会社を辞めて独立すると、これまで会社の法務部門や上司が確認してくれていた契約内容を、自分一人で判断しなければならない場面が増えます。フリーランスとしてクライアントと契約書を結ぶ際、どこを確認しておけば後のトラブルを避けられるのか分からず、曖昧な条件のまま契約してしまう人も少なくありません。この記事では独立後に結ぶ契約書で特に注意しておきたいポイントを解説します。
契約書で最初に確認すべき項目
業務内容と範囲の明確化
契約書でまず確認したいのは、業務内容がどこまで含まれるかという「業務範囲」の記載です。「ホームページ制作」という項目だけが書かれていて、修正対応の回数や公開後の運用サポートが含まれるかどうかが明記されていないと、後から「これも契約内に入っているはず」と言われるトラブルにつながりやすくなります。業務範囲は、具体的な作業項目と、それ以外の追加作業が発生した場合の扱いまで記載しておくことが欠かせません。
報酬の金額・支払い時期・支払い方法
報酬額だけでなく、支払いのタイミングと方法も契約書に明記する必要があります。「検収後30日以内」「月末締め翌月末払い」など、支払い条件が具体的に書かれていないと、納品してもなかなか報酬が支払われないという事態が起こり得ます。特に独立直後は資金繰りに余裕がないことが多いため、支払いサイト(納品から支払いまでの期間)は事前にしっかり確認しておく必要があります。
下請法・フリーランス新法が関わるケース
個人事業主やフリーランスが企業から業務委託を受ける場合、取引の内容や発注者の規模によって「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」や、フリーランスの取引適正化を目的とした法律の対象になることがあります。これらの法律では、発注者が業務委託の内容を記載した書面を交付する義務や、報酬の支払期日に関するルールが定められています。対象になるかどうかは取引の形態によって異なるため、契約前に発注者の規模や業務内容を確認しておくと安心です。
口頭だけの約束で業務を始めてしまうと、報酬未払いや業務範囲の認識違いが起きた際に証拠が残らず、交渉が難しくなります。簡単な業務でも契約書や発注書を交わす習慣をつけておきましょう。
体験談:契約書の有無で結果が分かれた2人
元広告制作会社勤務の30代男性Iさんは、独立後の最初の契約で業務範囲と修正回数の上限を契約書に明記しておきました。「クライアントから想定以上の修正を求められた際も、契約書の記載を示して追加費用の交渉ができました」と話します。一方、元人事担当の40代女性Jさんは、知人からの依頼ということで契約書を交わさずに業務を始めてしまいました。「報酬の支払い時期が曖昧なまま進めてしまい、納品後2か月以上支払いが遅れても催促しづらい状況になりました」と振り返っています。
秘密保持・知的財産権の取り扱い
クライアントの業務情報を扱う契約では、秘密保持(NDA)に関する条項も重要です。業務上知り得た情報の取り扱い範囲や、契約終了後も秘密保持義務が続く期間が明記されているかを確認しておく必要があります。また、制作物の著作権や知的財産権がクライアントと自分のどちらに帰属するかも、契約書で明確にしておきたい項目です。著作権がすべてクライアントに譲渡される契約内容になっている場合、自分の作品をポートフォリオとして公開できない可能性もあるため、事前に確認しておくことが欠かせません。
契約書を自分で作る際のポイント
個人事業主と法人のどちらで独立するかによって、契約書に記載する事業者名や屋号の表記も変わってきます。個人事業主の場合は屋号と個人名を併記するケースが多く、法人の場合は会社名と代表者名を記載します。屋号をどう決めるか迷う場合は屋号の決め方と開業届への書き方も参考になります。契約書のテンプレートはインターネット上でも多く公開されていますが、業務内容に合わせて条項を調整する作業は欠かせません。
契約トラブルは資金計画にも影響する
報酬の支払いが遅れたり、追加作業分の費用が支払われなかったりすると、独立直後の資金繰りに直接響いてきます。退職金を独立資金に充てている場合でも、予定していた報酬が入ってこないと生活費や事業資金の計画が崩れやすくなります。契約書で支払い条件を明確にしておくことは、単なる形式的な手続きではなく、独立後の資金管理そのものに直結する作業です。独立直前に資金計画を立てる際の考え方は独立前に準備すべき資金計画の立て方、補助金や融資による資金確保の方法は独立資金を補助金・融資で確保する方法でも解説しています。
確定申告にも関わる契約書の保管
契約書や発注書、請求書は、確定申告の際に売上の根拠資料としても使われます。税務調査が入った場合に取引内容を説明する資料にもなるため、契約書は紙・データのどちらであっても、一定期間保存しておく必要があります。保存期間は帳簿や書類の種類によって異なるため、国税庁の資料で確認しておくと安心です。
契約が決まるまでの仕事の確保
独立直後は、契約書の整備と同時に、仕事そのものをどう確保するかも大きな課題になります。独立直後に仕事を確保する具体的な方法も合わせて確認しておくと、契約交渉の際にも落ち着いて条件を提示しやすくなります。また、独立後は国民健康保険や国民年金の負担も発生するため、独立後の国民健康保険・国民年金の負担額も契約金額を決める際の参考になります。
よくある質問
契約書を結ばずに業務を始めてしまった場合、後から契約書を作れますか
業務開始後であっても、業務が完了する前であれば契約書を作成して双方で確認することは可能です。ただし、すでに合意していた内容と契約書の記載内容にずれがあると、新たなトラブルの原因になりかねません。業務を始める前に、最低限の条件だけでも書面やメールで確認しておくことが望ましいです。
契約書の内容に納得できない場合、どこに相談できますか
契約内容に疑問がある場合は、フリーランス向けの相談窓口として、厚生労働省が設置している「フリーランス・トラブル110番」や、各地の弁護士会が実施する法律相談を利用できます。確定申告や税金に関する契約内容については、税理士に確認する方法もあります。
クライアントから急に契約を解除された場合はどうなりますか
契約期間中に発注者側の都合で一方的に契約が解除された場合、契約書に解除に関する条項があれば、それに基づいて違約金や既に行った作業分の報酬を請求できる可能性があります。解除条項が契約書に記載されていない場合は、民法上の規定に基づいて交渉することになりますが、証拠となる契約書やメールのやり取りが残っていることが交渉を進めるうえで重要になります。
契約書に収入印紙は必要ですか
契約の種類や金額によっては、契約書に印紙税がかかる場合があります。どの契約書に印紙が必要になるかは契約の形態や記載金額によって異なるため、国税庁の印紙税に関する資料や税務署で確認しておくと、後から印紙税の不足を指摘されるリスクを避けられます。
複数のクライアントと契約する場合、気をつける点はありますか
フリーランスとして複数のクライアントと契約する場合、それぞれの契約で業務範囲や稼働時間、専属契約の有無に関する条項が重複していないかを確認しておく必要があります。一部の契約には「競合する業務を他社で行わない」といった競業避止義務が含まれる場合もあり、他のクライアントとの契約内容と矛盾しないよう事前にすり合わせておくことが欠かせません。
実際に独立後の契約書トラブルを経験した人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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