自分の葬儀を、自分の意思であらかじめ決めておく「生前予約」や「生前契約」を耳にする機会が増えました。葬儀費用の平均は全国的に見ても100万円前後とされ、決して小さな出費ではありません。退職を機に自分の葬儀について考え始める六十代もいますが、生前予約には利点だけでなく、支払い方法や契約先の選び方によってはリスクも伴います。仕組みと注意点を整理します。
葬儀の生前契約・積立プランの仕組み
葬儀社が提供する生前契約は、大きく分けて「生前予約」と「生前契約(生前予約に加えて費用の前払いを伴うもの)」があります。生前予約は、希望する葬儀の形式や規模、参列者の範囲などを事前に葬儀社と相談し、記録しておくだけのサービスで、費用の支払いは発生時点で行われるのが一般的です。一方、生前契約は、葬儀費用の全部または一部を生前に前払いし、積立や信託の形で確保しておく仕組みです。月々数千円から積み立てる定額プランを提供する葬儀社もあり、まとまった費用を一度に用意する必要がないという理由で選ばれています。
費用の前払いに伴うリスク
生前契約で最も注意すべき点は、前払いした費用を、実際に葬儀が行われるまで葬儀社が適切に管理できているかどうかです。過去には、生前契約を扱っていた葬儀社が経営破綻し、前払いした費用が戻らなかった事例も報道されています。前払い金を自社の運転資金と分けて信託会社や金融機関に外部管理させている葬儀社もあれば、そうした仕組みを持たない事業者もあるため、契約前に前払い金の管理方法を書面で確認することが欠かせません。消費者庁や国民生活センターにも、葬儀の前払いに関する相談が寄せられており、契約内容をよく理解しないまま契約してしまうトラブルが後を絶ちません。契約書に「前払い金の返還」に関する条項がどう書かれているかは、特に念入りに確認しておきたい部分です。
互助会との違い
生前契約と混同されやすい仕組みに「冠婚葬祭互助会」があります。互助会は、月々数千円を長期間積み立て、葬儀や結婚式の際にその積立金を利用できる会員制の仕組みで、経済産業大臣への届出が義務付けられている点が特徴です。一方、葬儀社独自の生前契約は互助会のような法規制の枠組みがない場合もあり、事業者ごとに管理体制が異なります。互助会は積立金の半分程度を保全することが法律で義務付けられていますが、独自の生前契約にはこうした保全義務が一律には課されていないため、契約先がどちらの仕組みかを理解した上で選ぶ必要があります。
生前予約と生前契約、どちらを選ぶか
費用の前払いに不安がある場合、まずは費用を伴わない「生前予約」から始めるという選択肢もあります。生前予約であれば、希望する葬儀の形式や参列者の範囲を葬儀社に伝え、見積もりを取っておくだけで済み、前払いに伴うリスクを負わずに準備を進められます。実際に葬儀が必要になった時点で契約すればよいため、複数の葬儀社を比較する余地も残せます。一方で、費用をあらかじめ確保しておきたい、家族に金銭的な負担をかけたくないという事情がある場合は、前払い型の生前契約を選ぶ人もいます。どちらが向いているかは、家族の経済状況や、費用の管理をどこまで自分で見届けたいかによって変わります。
実例:元公務員の六十代女性のケース
ある元公務員の六十代女性は、夫を看取った経験から、自分の葬儀で子どもに負担をかけたくないと考え、地元の葬儀社で生前契約を結びました。契約前に3社から見積もりを取り、前払い金が信託銀行で管理される仕組みになっている葬儀社を選定。家族葬プランで契約金額は80万円、月々1万円の積立で7年かけて支払う予定だといいます。「見積もりを比較して、値段だけでなく前払い金の管理方法まで確認したことで、安心して契約できた」と振り返っています。
契約前に確認しておきたいこと
生前契約を検討する際は、次の点を書面で確認しておくと契約後のトラブルを避けやすくなります。前払い金の管理方法(自社管理か、信託・保全があるか)、途中解約時の返金の有無と金額、契約後に葬儀社が事業を続けられなくなった場合の対応、希望する葬儀内容がどこまで具体的に反映されるかの4点です。契約内容に不明な点がある場合、その場で即決せず、地域の消費生活センターに事前相談した上で契約する人もいます。
家族との事前の話し合いの重要性
生前契約を結んでいても、本人が亡くなった後に契約の存在を家族が知らなければ意味がありません。家族との事前の話し合いを通じて、契約先の葬儀社名、契約内容、連絡先を共有しておくことが欠かせません。契約書のコピーの保管場所や担当者の連絡先はエンディングノートに記載しておくと、いざというとき家族が慌てずに連絡できます。また、葬儀の形式だけでなく、その後の納骨先についても方針を決めておくと、家族の判断の負担が減ります。納骨先の選び方はお墓の選び方:継承墓・樹木葬・納骨堂など新しい供養の形で詳しく紹介しています。
葬儀費用と老後資金の関係
生前契約で積み立てる費用は、老後の生活費全体の中に組み込んで考える必要があります。老後資金シミュレーターを使って生活費や医療費の見通しを立てた上で、葬儀費用の積立額を決めると、無理のある契約を避けやすくなります。また、本人が亡くなった後に遺族が受け取れる遺族年金の仕組みも理解しておくと、葬儀費用や当面の生活費をどう賄うか、家族全体で見通しを立てやすくなります。
相談先の選び方
葬儀社選びに迷う場合、地元の葬儀社数社から見積もりを取るだけでなく、終活全般の相談を受け付ける終活カウンセラーのような民間資格者に、葬儀の形式や予算の考え方について話を聞く方法もあります。自治体によっては、消費生活センターが葬儀関連の契約トラブルについての相談窓口を設けている場合もあるため、契約前に一度目を通しておくと安心材料が増えます。市区町村役場の高齢福祉担当窓口でも、地域の葬儀事情や公的な補助制度について案内を受けられることがあります。
よくある質問
Q. 生前契約を結んだ葬儀社以外で葬儀を行うことはできますか
契約内容によりますが、多くの生前契約は解約手続きを行えば他の葬儀社に変更することが可能です。ただし解約時に返金される金額が契約金額を下回る場合があるため、契約時に解約条件を確認しておくことが重要です。
Q. 互助会と葬儀社の生前契約、どちらを選べばよいですか
互助会は法律に基づく保全義務があり、全国に窓口があるため利用のしやすさが特徴です。一方、葬儀社独自の生前契約は、希望する葬儀内容をより具体的に反映できる場合があります。どちらも一長一短があるため、複数の事業者から資料を取り寄せ、保全の仕組みと解約条件を比較した上で決める人が多いようです。
Q. 生前契約をしていなくても、葬儀の希望を残すことはできますか
生前契約を結ばなくても、希望する葬儀の形式や規模、宗教・宗派の有無、呼んでほしい人の範囲などをエンディングノートに書き残すことは可能です。費用の前払いはせず、希望だけを伝えておくという選択をする人も少なくありません。喪主を務める家族が判断に迷わないよう、菩提寺の有無や戒名についての希望まで書き添えておく人もいます。
実際に葬儀の生前予約・生前契約の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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