定年後の働き方というと、多くの人が定年後再雇用制度で同じ部署に残る道か、まったく新しい職場に転職する道の二択で考えがちだ。しかし大手企業を中心に、退職前に社内公募制度を使ってグループ会社や別部署へ移る道や、退職後にOB・OGとして人材バンクに登録し、必要なときだけ声がかかる働き方を選ぶ人も増えている。同じ会社の文化や人脈を活かしながら、新しい役割に挑戦できる点が評価されている制度だ。転職活動のようにゼロから信頼関係を築く必要がなく、退職前後の生活の変化を緩やかにできる利点もある。
社内公募制度とは何か
社内公募制度は、社内の別部署やグループ会社の求人に、通常の人事異動とは別に社員が自ら手を挙げて応募できる仕組みだ。定年が近づいた社員向けに「シニア公募枠」を設けている企業もあり、営業畑を長く歩んできた人が人事部の採用サポート業務に応募したり、製造部門の技術者が品質管理のコンサルティング業務を担う関連会社に異動したりする例がある。定年後再雇用の条件を待つのではなく、59歳や60歳の時点で自ら希望する部署に手を挙げられる点が、通常の再雇用制度との大きな違いになる。
応募のタイミングと条件
社内公募は年に1〜2回、人事部からのアナウンスをきっかけに募集がかかることが多く、応募には直属の上司の承認を必要としない「オープン制度」を採用している企業もある。募集要項には応募資格として「50歳以上」「勤続20年以上」といった条件がつくこともあり、若手向けの公募とは別枠でシニア層向けの案件が用意されている企業も見られる。書類選考のあとに面談があり、異動先の部署の責任者と直接話す機会が設けられることが一般的だ。
OB・OG採用制度(人材バンク)の仕組み
定年退職後に、元の勤務先が運営する「OB人材バンク」や「シニア人材登録制度」に登録し、必要なプロジェクトが発生したときだけ声がかかる働き方も広がっている。フルタイムでの再雇用ではなく、業務委託契約として単発のコンサルティング業務や、繁忙期の応援要員として声がかかる形態が多い。報酬は日当2万円から4万円程度、あるいは時間単価3000円から5000円程度で契約するケースがあり、月に数日だけ稼働する働き方を選べる柔軟さが特徴だ。
登録から稼働までの流れ
OB人材バンクへの登録は、退職前の面談で人事部から案内されることが多く、退職時に自分のスキルや希望する業務内容、稼働可能な日数を登録シートに記入する。案件が発生すると、人事部やOB制度の運営担当者から連絡が入り、条件が合えば業務委託契約を結ぶ流れになる。登録しているだけでは声がかからない年もあるため、退職後も年に1回程度、担当者に近況や稼働の希望を伝えておくと案件を紹介されやすくなる。
活用している人の実例
ある大手メーカーの元品質管理部長だった六十三歳男性は、定年退職の1年前に社内公募でグループ会社の技術顧問ポジションに応募し、異動が認められた。異動後は現場の品質トラブルへの助言や、若手技術者への指導が主な業務となり、定年後もそのまま契約社員として同じグループ会社に残ることができた。「同じ会社の中での異動だったので、年金や退職金の手続きに関する不安が少なく、スムーズに次のステージに移れた」と話している。
OB人材バンクを使った働き方の例
また、ある元商社勤務の六十六歳女性は、完全に退職したあとOB人材バンクに登録し、年に3〜4回、海外拠点との調整業務が発生したときだけ声がかかる働き方をしている。1案件あたり5日から10日程度の稼働で、日当3万円の業務委託契約を結んでいる。「フルタイムで働く体力はないが、昔の同僚と顔を合わせながら得意分野の仕事ができるのはありがたい」と振り返っており、年金と組み合わせた収入計画を立てやすい点も気に入っているという。稼働がない月は趣味の時間に充てられるため、生活のメリハリがつきやすいとも話している。
制度がない会社で働く場合の代替策
社内公募やOB人材バンクの制度が整っていない中小企業に勤めていた場合は、顧問・アドバイザーとして働く方法を参考に、個人で人脈を活かしたコンサルティング業務を始める道もある。また、再雇用制度を利用しながら、社内で新しい役割を希望する交渉を人事担当者に行うことで、実質的に社内公募に近い異動を実現できる場合もある。自分のスキルの棚卸しを行い、社内のどの部署でその経験が求められているかを整理しておくと、公募や異動の交渉時に説得力のある説明ができる。
制度を利用する際の注意点
社内公募で異動が決まった場合、給与体系や評価制度が異動先の部署の基準に切り替わることがあるため、事前に人事部へ条件を確認しておくことが欠かせない。OB人材バンクの契約は雇用契約ではなく業務委託契約になることが多く、社会保険の適用外になる点や、確定申告が必要になる点にも留意しておきたい。退職後の確定申告の進め方を参考に、業務委託契約で得た報酬の申告方法を事前に把握しておくと、初年度の税務処理で慌てずに済む。
再雇用制度との違いを整理する
通常の再雇用制度は、定年を迎えた社員のほぼ全員が対象となり、多くの場合は同じ部署で業務内容も大きく変わらないまま雇用形態だけが変わる仕組みだ。これに対して社内公募制度は、応募した社員だけが対象になる選抜制の仕組みであり、これまでとは異なる部署や業務に挑戦できる点が特徴になる。再雇用後にやりがいを失う悩みを抱える人の中には、同じ業務の継続に物足りなさを感じているケースも多く、そうした人にとって社内公募は新しい役割を得る手段になり得る。一方で、応募したからといって必ず異動が認められるわけではなく、競争率が高い人気部署では書類選考の時点で不採用になることもある。
公募に応募する際の準備
社内公募に応募する際は、異動先の部署でどのような貢献ができるかを具体的にまとめた志望動機書の提出を求められることが多い。これまでの実績を数字で示す、例えば「担当していた製品ラインの不良率を3年間で2%から0.5%まで改善した」といった具体的な成果を盛り込むと、選考担当者に伝わりやすくなる。社内の異動であっても、外部への転職活動と同じように、自分の強みを言語化する準備が欠かせない。過去に異動が認められた社員の面談記録を参考資料として配布している人事部もあり、事前に相談してみると準備の進め方の目安がつかめる。
よくある質問
Q. 社内公募制度がある会社かどうかはどう確認できますか。
A. 就業規則や社内のイントラネットに公募制度の案内が掲載されていることが多い。人事部に直接問い合わせて、シニア層向けの公募枠や異動実績があるかを確認するのが確実だ。
Q. OB人材バンクへの登録に費用はかかりますか。
A. 企業が運営するOB人材バンクは登録無料であることがほとんどで、退職時の面談時に案内されることが多い。案内がない場合は、退職前に人事部へ制度の有無を尋ねておくとよい。
Q. 業務委託契約と雇用契約ではどちらが有利ですか。
A. 雇用契約は社会保険の適用や労働時間の保護があるが、業務委託契約は稼働日数や報酬額を自分で調整しやすい利点がある。働き方の希望や収入の安定性をどう優先するかによって選び方は変わる。
実際に社内公募制度やOB採用制度を活用した元会社員の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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