定年退職を機に、これまで会社の健康管理から離れて自分で健康を守る意識を持つようになったという60代は多くいます。その中で見落とされがちなのが予防接種です。子どもの頃に受けたワクチンとは別に、60代以降は帯状疱疹や肺炎球菌感染症など、加齢とともに発症リスクが高まる病気への予防接種が用意されています。ここでは60代の定年退職者に向けて、受けておきたい予防接種の種類と具体的な受け方を紹介します。
帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹は、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが神経節に潜伏し、加齢や疲労、ストレスによる免疫力の低下をきっかけに再活性化して発症します。50代から発症率が上がり始め、80歳までに約3人に1人が発症するとされ、体の片側に沿って帯状に発疹と激しい痛みが現れるのが特徴です。ある元システムエンジニアの63歳男性は、退職から3か月後、脇腹にピリピリとした痛みを感じた翌日に赤い発疹が帯状に広がり、皮膚科を受診したところ帯状疱疹と診断されました。「最初は寝違えたのかと思っていたが、痛みがどんどん強くなり、発疹が出て初めて帯状疱疹だと分かった。退職で気が抜けた時期に発症するとは思わなかった」と話しています。退職後のうつ・燃え尽きサインの記事でも触れているように、退職前後は生活の変化によるストレスで免疫力が下がりやすい時期でもあります。
帯状疱疹後神経痛への注意
帯状疱疹で最も注意すべき合併症が、発疹が治った後も痛みが慢性的に残る帯状疱疹後神経痛です。60代以降で発症すると神経痛が長期化しやすく、日常生活に支障をきたすケースもあります。予防接種には水痘ワクチンを応用した生ワクチンと、遺伝子組み換えによる不活化ワクチンの2種類があり、不活化ワクチンは発症予防効果、神経痛の予防効果ともに高いとされていますが、2回接種が必要で費用も生ワクチンより高額になる傾向があります。多くの自治体では50歳以上を対象に接種費用の一部助成を行っており、居住する市区町村の保健センターや広報で対象年齢と助成額を確認できます。
肺炎球菌ワクチン
肺炎は日本人の死因の上位に入り続けており、その多くが高齢者に集中しています。肺炎球菌は肺炎の原因菌として最も頻度が高く、65歳を迎えるタイミングで定期接種として公費助成を受けられる制度が設けられています。
定期接種の対象は65歳、70歳、75歳など5歳刻みの年齢で、対象年度を逃すと自己負担での任意接種になるため、自治体からの案内はがきを見落とさないことが重要です。ある元製造業勤務の65歳男性は、定期接種の案内はがきを受け取っていたものの多忙で放置しており、期限間際に気づいてかかりつけ医で慌てて接種したといいます。「案内が届いてからも半年近く忘れていた。期限を過ぎると助成が受けられなくなると知り、慌てて予約を入れた」と振り返っています。
助成の仕組みと接種の間隔
肺炎球菌ワクチンには23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンと、13価または15価の結合型ワクチンがあり、医師と相談しながら組み合わせて接種する方法が一般的です。一度接種すると効果が5年程度持続するとされ、定期接種の対象年度に受けそびれた場合でも、内科やかかりつけ医で任意接種として受けることができます。慢性の呼吸器疾患や糖尿病、心疾患などの持病がある人は肺炎の重症化リスクが高いため、定期接種の対象年齢でなくても、かかりつけ医と相談したうえで早めの接種に踏み切る人が少なくありません。
インフルエンザワクチンと新型コロナワクチン
毎年秋から冬にかけて流行するインフルエンザについても、65歳以上は定期接種として自治体の助成を受けられます。多くの自治体で10月から12月末までが接種期間とされ、費用は1000円から2000円程度に抑えられているケースが一般的です。新型コロナワクチンについても65歳以上を対象とした定期接種の枠組みがあり、秋冬の流行時期に合わせて接種の案内が届きます。持病を抱えている場合は、複数のワクチンを同時期に接種できるかどうかをかかりつけ医に確認し、接種スケジュールを計画的に組むことが望ましいとされています。
予防接種を受ける際の実務的な流れ
定期接種を受けるには、まず居住する市区町村から送付される予診票や案内はがきを確認し、指定された医療機関に予約を入れます。かかりつけ医がない場合は、地域の保健センターに問い合わせると近隣の実施医療機関の一覧を案内してもらえます。退職を機にかかりつけ医を探し始める方は定年前の人間ドックを受けた医療機関を引き続き利用する方法も選択肢になります。持病で服薬中の薬がある場合、接種前の問診でアレルギー歴や現在の体調を伝え、接種後は激しい運動や飲酒を控えて接種部位を清潔に保つことが基本です。退職を機に会社の健康保険から国民健康保険や任意継続に切り替わっている場合、予防接種の助成制度は医療保険の種類にかかわらず居住自治体の住民であれば利用できることが多いため、健康保険の切り替えの記事とあわせて手続きを確認しておくと漏れを防げます。
費用を比較して接種計画を立てる
帯状疱疹ワクチンは自治体によって助成額に幅があり、生ワクチンは1回あたり自己負担4000円から8000円程度、不活化ワクチンは2回接種で自己負担が合計2万円から4万円程度になることが一般的です。肺炎球菌ワクチンの定期接種は自己負担2000円から4000円程度で済む自治体が多い一方、対象年齢を過ぎて任意接種になると全額自己負担で8000円前後かかります。ある元不動産会社勤務の62歳女性は、退職金の使い道を検討していた時期に、家計の見直しの一環として帯状疱疹ワクチンの接種を先延ばしにしていましたが、職場の元同僚が帯状疱疹後神経痛で半年以上痛みに苦しんだという話を聞き、不活化ワクチンの接種を決めました。「ワクチン代は決して安くないが、発症後の通院や薬代、何より神経痛が長引くつらさを考えれば、先に払っておく方が結果的に負担が少ないと感じた」と話しています。年間の予防接種にかかる費用をあらかじめ見積もり、退職後の家計の中に医療費の項目として組み込んでおくと、必要な接種を先延ばしにせずに済みます。
よくある質問
Q. 帯状疱疹ワクチンと肺炎球菌ワクチンは同時に接種できますか。
A. ワクチンの種類や医療機関の方針によって同時接種が可能な場合とそうでない場合があるため、事前にかかりつけ医に相談して接種間隔を確認する必要があります。一般的には異なる部位に接種することで同日の接種が可能とされるケースもありますが、体調や持病によって判断が変わります。
Q. 過去に水ぼうそうにかかっていない場合も帯状疱疹ワクチンは必要ですか。
A. 帯状疱疹は水ぼうそうウイルスの再活性化によって起こるため、感染歴がなければ理論上は発症しません。ただし幼少期の感染歴を正確に覚えていない人も多く、抗体検査を行うか、念のため接種しておく判断をする人もいます。かかりつけ医に相談して決めることが望ましいとされています。
Q. ワクチンを受けた後に副反応が出た場合はどうすればよいですか。
A. 接種部位の腫れや軽い発熱は一般的な反応として数日で治まることが多いですが、高熱が続く、強いアレルギー症状が出るといった場合は接種した医療機関または救急外来に速やかに連絡することが必要です。
実際に高齢者向け予防接種を受けた体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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