぐためにも頼る練習が必要

頼ることが苦手な人ほど、困りごとを一人で抱え込みやすく、それが孤立につながっていく傾向があります。「孤独感」との向き合い方:孤立を防ぐ小さな工夫で紹介したように、誰かに頼るという行動そのものが、人とのつながりを保つ役割を果たしています。困ったときに頼れる相手がいるかどうかは、日頃から小さな頼み事を通じて関係を育てているかどうかにかかっています。

地域の中で頼り合える関係を作る

自治会や町内会の活動に参加することは、日頃から近所の人と頼り頼られる関係を築く機会にもなります。地域とのつながりを作る:自治会・町内会に馴染むコツで紹介したように、ゴミ出しの当番や祭りの準備など、地域の活動を通じて顔なじみになった相手には、いざというときに頼み事もしやすくなります。日頃の付き合いの積み重ねが、頼れる関係の土台を作っていきます。

夫婦の間でも頼り方を見直す

長年連れ添った配偶者に対しても、頼ることが苦手な人は少なくありません。体調が悪いときに我慢して家事を続けてしまう、荷物が重くても一人で運ぼうとするなど、身近な相手にこそ頼れていないケースがよく見られます。卒婚という選択、熟年夫婦の新しい距離感で紹介したように、それぞれが自立した関係を築くことと、必要なときに素直に頼り合うことは、両立できるものです。頼ることを我慢の裏返しにせず、日々の小さな場面で素直に助けを求める姿勢が、夫婦関係の負担を分散させます。

頼られる側になったときの心構え

頼る練習をする一方で、自分が頼られたときにどう応じるかも意識しておくとよいでしょう。頼まれたことを快く引き受ける姿勢を日頃から見せていると、周囲もこちらに頼み事をしやすくなり、結果として頼り頼られる関係が自然に循環していきます。頼ることと頼られることは表裏一体であり、どちらか一方だけを意識するのではなく、両方のバランスを保つことが、長く続く人間関係の支えになります。

子どもに頼ることへの抵抗感

独立した子どもに対して、頼ることをためらう親は多くいます。「子どもの生活の負担になりたくない」という気持ちが強く働き、体調が悪くても連絡を控えてしまう人もいます。しかし、些細な用事を時々頼むことは、子どもにとっても親の様子を知る機会になり、いざというときに連絡を取り合いやすい関係を保つことにつながります。スマートフォンの操作を教えてもらう、買い物のついでに重いものを運んでもらうといった小さな頼み事は、負担というより、親子の接点を保つ役割を果たしていることも少なくありません。

体力の変化を受け入れることから始まる

頼ることへの抵抗感の根底には、「まだ自分一人でできるはずだ」という思いがあることも多くあります。しかし、六十代を過ぎると、若い頃と同じ感覚で作業を続けることが体への負担につながる場面が増えていきます。高い場所の作業や重い物の運搬など、体力的な負荷が大きい作業から優先して人の手を借りるようにすると、けがや体調不良を防ぎながら、無理なく頼る習慣を生活に組み込んでいけます。自分の体の変化を素直に認めることが、頼る練習の出発点になります。

よくある質問

Q. 頼ると相手に借りができるようで気が引けます

A. お返しは物やお金でなくても構いません。相手が困っているときに自分が力になる、感謝の言葉を伝えるといった形でも十分に釣り合いが取れます。損得を厳密に考えすぎない方が、関係は長続きします。

Q. これまで人に頼ったことがなく、何を頼めばいいか分かりません

A. 荷物を持つ、道具の使い方を教わるなど、日常のごく小さなことで構いません。小さな頼み事を重ねるうちに、自然と頼れる場面が見えてくるようになります。

Q. 頼れる相手がそもそもいません

A. まずは地域の集まりや趣味の場に顔を出し、挨拶を交わす程度の関係から少しずつ広げていくところから始まります。日頃の小さな接点が、いざというときに頼れる相手につながっていきます。

人に頼ることは、長年の習慣を変える練習が必要な行為です。小さなお願いから少しずつ始めることで、頼ることへの抵抗感は薄れていき、周囲との関係もより豊かなものになっていきます。頼り頼られる関係を、退職後の暮らしの中で少しずつ育てていきましょう。

実際に「人に頼る」練習に取り組んでいる方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。

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