「夜中に何度も呼吸が止まっていると妻に言われた」「朝起きても疲れが取れていない」。定年退職後にこうした指摘を受けて初めて睡眠時無呼吸症候群の存在を知る60代は少なくありません。日本呼吸器学会の推計では、睡眠時無呼吸症候群の患者数は国内で200万人を超えるとされ、そのうち治療を受けているのは一部にとどまります。加齢や体重増加によって発症リスクが高まる病気であり、放置すると高血圧や心筋梗塞、脳卒中のリスクを高めることも分かっています。日中の眠気や倦怠感は貧血・慢性疲労の記事で紹介している症状と重なる部分も多いため、あわせて確認しておくと原因の切り分けがしやすくなります。ここでは60代の定年退職者に向けて、いびきと睡眠時無呼吸症候群の見分け方と具体的な対策を紹介します。
単なるいびきと睡眠時無呼吸症候群の違い
いびきは睡眠中に上気道が狭くなり、空気の通り道が振動することで生じる音です。単純ないびきであれば健康への直接的な害は少ないとされていますが、いびきの途中で呼吸が10秒以上止まる状態が1時間に5回以上繰り返される場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。ある元運送業の63歳男性は、長年いびきを指摘されていたものの気にせず過ごしていましたが、退職後に同居する娘から「呼吸が止まっている瞬間がある」と指摘され、呼吸器内科を受診したところ、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を示す無呼吸低呼吸指数(AHI)が32という重度の睡眠時無呼吸症候群と診断されました。「日中の眠気は年齢のせいだと思っていたが、運転中に信号待ちで意識が飛びそうになったことが何度かあり、指摘されて初めて怖くなった」と振り返っています。
睡眠時無呼吸症候群のリスク要因
肥満は睡眠時無呼吸症候群の最大のリスク要因で、首や喉まわりに脂肪がつくことで気道が狭くなりやすくなります。加えて、顎が小さい、扁桃腺が大きい、加齢による喉の筋肉の緩みといった要因も発症に関わります。日本人は欧米人に比べて肥満の程度が軽くても顎の骨格の影響で発症しやすい傾向があるとされ、体格だけで判断せず、いびきや日中の眠気といった症状があれば検査を検討する必要があります。喉まわりの変化については声の変化・喉のケアの記事でも触れているため、加齢による喉の筋力低下が気になる方は参考にしてください。
自宅でできるセルフチェック
エプワース眠気尺度と呼ばれる質問票は、座って読書をしている時、テレビを見ている時、会議中など日常のさまざまな場面でどの程度眠くなるかを点数化するセルフチェック方法で、多くの呼吸器内科やクリニックのウェブサイトで公開されています。合計点が11点以上の場合、日中の過度な眠気があると判定され、睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑う目安になります。また、同居する家族からいびきの大きさや呼吸が止まる瞬間の有無を確認してもらうことも、一人暮らしでは気づきにくい症状を把握する具体的な方法です。近年はスマートフォンのアプリで睡眠中のいびきや体動を記録できるものもあり、受診前の参考データとして活用する人も増えています。睡眠リズムの記事で紹介している生活リズムの整え方と合わせて実践すると、検査を受けるかどうかの判断材料が増えます。
呼吸器内科・睡眠外来での検査と治療
簡易検査と精密検査
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まず自宅で行える簡易検査キットを使い、指先にセンサーを取り付けて一晩の呼吸状態や血中酸素濃度を測定します。簡易検査で異常が見つかった場合、入院して脳波や呼吸、心電図を同時に記録する精密検査(ポリソムノグラフィー)を行い、無呼吸低呼吸指数を正確に算出して重症度を判定します。
CPAP療法という標準的な治療
中等度以上と診断された場合、CPAP(持続陽圧呼吸療法)と呼ばれる治療が標準的です。就寝時に鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を広げた状態に保つことで無呼吸を防ぎます。装着に慣れるまで違和感を訴える人もいますが、多くの利用者が数週間で慣れ、日中の眠気や倦怠感が改善したと実感しています。治療は健康保険が適用され、月1回の通院で機器のレンタル料を含めて自己負担額はおおむね5000円前後です。軽度の場合はマウスピースによる下顎前方牽引装置が用いられることもあり、重症度や顎の形状に応じて歯科と連携した治療が選択されます。
生活習慣による改善と予防
肥満が原因となっている場合、体重を5〜10%減らすだけでも無呼吸低呼吸指数が改善するという報告があります。退職後の運動習慣づくりで紹介している継続しやすい運動を取り入れると、減量と睡眠の質改善の両方に役立ちます。就寝前の飲酒は喉の筋肉を緩めていびきを悪化させるため、寝る3時間前までに切り上げることが対策になります。仰向けで寝ると舌が喉の奥に落ち込みやすいため、横向きで寝る習慣をつけることや、抱き枕を使って横向きの姿勢を保つといった工夫も、軽度のいびき対策として実践しやすい方法です。禁煙も気道の炎症を抑えるうえで効果があり、禁煙外来の利用を検討する人もいます。
放置した場合のリスクと家族への影響
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、慢性的な酸素不足によって高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳卒中のリスクが健常者と比べて数倍高まるとされています。日中の集中力低下や眠気は、車の運転中の事故につながる危険もあり、実際に高速道路での居眠り運転事故の背景に未治療の睡眠時無呼吸症候群が指摘される例もあります。また、大きないびきは同居する配偶者の睡眠の質にも影響し、夫婦で寝室を分けるきっかけになることもあるため、本人だけでなく家族の生活の質にも関わる問題として捉えることが必要です。
夫婦で寝室を分けた末にたどり着いた治療
ある元銀行員の66歳女性の夫は、長年のいびきに加えて退職後は体重が増え、呼吸が止まる時間も長くなっていました。妻は眠れない日が続いたため、やむを得ず寝室を分けたものの、夫の健康状態そのものが心配になり、地域の呼吸器内科での受診を強く勧めたといいます。簡易検査の結果、無呼吸低呼吸指数は28で中等度の睡眠時無呼吸症候群と診断され、CPAP治療を開始しました。夫は「マスクをつけて寝ることに最初は抵抗があったが、装着した翌朝から頭がすっきりして、日中の眠気がまったく違うことに驚いた」と話しており、治療開始から3か月後には妻と同じ寝室に戻れるようになったそうです。妻も「いびきの音そのものよりも、呼吸が止まっている時の静けさが一番怖かった。治療を始めてからは安心して眠れるようになった」と振り返っています。夫婦のどちらかがいびきや無呼吸を指摘する立場になった場合、我慢して別室で過ごし続けるのではなく、受診を後押しすることが結果的に双方の睡眠の質を取り戻すきっかけになります。
あわせてチェックしたい他の体調の変化
睡眠時無呼吸症候群の治療と並行して、体の他の変化にも目を向けておくと安心です。尿酸値が気になる場合は痛風・高尿酸血症の食事管理と発作を防ぐ対策、肩の動かしにくさがある場合は五十肩・四十肩のセルフケアと整形外科での治療の流れが参考になります。また、頻尿や尿もれが気になり始めた場合は頻尿・尿もれ、年齢とともに増える悩みへの対処法、花粉症・アレルギーの症状が続く場合は花粉症・アレルギーとの付き合い方でも対策を紹介しています。
よくある質問
Q. いびきをかいていても日中に眠気がなければ問題ありませんか。
A. 自覚的な眠気がなくても、無呼吸によって睡眠が浅くなり、体には負担がかかっている場合があります。家族からいびきの合間に呼吸が止まっていると指摘された場合は、自覚症状の有無にかかわらず一度検査を受けることが望ましいとされています。
Q. CPAP治療は一生続ける必要がありますか。
A. CPAPは無呼吸の症状を抑える対症療法であり、根本的な治療ではないため、使用をやめると症状が戻ることが一般的です。ただし体重減少などで気道の狭窄が改善した場合、医師の判断で使用を中止できるケースもあります。
Q. 検査や治療にはどのくらい費用がかかりますか。
A. 簡易検査は保険適用で数千円程度、精密検査は入院を伴うため1泊で1万円台から数万円程度かかることが一般的です。CPAP治療開始後は月1回の通院と機器レンタル料を含め、月あたり5000円前後の自己負担が継続します。
実際にいびき・睡眠時無呼吸症候群との付き合い方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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