旅行や外出のたびにトイレの場所を気にするようになった、くしゃみをした拍子に尿がもれてしまう――こうした悩みは60代を境に急に増えてくる。ところが恥ずかしさから誰にも相談できず、市販の吸水パッドでしのぎながら我慢している人が少なくない。頻尿や尿もれは加齢に伴う自然な体の変化が背景にあり、原因を知って適切に対処すれば生活の質は大きく変わる。
加齢に伴う頻尿・尿もれの原因
男性の場合、60代になると前立腺肥大症の頻度が急激に上がる。前立腺は膀胱の出口を取り囲むように存在する臓器で、加齢とともに肥大すると尿道を圧迫し、尿の出が悪くなる一方で、膀胱に尿が残りやすくなって頻尿を招く。日本泌尿器科学会の資料では、60代男性の約3割、70代では約4割が前立腺肥大による何らかの排尿症状を自覚しているとされる。
女性の場合は、出産や加齢によって骨盤底筋という膀胱や子宮を支える筋肉群が緩むことが尿もれの主な原因になる。せきやくしゃみ、重い荷物を持ち上げた瞬間に尿がもれる「腹圧性尿失禁」は、骨盤底筋の衰えが典型的な背景だ。さらに閉経後はエストロゲンの減少で尿道や膀胱の粘膜が薄くなり、頻尿や尿意切迫感が起こりやすくなる。男女共通で、加齢により膀胱の弾力性が失われ、一度にためられる尿の量そのものが減ることも頻尿の一因になる。
恥ずかしくて相談できない人が多い実情
ある元公務員の66歳男性は、会議中に何度もトイレに立つことが気になり始めても、「年のせい」と思い込み3年近く受診しなかった。実際には前立腺肥大が進行しており、泌尿器科を受診したときには夜間に4回以上トイレに起きる状態になっていた。「もっと早く相談していれば、薬で楽になる期間がもっと長かったはずだ」と話す。受診後は前立腺の緊張を緩める薬の服用を始め、半年ほどで夜間にトイレに起きる回数は1〜2回まで減ったという。今では旅行に行く前にトイレの場所を事前に確認する癖はあるものの、以前ほど外出そのものを避けることはなくなった。製薬会社や医療機関の調査でも、尿トラブルを自覚してから実際に受診するまで平均で1年以上かかる人が多いという結果が出ている。羞恥心に加えて、「年齢のせいだから仕方ない」という思い込みが受診を遅らせる大きな要因になっている。
泌尿器科を受診する目安
夜間に2回以上トイレに起きる、残尿感が続く、尿の勢いが弱くなった、尿もれで下着を替える回数が増えた――こうした症状が2〜3週間以上続く場合は、泌尿器科を受診する目安になる。男性の場合、前立腺肥大症は問診と尿流量測定、超音波検査などで比較的短時間に診断がつく。女性の骨盤底筋の衰えによる尿もれも、泌尿器科や婦人科、女性泌尿器外来で相談できる。近年は「ウロギネ外来」と呼ばれる女性特有の排尿トラブルに特化した専門外来を設ける病院も増えている。
受診をためらう理由の一つに「内診されるのでは」という誤解があるが、初診では問診と尿検査が中心のことが多く、必要な検査は事前に説明される。血尿が出ている、急に尿が出なくなったといった場合は緊急性が高いため、様子を見ずにすぐ受診したほうがよい。
骨盤底筋体操などのセルフケア
軽度の尿もれであれば、骨盤底筋体操(ケーゲル体操)を続けることで改善が見込める。肛門と尿道を締めるように5秒間力を入れ、その後10秒ほど脱力する動作を1セット10回、1日3セット行うのが基本的なやり方だ。椅子に座った状態でも、横になった状態でもできるため、テレビを見ながらでも続けやすい。効果を実感するまでには2〜3か月程度かかることが多く、続けることが前提になる運動だ。
体を冷やすと膀胱が刺激されて頻尿になりやすいため、冷え対策も間接的に役立つ。カフェインやアルコールには利尿作用があり、夕方以降の摂取を控えるだけで夜間頻尿が軽くなることもある。塩分の摂りすぎはむくみを通じて夜間の頻尿につながることがあるため、日々の食生活を見直す際に塩分量にも目を向けたい。適度な運動は骨盤まわりの血流を保つうえでも有効で、運動習慣や筋力維持の取り組みと合わせて意識するとよい。
市販の吸水ケア用品の活用
軽い尿もれには、女性用の生理用ナプキンではなく、専用の吸水ケアパッドを使うのが適している。尿は生理の経血よりもpHが異なり、専用品は消臭機能や尿の性質に合わせた吸水構造になっているため、かぶれやにおいを抑えやすい。男性向けにも下着に直接貼るタイプの吸水パッドが薬局やコンビニで販売されており、少量の尿もれであれば十分対応できる。吸水量の表示(ml)を確認し、外出時間や活動量に合わせて容量を選ぶと安心して過ごせる。中〜重度の尿もれには、パンツ型の失禁用おむつを併用する選択肢もあり、介護用品売り場やドラッグストアで相談しながら選べる。価格は1枚あたり数十円から100円程度が目安で、外出用と自宅用で吸水量の異なる製品を使い分けている人も多い。
吸水ケア用品はあくまで対症療法であり、根本的な治療とは別に考えたい。泌尿器科での治療と並行して活用することで、外出や旅行への不安を減らしながら生活の幅を保つことができる。
治療の選択肢と費用の目安
前立腺肥大症の治療は、まず尿道の緊張を緩める「α1遮断薬」や前立腺自体を縮小させる薬から始めるのが一般的だ。薬物療法で改善しない場合や前立腺が大きい場合は、尿道から内視鏡を入れて前立腺の一部を切除する「経尿道的前立腺切除術(TURP)」などの手術が検討される。健康保険が適用され、窓口負担は3割(高齢受給者は所得に応じて1〜3割)で、月々の薬代は数千円程度が目安になる。
女性の腹圧性尿失禁で骨盤底筋体操の効果が乏しい場合は、尿道を支えるテープを挿入する「TVT手術」「TOT手術」といった短期入院で行える手術が選択肢に入る。いずれも健康保険の対象で、術後の回復も比較的早いとされる。どの治療法が合うかは症状の程度や年齢、体力によって異なるため、検査結果をもとに泌尿器科医と話し合いながら決めていくことになる。
よくある質問
Q. 頻尿の薬は一生飲み続ける必要がありますか。
A. 前立腺肥大による頻尿の場合、薬で症状が落ち着いても前立腺そのものは残るため、多くは継続的な服薬が必要になる。ただし症状の程度によっては量を調整したり、生活習慣の改善で減薬できたりするケースもあるため、定期的に泌尿器科医と相談しながら進めるとよい。
Q. 骨盤底筋体操はどのくらいで効果が出ますか。
A. 個人差はあるが、毎日続けた場合2〜3か月程度で尿もれの回数が減ったと感じる人が多い。すぐに効果が出なくても、途中でやめずに継続することが改善のポイントになる。理学療法士や助産師による骨盤底筋リハビリの指導を受けられる医療機関もあり、正しいやり方を確認すると効果が出やすくなる。
Q. 女性ですが泌尿器科は行きにくいです。他に相談できる場所はありますか。
A. 婦人科でも骨盤底筋の衰えによる尿もれの相談は可能で、女性泌尿器外来やウロギネ外来を設けている病院もある。かかりつけの婦人科医に症状を伝えれば、適した診療科を紹介してもらえることが多い。自治体の女性健康相談窓口で、受診前に匿名で相談できる場合もある。
実際に頻尿や尿もれと向き合ってきた体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


コメント