退職後の生活設計を考えるとき、自分の年金や退職金には目が向いても、「配偶者に先立たれた場合、自分の年金はどうなるのか」まで考えている人は多くありません。しかし遺族年金は、夫婦のどちらかが亡くなった後の生活を支える重要な制度です。仕組みと受給条件を、今のうちに整理しておきましょう。
遺族年金には2種類ある
遺族年金は、亡くなった人がどの年金制度に加入していたかによって、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」に分かれます。遺族基礎年金は主に子どものいる配偶者や子どもが対象で、支給要件がやや厳しめです。一方、遺族厚生年金は、会社員や公務員として厚生年金に加入していた人が亡くなった場合に、配偶者などの遺族に支給される年金で、退職後の夫婦にとってはこちらがより関わりの深い制度になります。
遺族厚生年金を受け取れる人の範囲
遺族厚生年金は、亡くなった人に生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母の順に優先順位が定められています。配偶者が受け取る場合、妻には年齢の制限はありませんが、夫が受け取る場合は原則55歳以上であることが条件になるなど、男女で扱いが異なる点も知っておく必要があります。細かい要件は個々の家庭状況によって変わるため、心配な場合は年金事務所で確認しておくと安心です。
受け取れる金額の目安
遺族厚生年金の金額は、亡くなった人が受け取るはずだった老齢厚生年金の4分の3が目安とされています。ただし、実際の計算は加入期間や標準報酬額によって細かく変わるため、正確な金額は年金事務所で試算してもらうのが確実です。年金の繰り上げ・繰り下げ受給、どちらがいいかで紹介したように、公的年金の受け取り方全体を考える際は、遺族年金の見込み額もあわせて把握しておくと、より現実的な資金計画が立てられます。
自分の老齢年金との関係
65歳以降、自分自身の老齢厚生年金を受け取れる場合、遺族厚生年金とどちらを優先するかを選ぶ、あるいは一定のルールで組み合わせて受け取る仕組みになっています。両方を単純に合算して受け取れるわけではない点に注意が必要です。「配偶者が亡くなったら遺族年金と自分の年金の両方がまるまる入る」と誤解している人も多いため、正確な仕組みを早めに理解しておくことが、老後の資金計画のズレを防ぐことにつながります。
共働き世帯・単身者が知っておきたいこと
近年増えている共働き世帯では、夫婦どちらもある程度の厚生年金加入期間があるため、遺族年金の計算も一世代前とは状況が異なることがあります。また、子どもがいない、あるいは単身者の場合は、遺族基礎年金の対象外になるなど、家族構成によって受け取れる遺族年金の種類が変わってきます。自分たちの家族構成に照らして、どんな制度が当てはまるのかを一度確認しておきましょう。
遺族年金だけで生活できるとは限らない
遺族年金は生活の支えにはなりますが、それだけで従来の生活水準を維持できるとは限りません。退職後の収入シミュレーションの作り方を参考に、どちらかが先に亡くなった場合の収支も、あらかじめ一つのシナリオとして試算しておくと安心です。特に、住宅ローンや保険料など、世帯単位で発生している固定費が、片方の年金だけでどこまで賄えるのかを把握しておくことが大切です。
生命保険との役割分担を考える
遺族年金だけで不安が残る部分は、民間の生命保険で補うという考え方もあります。生命保険・医療保険の見直しタイミングで紹介したように、退職を機に保険を見直す際は、遺族年金でどこまでカバーされるのかを踏まえた上で、過不足のない死亡保障を検討することが、無駄な保険料を払わないためのポイントになります。
手続きは早めの相談がカギ
実際に配偶者が亡くなった場合、遺族年金の請求手続きは年金事務所や街角の年金相談センターで行います。必要書類は戸籍謄本や住民票、死亡診断書の写しなど多岐にわたるため、悲しみの中で手続きに追われて負担が大きくなることもあります。事前に大まかな流れだけでも知っておくことで、いざというときに落ち着いて対応しやすくなります。
請求手続きには時効(死亡日の翌日から原則5年)があるため、悲しみが落ち着いてから手続きしようと先延ばしにしすぎないよう注意が必要です。必要書類のリストは年金事務所のホームページでも確認できるため、余裕のあるうちに一度目を通しておくと、いざというときの負担を減らせます。
中高齢寡婦加算という上乗せ制度
夫が亡くなった際、妻が40歳から65歳になるまでの間、遺族厚生年金に一定額が上乗せされる「中高齢寡婦加算」という制度もあります。子どもがすでに独立しているなど遺族基礎年金の対象にならない世帯にとって、この加算は生活を支える重要な役割を果たします。対象になるかどうかは亡くなった夫の年金加入期間などの条件によって変わるため、年金事務所での試算の際にあわせて確認しておくとよいでしょう。
共働き夫婦が今からできる備え
共働きで双方に厚生年金の加入期間がある場合、どちらが先に亡くなっても遺族厚生年金の対象になり得ます。「うちは共働きだから大丈夫」と漠然と考えるのではなく、夫婦それぞれの年金加入記録(ねんきん定期便)を見せ合い、どちらの遺族年金がどの程度の金額になりそうかを一度確認しておきましょう。想定より少ない金額だった場合は、貯蓄や生命保険で補う計画を早めに立てられます。
ひとり親世帯・子どもがいる場合の注意点
子どもがいる世帯で配偶者が亡くなった場合、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受け取れる可能性があります。ただし、遺族基礎年金は子どもが18歳になった年度末(障害がある場合は20歳)で支給が終了するなど、年齢に応じた制度上の区切りがあります。子どもの教育費がかかる時期と年金の支給期間を照らし合わせ、不足しそうな部分を早めに把握しておくことが、家計の見通しを立てる上で重要です。
よくある質問
Q. 事実婚のパートナーでも遺族年金を受け取れる?
A. 一定の条件を満たす事実婚関係であれば、遺族年金の対象になる場合があります。ただし証明のための書類が必要になることが多いため、心配な場合は早めに年金事務所に相談しておきましょう。
Q. 再婚したら遺族年金はどうなる?
A. 遺族年金を受け取っている人が再婚すると、原則としてその受給権は失われます。再婚を検討する際は、年金への影響もあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
Q. 遺族年金には税金がかかる?
A. 遺族年金は非課税所得として扱われるため、所得税や住民税はかかりません。ただし、他の所得と合算して国民健康保険料の算定に影響することがあるかどうかは、自治体によって扱いが異なるため確認しておくと安心です。
Q. 中高齢寡婦加算は自分から申請しないともらえない?
A. 遺族厚生年金の請求手続きの際に、あわせて審査されるのが一般的です。ただし該当するかどうかの判断は個別の記録に基づくため、条件に心当たりがある場合は、請求時に年金事務所の窓口で確認しながら進めるとよいでしょう。
遺族年金は、考えたくないテーマではありますが、知っているかどうかで老後の安心感が大きく変わります。夫婦でそれぞれの年金の見込みを共有しながら、無理のない資金計画を立てておきましょう。
実際に遺族年金について調べた・受給した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


コメント