定年退職を迎えても、同じ会社で働き続けられる「再雇用制度」を利用する人は年々増えています。慣れた職場で働き続けられる安心感がある一方、給与や役割の変化に戸惑う人も少なくありません。制度の仕組みと、利用する際に知っておきたいポイントを整理します。
再雇用制度とは
高年齢者雇用安定法により、企業には65歳までの雇用確保が義務付けられており、その手段の一つが再雇用制度です。定年でいったん退職扱いとなり、新たに契約社員や嘱託社員として再雇用される形が一般的です。勤務先は変わらないものの、雇用形態や労働条件は大きく変わることが多く、退職金の扱いも定年時に一度精算されるのが通常です。
企業によっては65歳を超えても継続雇用する制度を設けているところもあり、対象年齢や条件は会社ごとに就業規則で定められています。自分の会社の制度がどうなっているか、早めに人事部で確認しておく必要があります。
給与はどれくらい下がるのか
再雇用後の給与は、定年前の6〜7割程度になるケースが多いとされています。役職手当がなくなる、賞与の支給基準が変わるなど、給与体系そのものが変更されることも珍しくありません。一方で、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」を利用すれば、賃金の低下分の一部が補填される場合もあります。給与水準がどう変わるかは、再雇用の条件提示を受けた際に必ず確認しましょう。
仕事内容や役割の変化
再雇用後は、これまでの役職から外れ、一般職としての勤務になることが一般的です。部下を持たない、意思決定の場から外れるといった変化に、プライドの面で戸惑いを感じる人もいます。「給料は下がっても、責任も軽くなる」と前向きに捉える人がいる一方、「今までの経験が活かせない」と不満を感じる人もおり、受け止め方は人それぞれです。事前に、再雇用後にどんな業務を担当するのか、具体的にイメージしておくと心構えがしやすくなります。
再雇用のメリット
最大のメリットは、新しい職場に一から慣れる必要がなく、これまでの人間関係や仕事の進め方を活かせる点です。収入の見通しも立てやすく、社会保険にも引き続き加入できるため、健康保険や年金の手続きで悩む必要もありません。健康保険の切り替え:任意継続と国民健康保険、どちらを選ぶかで紹介したような手続きの負担がない点は、大きな安心材料といえます。
再雇用のデメリット・注意点
給与水準の低下に加え、契約が1年ごとの更新制になっていることが多く、長期的な雇用の安心感は定年前より薄れます。また、これまで部下だった人が上司になるなど、立場の変化に精神的な負担を感じる人もいます。再雇用を選ぶ場合は、給与や待遇だけでなく、こうした人間関係の変化についても心の準備をしておくと安心です。
他の選択肢との比較
再雇用は、収入の安定と環境の継続性を重視する人に向いていますが、新しい環境で心機一転したい人には、再就職や独立といった道の方が合うこともあります。退職後の生き方、主な5つの選択肢を比較するも参考にしながら、自分が何を優先したいかを考えてみましょう。年金との併用を考える場合は、給与額によって年金の一部が支給停止になる「在職老齢年金」の仕組みも確認しておく必要があります。
在職老齢年金との関係
再雇用で厚生年金に加入しながら働く場合、給与と年金の合計額が一定の基準額(2026年4月の制度改正で月65万円に引き上げ)を超えると、超えた分の半額が年金から差し引かれる仕組みがあります。再雇用後の給与水準であれば影響を受けないケースも多いですが、念のため年金事務所で自分の場合の試算をしてもらうと安心です。年金の繰り上げ・繰り下げ受給、どちらがいいかもあわせて確認しておきましょう。
再雇用の条件交渉はできるのか
提示された条件に納得がいかない場合、会社側とある程度の交渉ができることもあります。特に専門性の高い業務を担ってきた人であれば、給与水準や勤務日数について相談の余地が残っていることも珍しくありません。ただし、交渉の余地がどれくらいあるかは会社の制度設計によって大きく異なるため、過度な期待はせず、まずは人事部に「条件について相談したい」と伝えてみることから始めるとよいでしょう。
再雇用後のモチベーションを保つ工夫
給与や役職が下がることで、仕事への意欲が下がってしまう人も少なくありません。しかし、責任範囲が軽くなった分、これまで手が回らなかった後輩の育成や、専門知識を活かした相談役としての役割に、やりがいを見出す人もいます。「給与が下がった分、無理をしない働き方ができる」と前向きに捉え直すことで、再雇用後の生活の満足度が変わってくることもあります。
再雇用を選ばない場合の準備
再雇用を利用せず、定年を機に完全に退職する道を選ぶ人もいます。その場合は、退職金の受け取り方や健康保険の切り替えなど、通常の退職と同じ手続きが必要になります。退職前にやることリスト:辞める前にチェックすべき10項目も参考に、早めに準備を進めておきましょう。
再雇用と他の選択肢を比べてみる
再雇用が唯一の選択肢というわけではありません。シルバー人材センターの登録方法と仕事の探し方のように、フルタイムより負担の軽い働き方を選ぶ人もいます。迷ったときは「収入」「勤務日数」「人間関係を一から築く気力があるか」の3点について、今の自分が一番譲れないものはどれかを紙に書き出して順位をつけてみると、選ぶべき道がはっきりしてきます。
再雇用中でも次の準備は進めておく
再雇用は多くの場合65歳までの期間限定の制度です。その後の生き方についても、再雇用で働きながら少しずつ考えておくと、次の移行がスムーズになります。退職前にスキルの棚卸しをする方法を使って、再雇用期間中に得た経験もあわせて整理しておくとよいでしょう。
家族への影響も考えておく
再雇用で働き続ける場合、収入や勤務日数が定年前とは変わるため、家計や生活リズムへの影響も家族と共有しておくとよいでしょう。特に、これまでフルタイムだった勤務が週4日や時短勤務に変わる場合、家にいる時間が増えることで、熟年離婚・夫婦関係の変化にどう向き合うかで触れたような生活リズムの変化が生じることもあります。再雇用を選ぶ場合も、完全リタイアと同じように、事前の家族との対話は欠かせません。
よくある質問
Q. 再雇用を断ることはできる?
A. 制度上、再雇用を利用するかどうかは本人の意思によります。条件に納得できない場合は、再就職や他の選択肢を検討することも可能です。ただし、会社側の提示条件が法律の基準を満たしていない場合は、労働基準監督署などに相談できることもあります。
Q. 再雇用の契約更新を断られることはある?
A. 契約社員としての再雇用は、契約期間ごとの更新が前提になっていることが多く、業績や本人の健康状態によっては更新されないこともあります。契約内容や更新の条件は、契約を結ぶ前にしっかり確認しておきましょう。
Q. 退職金は再雇用後にもう一度もらえる?
A. 多くの場合、退職金は定年時の一度きりで、再雇用後の勤務に対して新たに退職金が発生することは少ないです。会社によって制度が異なるため、再雇用の条件提示の際に確認しておくと安心です。
再雇用制度は、収入と環境の安定を保ちながら働き続けられる現実的な選択肢です。給与や役割の変化を事前によく理解した上で、自分に合った働き方を選びましょう。
実際に再雇用制度を利用しながら働き続けている方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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