現役時代に積み上げてきた専門知識や現場経験を、企業の社員研修や新人教育の場で単発〜数回の講師として教える働き方がある。特定の企業と月々の顧問料を受け取って継続的に助言する顧問契約とは異なり、研修講師は一回から数回の登壇で一つのテーマを完結させる仕事が中心になる。単発の仕事であるぶん体力的な負担を自分で調整しやすく、月に一、二本のペースで無理なく続けている人も多い。ここでは研修講師としての仕事の見つけ方、必要なスキル、顧問契約との違いを具体的に見ていく。
企業研修講師とはどんな仕事か
企業研修講師は、企業や自治体、業界団体などが開く社員研修、新人研修、管理職研修などに招かれ、決められたテーマについて講義や演習を行う仕事だ。製造業の品質管理、営業の交渉術、労務管理、安全衛生、ハラスメント防止研修など、扱われるテーマは幅広く、現役時代にその分野で実務経験を積んだ人材が講師として求められる。一回あたりの登壇時間は数十分から一日がかりのものまであり、単発で終わる仕事もあれば、同じ企業から年に数回呼ばれる関係が続くこともある。
顧問契約との違い
企業の顧問として働く場合は、特定の企業と月単位や年単位の契約を結び、経営や実務上の相談に継続的に応じる形が一般的で、毎月決まった顧問料を受け取る代わりに、いつ相談が来るかわからない不確実さや、企業側の求めに応じて随時対応する負担がある。これに対して研修講師は、依頼された一回、あるいは数回の登壇で仕事が完結するため、スケジュールを自分で管理しやすい。体調や家庭の事情に合わせて依頼を受ける本数を調整できる点は、顧問契約にはない研修講師ならではの利点と言える。
研修講師の仕事の見つけ方
研修講師として仕事を始める入口はいくつかある。最も手をつけやすいのは、研修会社や人材育成会社への講師登録だ。多くの研修会社が、実務経験を持つ人材をデータベースに登録し、企業からの依頼に応じてマッチングする仕組みを運営している。登録の際には、自分の専門分野、指導可能なテーマ、過去の実務経験を具体的に記入する書類の提出や、面談を経て採用されることが一般的だ。
知人からの紹介
現役時代の取引先や同業者からの紹介で研修講師の仕事が始まるケースも多い。「うちの新人に品質管理の基本を教えてほしい」といった声が、退職後しばらくしてから声がかかることも珍しくない。名刺交換をした相手や、現役時代に指導的な立場にあった部下、取引先の担当者との関係を退職後も維持しておくことが、思わぬ形で仕事につながる。業界団体や商工会議所が開く研修事業の講師募集に応じる方法もあり、こうした団体は地域の中小企業向けの研修を数多く企画しているため、実務経験のある人材を歓迎する傾向がある。
ある元品質管理部長のケース
ある元大手部品メーカー品質管理部長の六十四歳男性は、定年退職後に研修会社二社へ講師登録した。最初の半年間は依頼がほとんどなかったが、登録時に提出した経歴書を見た取引先企業の担当者から、新人向けの品質管理研修を直接依頼されたのがきっかけとなり、以後は年に六回から八回のペースで単発の研修を担当するようになった。一回あたりの謝礼は数万円程度で、月に換算すると多い月で十万円ほどになる。本人は「毎月決まった収入ではないが、体力的にきつい月は依頼を断ることができる。現役時代の知識がそのまま役に立つのがありがたい」と話している。
講師として必要なスキル
研修講師には、専門知識そのものに加えて、それをわかりやすく伝える技術が求められる。実務経験が豊富でも、話し方が一方的で受講者が理解できなければ研修としての評価は上がらない。資料作りでは、専門用語を避けて図解を多用し、受講者の業務に即した具体例を盛り込むことが重要になる。パワーポイントなどのスライド作成ソフトの基本操作は最低限身につけておく必要があり、苦手な場合は研修会社が用意するテンプレートを活用する方法もある。
話し方と場の作り方
講義形式であっても、一方的に話し続けるのではなく、受講者に質問を投げかけたり、グループで演習をさせたりと、参加型の要素を織り交ぜることで理解度が上がる。声の大きさや話す速度、間の取り方といった基本的な話し方の技術は、地域の商工会議所や生涯学習センターが開く話し方講座で練習できる。初めて登壇する前に、家族や知人を相手にリハーサルを行い、時間配分を確認しておくと本番での緊張を和らげられる。
単発の仕事だからこそ調整しやすい体力面の負担
研修講師の仕事は、依頼が来るたびに内容と日程を確認し、引き受けるかどうかを自分で判断できる。長時間立ちっぱなしの登壇や、遠方への出張を伴う研修は体力的な負担が大きいため、近隣の企業向けの半日研修だけを引き受けるといった調整をしている講師もいる。顧問契約のように継続的な対応義務を負わないため、体調が優れない時期には依頼を見送り、余裕のある時期にまとめて登壇するという働き方も選びやすい。
契約と支払いをめぐる注意点
研修会社を通じて仕事を受ける場合は、謝礼の金額や交通費の扱い、当日の欠席時の対応などを事前に書面で確認しておくと後のトラブルを避けやすい。企業から直接依頼を受ける場合は、口約束だけで進めず、簡単な発注書や業務委託契約書を取り交わすよう依頼元に求めることが望ましい。源泉徴収の対象になる講師料も多いため、支払明細を受け取ったら年間の合計額を記録しておき、確定申告の際にまとめて処理できるようにしておく。
ある元銀行支店長のケース
ある元地方銀行支店長の六十二歳女性は、定年退職後に金融機関出身者向けの人材紹介会社から声をかけられ、中小企業向けの資金繰り研修の講師を務めるようになった。最初の依頼は半日で三万円程度の謝礼だったが、受講者アンケートの評価が高かったことから、同じ研修会社経由で継続的に依頼を受けるようになり、現在は年に十回前後、合計で年間三十万円ほどの収入を得ている。本人は「銀行員時代は自分の知識が特別だと思っていなかったが、外に出て教える立場になって初めて需要があることに気づいた」と語る。研修のない月は完全に自分の時間として使えることも、この働き方を続ける理由の一つだという。
関連する働き方との比較
特定の企業に継続的に助言する形を望むなら顧問として働く記事、個人向けに教える形を試したいならオンライン講師・スキルシェアサービスで教える副業の記事も参考になる。研修講師以外の副業を幅広く検討したい場合は小さく始める副業の記事、資格が必要な分野で教えたい場合は定年後の資格取得の記事も役立つ。人材登録を通じた再就職を検討する場合はシルバー人材センターへの登録の記事も参照してほしい。
企業研修講師としての活動は単発の仕事が中心になるため、収入にばらつきが出やすい。退職前に退職前に使い切りたい会社の福利厚生(カフェテリアポイント・保養所・自己啓発補助)を確認しておくと、見落としがちな制度を使い切りやすくなる。退職のタイミングを調整する場合は傷病手当金を受給中の退職タイミング調整も参考になる。研修講師以外の短時間の仕事としては定年後にできる選挙の投票所スタッフ 臨時職員の仕事内容と日当、人に頼ることへの抵抗がある場合は定年後に「人に頼る」練習をするも参考にしてほしい。
よくある質問
Q. 研修講師の報酬相場はどれくらいですか。
A. テーマや登壇時間、依頼元によって幅が大きく一概には言えないが、半日程度の研修で数万円という水準が一つの目安になる。研修会社経由の場合は手数料が差し引かれるため、直接依頼を受ける場合より謝礼が低めになる傾向がある。
Q. 話すことに自信がなくても始められますか。
A. 話し方は経験を重ねるうちに改善されていくもので、最初から流暢である必要はない。むしろ現場経験に基づいた具体的な話ができるかどうかのほうが受講者の評価に直結するため、話し方よりも内容の準備に時間をかけるほうが結果につながりやすい。
Q. 会社員時代の資料をそのまま研修に使ってもよいですか。
A. 前職の社内資料や機密情報を含む資料をそのまま流用すると、秘密保持義務や著作権の問題に触れる可能性がある。数値や社名を伏せる、一般化した事例に置き換えるなど、退職後に新たに作り直した資料を使う必要がある。
実際に企業研修講師として経験を教える副業を始めた方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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