住宅ローンを組んだまま定年退職を迎える人は少なくありません。住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は所得税から一定額を差し引ける優遇制度ですが、退職して収入の形が変わると、控除の受け方や効果そのものが在職中とは大きく変わります。年末調整が使えなくなること、退職金で繰上げ返済すると控除額が減ること、そもそも所得税が少なければ控除の恩恵自体が薄れることなど、確認しておきたいポイントが複数あります。
住宅ローン控除の基本の仕組み
住宅ローン控除は、年末時点の住宅ローン残高の0.7%(新築の省エネ基準適合住宅などの場合)を所得税額から直接差し引ける制度で、控除期間は新築で原則13年、既存住宅の取得では10年です。年末残高の上限は住宅の種類によって2,000万円から4,500万円程度まで幅があり、上限に応じて年間の控除額が決まります。控除を初めて受ける年は確定申告が必須ですが、2年目以降は会社員であれば年末調整で継続適用を受けられるのが通常の流れです。
退職すると年末調整が使えなくなる
年末調整は給与の支払者(勤務先)が行う手続きのため、退職すると当然ながらその年末調整を受けられなくなります。退職した年もそれ以降の年も、住宅ローン控除を継続して受けるには自分で確定申告をする必要があります。年金収入だけになった場合でも、公的年金等の源泉徴収票をもとに確定申告書を作成し、住宅ローンの残高証明書(金融機関から毎年10月頃に送付される「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」)を添付して税務署に提出します。
退職金で繰上げ返済すると控除が減る理由
住宅ローン控除は年末時点の借入残高に応じて計算されるため、退職金の一部でローンを繰上げ返済すると、その年以降の年末残高が下がり、控除額もそれに比例して減少します。特に一括返済(完済)をした場合は、その時点で控除の対象となる残高がなくなるため、控除は終了します。繰上げ返済によって将来の利息負担が減るメリットと、住宅ローン控除で戻ってくる税額が減るデメリットを比較して判断する必要があります。繰上げ返済の判断材料については住宅ローンの繰上げ返済を判断するポイントで詳しく解説しています。
ある六十歳男性のケース
ある六十歳で早期退職した元銀行員男性は、住宅ローンの残高が800万円ほど残っており、退職金の一部を使って一括返済することにしました。返済前は年間20万円弱の住宅ローン控除を受けていましたが、完済した翌年からは控除がゼロになり、所得税の負担が想定より増えたことに驚いたといいます。利息負担の軽減効果と控除の喪失分を比較しないまま返済を決めてしまったことを後から悔やんでおり、「繰上げ返済の前に、控除がいくら残っているか確認すればよかった」と振り返っています。
所得税が少ないと控除の恩恵が薄れる
住宅ローン控除は所得税額から差し引く仕組みのため、もともとの所得税額が少なければ控除しきれない部分が発生します。控除しきれなかった分は一定の上限内で翌年度の住民税から差し引かれますが、それでも控除枠をすべて使い切れないことがあります。年金収入のみで所得税額自体が数万円程度にとどまる人にとっては、住宅ローン控除の理論上の上限額と、実際に恩恵を受けられる金額に大きな差が出ることがあります。退職前に再雇用などで一定の給与収入がある間は控除を有効に使いやすく、完全に年金生活になってからは効果が薄れやすいという傾向を踏まえておくとよいでしょう。
団体信用生命保険による完済の場合
住宅ローンを組む際に加入する団体信用生命保険(団信)は、契約者が死亡または高度障害状態になった場合にローン残高が保険金で弁済される仕組みです。契約者本人が団信によって完済となった場合、その時点で住宅ローン控除も終了しますが、これは本人の相続人にとっての話であり、退職とは直接関係のない場面です。混同しないよう、控除が終了するタイミングは「完済した年の年末残高がゼロになった年」であることを押さえておく必要があります。
退職所得や一時的な所得との合算にも注意
退職した年に退職金や企業年金の一時金を受け取ると、住宅ローン控除の判定に使う所得税額とは別枠で退職所得の税金が計算されるため、通常は住宅ローン控除の計算そのものに直接影響しません。ただし退職金を年金形式(企業年金の年金払い)で受け取っている場合は雑所得として合算されるため、所得税額が想定より増え、結果として住宅ローン控除を使い切れる余地が広がることもあります。退職金の受け取り方を一時金にするか年金形式にするかを選ぶ際は、住宅ローン控除の残り期間や残高もあわせて確認しておくと、税負担の見通しが立てやすくなります。
控除期間が残っているのに完済してしまった場合
控除期間の途中で全額繰上げ返済をしてしまうと、その年以降は控除を受けられなくなります。すでに提出した確定申告や年末調整の内容を修正することはできませんが、完済した年の前年分までに受けた控除はそのまま有効です。控除期間がまだ数年残っている場合は、毎月の返済額を維持しながら手元資金に余裕を持たせる方法や、控除期間が終わってから完済する方法など、返済のタイミングを検討する余地があります。
確定申告の手続きと必要書類
2年目以降の住宅ローン控除を確定申告で受ける場合、金融機関発行の年末残高証明書のほか、公的年金等の源泉徴収票、本人確認書類が必要です。初年度に必要だった登記事項証明書や売買契約書の写しは、2年目以降は原則不要になります。e-Taxを利用すれば自宅のパソコンやスマートフォンから提出でき、還付金の振込も書面提出より早く処理される傾向があります。e-Taxの利用方法はe-Taxで確定申告をする方法、退職後の確定申告全般は退職後の確定申告のやり方で解説しています。
住まいの資金計画全体を見渡す
住宅ローンが残った状態で退職を迎える場合は、控除額の増減だけでなく、退職金の使い道全体のバランスを考える必要があります。持ち家の有無を踏まえた資金計画については持ち家の有無別の資金計画、固定費全体の見直しは見えにくい固定費の点検も参考になります。
よくある質問
Q. 再雇用で働き続ける場合、年末調整で控除を受けられますか。
A. 再雇用先の会社で給与所得者として年末調整の対象になっていれば、通常どおり年末調整で住宅ローン控除の継続適用を受けられます。雇用形態が嘱託やパートでも、給与所得として年末調整の対象であれば扱いは同じです。
Q. 一部だけ繰上げ返済した場合も控除額は減りますか。
A. 一部繰上げ返済でも、その分だけ年末時点の借入残高が減るため、翌年以降の控除額はその残高に応じて減少します。ただし完済しない限り控除自体は継続するため、控除期間が終わる前に一部返済するかどうかは、利息軽減効果と控除減少額を比較して判断することになります。
Q. 住宅ローン控除の残り期間を確認する方法はありますか。
A. 住宅を取得した際の「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」の控えや、確定申告書の控えに適用開始年が記載されています。手元にない場合は、税務署に相談すれば申告履歴から適用期間を確認できます。
実際に退職後の住宅ローン控除の継続や繰上げ返済を判断した体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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