定年退職後、言葉と向き合う時間を作りたいという人に選ばれているのが俳句・短歌の会だ。五七五や五七五七七という限られた文字数の中に季節の情景や心情を込める作業は、道具も費用もほとんどかからず、体力に自信がない人でも始めやすい。全国の公民館や文化センターには初心者向けの句会・歌会が数多くあり、六十代からの入会者が中心という会も珍しくない。ここでは会の探し方、費用、句会の実際の進め方、続けるコツを具体的に紹介する。
俳句と短歌、それぞれの特徴
俳句は五七五の十七音に季語を一つ入れて詠むのが基本形で、限られた文字数の中で情景を切り取る面白さがある。結社(俳句の流派のようなもの)に所属して指導を受ける本格的な形式から、公民館の初心者講座まで幅の広さがあり、初めての人は地域の句会から入るのが一般的だ。短歌は五七五七七の三十一音で、俳句より字数が多い分、自分の心情や日常の出来事をより自由に詠み込める。歌会では一人一首を持ち寄り、参加者同士で感想を述べ合う形式が多く、俳句の句会よりも会話が長く続く傾向がある。どちらも未経験から始める人がほとんどで、最初の数か月は「季語を覚える」「字数を数える」といった基本を練習しながら、少しずつ自分らしい詠み方を見つけていく。
結社と自由参加の会の違い
結社に入ると、月刊の会誌に自分の作品が掲載される機会があり、選者からの添削を受けられる。会費は月二千円から五千円程度に加えて、会誌の発行費が別途かかることが多い。一方、公民館や図書館が主催する自由参加の句会・歌会は、会費が一回数百円程度と安く、気軽に出入りできる。まずは自由参加の会に何度か顔を出し、もっと本格的に学びたいと感じたら結社への入会を考えるという順番が一般的だ。会の探し方全般は趣味サークルの探し方にまとめている。
句会・歌会の実際の流れ
句会は、参加者が事前に詠んできた句を無記名で提出し、全員でどの句が良いかを選び合う「互選」という形式が中心になる。自分の句が選ばれる楽しみと、他人の句を読み解く面白さの両方を味わえるのが句会の醍醐味だ。歌会も同様に、持ち寄った短歌について参加者同士で感想を述べ合い、最後に講師や主宰者が総評を加える。初めて参加する人には、会の進行役が丁寧にルールを説明してくれることがほとんどで、事前に句や歌を用意できなくても見学として参加できる会も多い。図書館が主催する朗読・読書関連の活動と兼ねて参加する人もおり図書館ボランティア・読み聞かせ活動もあわせて読まれている。
季語や歳時記の学び方
俳句を始めると必ず出会うのが季語と歳時記だ。歳時記は季語を季節ごとに分類した辞典のようなもので、書店で二千円から三千円程度で購入できる。最初は歳時記を眺めているだけでも、日本の四季の言葉の豊かさに気づかされる。散歩の途中で見かけた花や虫、行事の名前が実は季語になっていたという発見も多く、季語を通じて身の回りの季節の変化に敏感になったという声もよく聞かれる。庭で草花を育てながら季語のヒントを探すという人もおり観葉植物・ガーデニングの楽しみ方も参考になる。
始めてからの変化
ある元公務員の六十六歳男性は、退職後に地元の図書館が主催する俳句講座に参加した。最初の数か月は季語の意味も分からず、講師の添削でほとんど原型をとどめない句になることもあったというが、一年ほど続けるうちに、散歩中に見かけた景色を自然と五七五の形で考える癖がついたという。「会社では報告書を書くのが仕事だったが、俳句は逆に何も説明しない。読み手の想像に委ねる分、言葉を選ぶ緊張感がある」と話す。句会で自分の句が選ばれたときの喜びが、通い続ける原動力になっているそうだ。退職後にやりたいことを整理する際の考え方は退職後にやりたいことリストの作り方でも紹介している。一方で、最初のうちは他の参加者の句と比べて落ち込むこともあったというが、進行役から「上手さより、自分だけの視点を大事にすればいい」と声をかけられ、気持ちが楽になったという。
作品をまとめるという楽しみ
長く続けている人の中には、一年分の句や歌をまとめて句集・歌集として自費出版する人もいる。文集印刷サービスを使えば、数十部程度なら数万円で製本でき、家族や句会仲間に配る記念になる。長年の作品を振り返ることで、自分自身の心境の変化に気づくきっかけにもなっている。自分史をまとめる取り組みと組み合わせる人もおり自分史を出版する方法もあわせて参考になる。
新聞・雑誌の投稿欄という入り口
句会に通う以外にも、新聞や俳句雑誌の投句欄に応募するという楽しみ方がある。多くの地方紙には読者投稿の俳句・短歌欄があり、掲載されれば新聞に自分の名前と作品が載る。応募は無料か切手代程度で済むため、まず投稿から始めて反応を確かめてから句会への参加を考えるという順番でも構わない。実際、地方紙の投句欄に何年も投稿を続け、常連として名前を覚えられるようになった六十代の愛好家も多い。掲載された作品を切り抜いてスクラップブックにまとめている人もおり、投稿を続けること自体が生活の張り合いになっている。
吟行という外出の楽しみ
句会によっては、実際に名所旧跡や公園に出かけて句や歌を詠む「吟行」という活動を定期的に開いている。歩きながら景色を見て、その場で言葉を練るという作業は、屋内での作句とは違った発見がある。吟行の後にはお茶を飲みながら詠んだ句を発表し合う時間が設けられることが多く、外出と創作、交流が一度に楽しめる機会として人気が高い。体力に応じて歩く距離が短いコースを選べる会もあり、無理なく参加できるよう配慮されている。
文房具や筆記具にこだわる楽しみ
俳句・短歌は特別な道具を必要としないが、続けるうちに専用の句帳や万年筆にこだわり始める人も多い。和紙を使った手作りの句帳を扱う文具店や、書道用の筆で作品を清書して掛け軸のように飾る愛好家もいる。こうした道具選びも含めて、費用をかけずに始められることと、こだわればいくらでも深められることの両方が、俳句・短歌という趣味の続けやすさにつながっている。パソコンやスマートフォンの俳句アプリで作句を記録し、季語検索機能を使って表現の幅を広げている人もいる。散歩や外出の合間にふと浮かんだ言葉をメモしておく習慣ができると、句会の日に慌てて題材を探す必要がなくなり、日常そのものが作句のための時間に変わっていく。
よくある質問
Q. 国語が苦手だったが、それでも俳句や短歌を詠めるか。
A. 俳句・短歌に必要なのは文法の知識よりも、日常の中で目にしたものを言葉にしてみようとする姿勢だ。句会・歌会の進行役や講師が言葉選びのコツを丁寧に教えてくれるため、国語の得意・不得意はあまり関係がない。
Q. 人前で自分の作品を発表するのが恥ずかしいが。
A. 多くの句会は無記名で作品を提出する形式のため、誰の句か分からない状態で意見を交換する。慣れないうちは選ぶ側だけに徹し、自分の句の提出は少しずつ増やしていくという参加の仕方もできる。
Q. 俳句と短歌、どちらから始めるべきか。
A. 短い言葉でまとめる練習をしたいなら俳句、もう少し自由に心情を詠みたいなら短歌が向いている。体験参加できる会が多いため、両方に一度ずつ参加してみて、詠んでいて楽しいと感じた方を選ぶとよい。
実際に定年後に俳句・短歌の会へ参加した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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