退職後の資金計画は、持ち家があるかどうかで組み立て方そのものが変わります。同じ退職金・年金額であっても、住居費が固定資産税と修繕費だけで済む人と、毎月の家賃を払い続ける人とでは、老後の資金の使い方の優先順位がまったく違ってきます。それぞれの立場で何を先に確認すべきかを整理します。
持ち家がある場合:資産としての維持費を織り込む
住宅ローンを完済している、あるいは退職金で完済した持ち家世帯は、毎月の住居費負担が固定資産税・都市計画税と維持費に限られるため、家計の見通しは立てやすい傾向にあります。ただし油断できないのが、建物の老朽化に伴う修繕費です。戸建てであれば外壁や屋根の修繕に十数年ごとに百万円単位の費用がかかることがあり、マンションであれば大規模修繕・管理費の上昇への備えが欠かせません。持ち家があるからといって住居費を「ゼロ」と考えず、年間の維持費を見積もっておくことが大切です。目安として、固定資産税・都市計画税は評価額によりますが年間10〜20万円程度、火災保険・地震保険の更新費用も含めると、持ち家であっても年間数十万円の固定的な住居関連費がかかることを念頭に置いておきましょう。
住宅ローンが残っている場合:退職金での完済を検討する
退職時点で住宅ローンが残っている場合、住宅ローンの一部繰り上げ返済 vs 全額完済で紹介したように、退職金の一部を返済に充てるかどうかの判断が資金計画の出発点になります。完済すれば毎月の返済がなくなり安心感は増しますが、その分手元の流動資金が減るというトレードオフがあります。金利水準や残債の金額によって最適な判断は変わるため、金融機関に返済シミュレーションを依頼した上で決めるとよいでしょう。
ある元公務員の男性は、退職時に住宅ローンの残債が800万円ほど残っていましたが、退職金の全額を返済に充てるのではなく、半分を返済、残りを生活防衛資金として手元に残す選択をしました。「全額返済していたら安心感はあったと思うが、直後に給湯器の故障や車の買い替えが重なり、手元資金を残しておいて助かった」と振り返っています。完済によって精神的な安心を得るか、流動性を優先するかは、その後のライフイベントの想定次第で変わってきます。
賃貸の場合:家賃を「一生続く固定費」として計画に組み込む
賃貸で暮らしている、あるいは今後も賃貸を続ける予定の世帯にとって最大のポイントは、家賃が生涯にわたって続く固定費だという点です。持ち家世帯が「一度払えば終わる」修繕費を負担するのに対し、賃貸世帯は毎月一定額の支出が続くため、年金収入に占める家賃の割合を早い段階から意識しておく必要があります。高齢になってからの賃貸契約は、保証人の確保や入居審査で不利になることもあるため、長く住み続けられる物件を早めに見極めておくことも、賃貸ならではの検討事項です。目安として、年金収入に占める家賃の割合が3割を超えてくると、他の生活費を圧迫しやすくなるといわれています。今の家賃水準が将来の年金額に対してどの程度の割合になるかを、早めに計算しておくとよいでしょう。
賃貸から持ち家への切り替えを検討する場合
定年を機に、退職金を頭金にして初めて住宅購入を検討する人もいます。この場合、住宅ローンを組めるかどうかは年齢と年収の両方に左右されるため、現役中よりも借入条件が厳しくなる可能性を踏まえておく必要があります。一括での現金購入が可能な場合でも、手元の流動資金が大きく減ることになるため、購入後の生活費に十分な余裕が残るかを慎重にシミュレーションしてから判断することが求められます。老後資金の取り崩し方で紹介したような取り崩し計画とあわせて、住宅購入によって手元資金がどこまで減るのかを具体的な数字で確認しておくと、購入後の生活に無理が出にくくなります。
実家の扱いも資金計画に影響する
親から実家を相続する見込みがある場合、その扱いも住まいの計画に関わってきます。実家の空き家問題、今からできる対策で紹介したように、実家を将来の住まいとして活用するのか、売却するのか、あるいは空き家のまま維持コストだけがかかる状態になるのかによって、老後の資金計画は大きく変わります。ある60代の女性は、地方の実家を相続した後、自分の持ち家を売却してそちらに移り住むことで、住居費を大幅に圧縮できたといいます。実家の存在を早い段階で資金計画に組み込んでおくと、選択肢が広がります。
保険の見直しも持ち家・賃貸で視点が異なる
持ち家の場合、建物自体を守る火災保険・地震保険と、家財を守る家財保険の両方を見直す必要があります。一方、賃貸の場合は建物の保険は大家側が負担するため、自分で見直すべきは家財保険と、退去時の原状回復に備えた借家人賠償責任保険が中心になります。持ち家か賃貸かによって、見直すべき保険の範囲そのものが変わる点も押さえておきたいポイントです。
よくある質問
Q. 持ち家と賃貸、老後の安心感が高いのはどちら?
A. 一概には言えません。持ち家は住居費が抑えられる一方、修繕費という予測しにくい支出があります。賃貸は毎月の支出が明確な分、家賃が生涯続く点を織り込んだ資金計画が必要です。どちらもメリット・デメリットを具体的な金額で比較することが判断の近道です。
Q. 持ち家のリフォーム費用はどう見積もればいい?
A. 築年数や建物の構造によって目安は変わりますが、戸建てであれば10〜15年ごとに外壁・屋根で100万円前後、水回りの全面リフォームで100〜200万円程度を見込んでおくと、急な出費に慌てずに済みます。複数の業者から見積もりを取り、早めに資金を準備しておくとよいでしょう。
Q. 賃貸で高齢になってからの住み替えが不安です
A. 高齢者の入居を受け入れやすいUR賃貸住宅や、自治体が連携する高齢者向け住宅あっせん制度を利用する方法があります。早めに情報収集をしておき、今の住まいに何らかの問題が出る前に、次の住まいの候補を確認しておくと安心です。
Q. マンションに住んでいる場合、戸建てと同じように考えていい?
A. 基本的な考え方は同じですが、マンションの場合は個人の判断だけで修繕を進められない点が異なります。管理組合が積み立てる修繕積立金の状況や、将来的な値上げの可能性を早めに確認し、自分の資金計画にも反映させておくとよいでしょう。
持ち家か賃貸かによって、老後の資金計画で優先すべき項目はまったく異なります。自分の住まいの状況を出発点に、具体的な数字で計画を立てていきましょう。退職後の家計簿・支出の見直し方もあわせて確認し、住居費を含めた家計全体のバランスを一度整理しておくと、将来の見通しがぐっとはっきりします。
実際に持ち家・賃貸それぞれの立場で退職後の資金計画を立てた方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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