実家のお墓を継いだものの、自分たちは遠方に住んでいて、お墓参りも年に一度がやっと。そんな状況から「墓じまい」を考え始める六十代は少なくありません。墓じまいには行政手続きと費用がからみ、寺院や親族との関係も絡むため、何から手をつければよいか迷う人が多いのが実情です。ここでは手順と費用相場を具体的に整理します。
墓じまいとは何か、なぜ今検討する人が増えているのか
墓じまいとは、今あるお墓を撤去し、遺骨を別の場所へ移す(改葬する)ことを指します。少子化や子世代の都市部への移住が進み、地方の墓地を管理し続けることが難しくなった家庭が増えたことが背景にあります。総務省や厚生労働省の統計でも、改葬件数はここ十数年で増加傾向にあり、年間十数万件規模で推移しています。墓の継承者がいない、あるいは継承者に管理の負担を残したくないという理由から、自分の代で整理を決める人が目立ちます。
墓じまいの具体的な手順
1. 親族と墓地管理者への相談
まず動く前に、親族全員に墓じまいの意向を伝える段階が欠かせません。特に本家筋や年長の親族には事前の相談なしに進めると後々の対立につながりやすいため、電話や手紙だけでなく、可能であれば直接会って話す機会を持つことが望まれます。あわせて墓地の管理者(寺院や霊園事務所)にも早い段階で連絡し、離檀や改葬の意向を伝えます。家族との事前の話し合いを丁寧に進めておくことが、後の手続き全体をスムーズにします。
2. 離檀の手続きと離檀料
寺院墓地の場合、檀家をやめる「離檀」の手続きが必要になります。離檀料に法的な決まりはありませんが、鎌倉新書が実施している「改葬・墓じまいに関する実態調査」など業界団体の調査でも、相場としては3万円から20万円程度とされ、寺院によっては「お布施」名目でこれまでの管理へのお礼として渡します。まれに高額な離檀料を求められるトラブルも報告されており、金額に納得できない場合は、寺院と直接押し問答するよりも、地域の消費生活センターや行政書士に相談して状況を整理する人もいます。
3. 行政手続き(改葬許可申請)
遺骨を別の場所に移すには、現在の墓がある市区町村役場への「改葬許可申請」が必須です。申請には、現在の墓地管理者が発行する「埋葬証明書」と、移転先の管理者が発行する「受入証明書」が必要になります。申請手数料は自治体により異なりますが、数百円から千円程度のところが多く、申請後に発行される「改葬許可証」を移転先に提出して初めて納骨が可能になります。
4. 新しい受け入れ先の確保
改葬先としては、永代供養墓や合祀墓、樹木葬、納骨堂などが選ばれています。継承者を必要としない供養方法を選ぶ家庭が増えており、どの形式が自分たちに合うかはお墓の選び方:継承墓・樹木葬・納骨堂など新しい供養の形で詳しく比較しています。受け入れ先が決まっていないと改葬許可申請自体が進められないため、墓じまいを決めた段階で並行して探し始める必要があります。
5. 閉眼供養と墓石の解体・撤去
遺骨を取り出す前に、僧侶に読経してもらう「閉眼供養(魂抜き)」を行うのが一般的です。その後、石材店に依頼して墓石を解体・撤去し、更地にして墓地管理者に返還します。寺院墓地の場合、指定の石材店以外に依頼できないケースもあるため、事前に確認が必要です。
墓じまいの費用相場
墓じまい全体でかかる費用は、墓石の大きさや改葬先によって幅がありますが、鎌倉新書の「改葬・墓じまいに関する実態調査」など複数の実態調査からも、目安は以下の通りとされています。
離檀料:3万円〜20万円程度。墓石の解体・撤去費用:1平方メートルあたり8万円〜15万円が目安で、区画全体では20万円〜50万円程度になることが多いとされます。行政手数料:数百円〜数千円。新しい受け入れ先の費用は、合祀墓であれば10万円前後から、永代供養墓で20万円〜60万円程度、樹木葬で20万円〜80万円程度が相場です。これらを合計すると、墓じまい全体で数十万円から100万円前後かかるケースが多く見られます。
墓じまいと相続・税金の関係
お墓や仏壇といった祭祀財産は、預貯金や不動産のような相続財産とは扱いが異なり、相続税の課税対象にはなりません。ただし、墓じまいにかかった費用は喪主や祭祀承継者が個人で負担するのが一般的で、相続財産から差し引けるわけではない点には注意が必要です。財産全体の整理を進める中で墓じまいの費用も見込んでおくと、相続や生前贈与の計画を立てる際に資金の見通しが立てやすくなります。
実例:元銀行員の六十代男性のケース
ある元銀行員の六十代男性は、実家の墓が地方にあり、自分の子ども世代には管理を引き継がせたくないという思いから、退職を機に墓じまいを決めました。まず兄弟姉妹に相談し、次に菩提寺へ連絡。離檀料として15万円を納め、改葬先は自宅から近い霊園の永代供養墓を選びました。改葬許可申請から墓石の解体、新しい納骨先への納骨まで、全体で約4か月、費用は合計で60万円ほどかかったといいます。「早めに親族へ相談したことで、大きな反対もなく進められた」と振り返っています。
トラブルを避けるために気をつけたいこと
墓じまいでよく起きるトラブルは、親族間の意見の食い違いと、寺院との離檀料をめぐる交渉です。親族には決定事項として伝えるのではなく、検討の早い段階から情報を共有し、意見を聞く機会を設けることが摩擦を減らします。離檀料が相場から大きく外れると感じた場合は、寺院と直接対立するのではなく、地域の消費生活センターや、改葬手続きに詳しい行政書士に間に入ってもらう方法もあります。相続税の申告と課税の仕組みと同様、墓や仏壇といった祭祀財産の扱いにも一定のルールがあるため、財産全体の整理とあわせてエンディングノートに方針を記録しておく家庭も増えています。
墓じまいを検討し始めるのに適したタイミング
墓じまいは思い立ってすぐに完了する手続きではなく、親族への相談から改葬先の確保、行政手続き、解体工事まで含めると、早くても3か月、親族間の調整に時間がかかる場合は1年近くかかることもあります。定年退職を迎えて時間の余裕ができたタイミングや、お盆・お彼岸で親族が集まる機会に話を切り出す人が多いようです。判断や交渉に迷う場面が出てきた際は、寺院や霊園の窓口だけでなく、改葬手続きに詳しい行政書士や、市区町村役場の戸籍・住民課で案内を受けられる場合もあります。終活カウンセラーのように、墓じまいを含む終活全般の相談を受け付ける民間資格者に話を聞く選択肢もあります。
よくある質問
Q. 改葬許可申請は自分で行えますか
市区町村役場の窓口で必要書類をそろえれば、本人が申請することは可能です。埋葬証明書と受入証明書の取得にやや時間がかかる場合があるため、余裕を持って進める人が多いようです。手続きが煩雑に感じる場合は、行政書士に代行を依頼することもできます。
Q. 離檀料を払わないと納骨させてもらえないのでしょうか
離檀料の支払いは法律上の義務ではなく、寺院が埋葬証明書の発行を拒否することは原則としてできません。ただし現実には話し合いがこじれるケースもあるため、金額に疑問がある場合は早い段階で消費生活センターなどに相談し、記録を残しながら交渉を進める人もいます。
Q. 墓じまい後、遺骨はすべて新しい場所に移さなければなりませんか
手元供養として一部の遺骨を自宅に残す選択をする家庭もあります。ただし焼骨を自宅の庭などに埋葬することは法律で制限されているため、屋外への埋葬を考える場合は事前に自治体へ確認する必要があります。
実際に墓じまいを経験した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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