定年退職後、自宅の棚を作り直したい、庭に小屋を建てたいといった思いから、日曜大工を本格的に始める人が増えている。若い頃から興味はあったものの仕事に追われて手をつけられなかったという人にとって、時間に余裕ができた退職後はまとまった作業に取り組む好機になる。ここでは道具の揃え方、木工教室や工房の活用法、費用、実際に作れるものの目安を具体的に紹介する。
まず何から始めるか
いきなり大きな家具や小屋づくりに挑戦するのではなく、まずは小さな棚や踏み台といった簡単な作品から始めるのが上達への近道だ。ホームセンターの木材加工コーナーでは、購入した木材をその場でカットしてもらえるサービスがあり、電動ノコギリを持っていなくても組み立てから始められる。基本の道具として、電動ドライバー、ノコギリ、メジャー、水平器、サンドペーパーがあれば、簡単な棚や台程度は作れるようになる。電動ドライバーは五千円から一万五千円程度、その他の基本道具一式を合わせても二万円前後で揃えられる。趣味にかける費用を含めた家計の考え方は退職後の家計簿の見直し方で紹介している。
工具の安全な使い方を学ぶ場
電動工具は便利な反面、使い方を誤るとけがにつながる。ホームセンターの中にはDIY教室を併設しているところがあり、丸ノコやインパクトドライバーの正しい使い方を実演付きで教えてくれる。自治体によっては、木工作業ができる公共の「ものづくり工房」を運営しているところもあり、専門の指導員が常駐して安全な使い方を指導してくれる。一人で見よう見まねで始めるより、こうした教室で基本を身につけてから本格的な作業に入る方が結果的に安全で早く上達する。木工全般の教室を探す一般的な方法は趣味サークルの探し方でも紹介している。
本格的な工房・教室を活用する
より大きな作品を作りたい場合は、地域の「木工房」や「ものづくり体験施設」を利用する方法がある。会員登録制の工房では、プロ仕様の電動工具や作業スペースを時間貸しで利用でき、利用料は一回千円から三千円程度が相場だ。自宅にはない大型の工具(テーブルソー、電動かんななど)を使えるため、本棚やテーブルといった大きな家具づくりにも挑戦しやすい。会員制の工房では、経験者から直接アドバイスをもらえることも多く、独学では気づきにくい木材の選び方や接合方法のコツを学べる。庭仕事とあわせて楽しむ人も多く家庭菜園の始め方もあわせて参考になる。
材料選びの基礎知識
木材にはパイン材、杉材、桐材など様々な種類があり、価格と扱いやすさ、仕上がりの雰囲気が異なる。初心者にはパイン材や杉材が加工しやすく、価格も比較的手頃で人気がある。ホームセンターの木材売り場のスタッフに用途を伝えると、適した材料を提案してくれることが多い。木目や節の入り方を見比べて選ぶ楽しみも、DIYの醍醐味の一つになっている。
始めてからの変化
ある元機械メーカー勤務の六十三歳男性は、退職後に自宅の庭に木製のウッドデッキを作ることを目標に、ホームセンターのDIY教室に通い始めた。最初は水平器の使い方も分からず、簡単な棚一つ作るのに丸一日かかったというが、半年ほど経験を積むうちに設計図を自分で描けるようになり、一年後には四畳ほどのウッドデッキを完成させたという。「現役時代は工場のラインを管理する仕事で、実際に手を動かして何かを形にすることはほとんどなかった。完成したデッキに家族でお茶を飲みに座ったとき、達成感が大きかった」と話す。何かを作り上げる時間の作り方は退職後にやりたいことリストの作り方でも取り上げている。一方で、電動工具の扱いに慣れるまでは指を挟みそうになる場面もあり、安全手袋と保護メガネを必ず着用するようになってからは事故なく作業を続けられているという。
近隣への配慮も欠かせない
電動工具を使う作業は音が出るため、集合住宅や隣家が近い戸建てでは作業時間帯への配慮が必要になる。多くの人は平日の日中や休日の昼間の数時間に限定して作業し、事前に近隣へひと声かけておくというやり方を取っている。木くずや騒音への対策として、防音マットを敷いたり、作業時間を短く区切ったりする工夫も広がっている。近隣との日頃のつきあい方については自治会になじむコツも参考になる。
設計図を描く楽しみ
本格的にDIYを続けている人の多くは、作品を作る前に自分で簡単な設計図やイメージ図を描く習慣を持っている。方眼紙に寸法を書き込みながら完成形をイメージすることで、木材の必要量や工程の順番が事前に整理でき、無駄な材料を買わずに済む。近年はパソコンやタブレットの無料設計アプリを使って立体的な完成予想図を作る人もおり、シニア向けパソコン教室で操作を学んでから活用する例も見られる。設計段階でじっくり悩む時間そのものを、作業と同じくらい楽しんでいる愛好家も多い。
資格取得という発展の仕方
DIYを続けるうちに、より専門的な技術を身につけたいと考える人も出てくる。木工技能士や日曜大工インストラクターといった民間資格・国家資格があり、通信講座や職業訓練校で学べる制度もある。資格取得までは求めなくても、ホームセンターや工房が開く上級者向け講座で、家具づくりや建具の修理といった専門的な技術を段階的に学んでいくことも可能だ。作った作品を近所の人や親戚に頼まれて作るようになり、ちょっとした副収入につながっているという例も聞かれる。
けがを防ぐための基本装備
DIY作業でのけがを防ぐには、保護メガネ、防塵マスク、作業用手袋、耳栓(電動工具使用時)の四点を揃えておくと安心だ。木くずが目に入る事故や、木材の切断時に出る粉塵を吸い込むことによる呼吸器への影響は、初心者が軽視しがちなリスクの一つになっている。作業台の高さを自分の身長に合わせて調整することも、腰への負担を減らすうえで欠かせない。長時間同じ姿勢での作業は疲労がたまりやすいため、一時間ごとに休憩を挟みながら進めるという習慣をつけている人も多い。工具は使用後に手入れをして刃を清潔に保つことで、次に使うときの安全性も高まる。作業を始める前に軍手をはめたまま回転工具に触れないなど、基本の注意事項をあらかじめリスト化しておくと、作業に集中していても事故を防ぎやすくなる。子どもや孫が遊びに来る家庭では、作業終了後に工具を必ず片付け、危険な刃物を手の届かない場所に保管する習慣も欠かせない。
よくある質問
Q. 工具を使った経験がまったくないが、それでも始められるか。
A. ホームセンターのDIY教室や公共のものづくり工房では、工具に触れたことのない人向けの入門講座を用意していることが多い。安全な持ち方から順に教えてもらえるため、未経験からでも問題なく始められる。
Q. 自宅に作業スペースがないが、それでも取り組めるか。
A. 会員制の木工房を利用すれば、自宅に作業スペースがなくても本格的な作業ができる。小さな作品であれば、ベランダや庭の一角に作業マットを敷くだけでも十分に作業できる場合がある。
Q. 何から作り始めればよいか分からない。
A. まずは自分の生活の中で「あったら便利」と感じているもの、たとえば小さな踏み台や本棚から作り始めると、完成後の実用性を実感しやすく、モチベーションを保ちやすい。
実際に定年後に日曜大工(DIY)を本格的に始めた方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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