退職金とは別に企業年金制度を持つ会社に勤めている人は、定年退職の前に「自分は企業年金を受け取る資格を満たしているか」を確認しておく必要がある。厚生労働省の調査では企業年金を導入している企業は全体の4割前後にとどまるとされ、制度がある会社に勤めていても、その内容や加入期間の要件を正確に把握している人は多くない。企業年金は退職金と違って、加入期間や勤続年数の要件を満たしていないと受給権そのものが発生しない制度設計になっていることが多く、「定年まで勤めたから当然もらえる」と思い込んでいると、実際の受給額や受給開始年齢で想定とのずれに気づくことがある。
企業年金の受給権はいつ発生するか
確定給付企業年金の多くは、加入者期間が3年以上あることを受給権発生の最低条件としている。3年未満で退職した場合、その企業年金制度からは一時金も年金も受け取れないケースがある。定年退職まで勤め上げる人にとっては当然クリアしている条件だが、途中で転職を経て今の会社に入り、制度への加入期間が短い人は、自分の加入者期間が3年を超えているかどうかを、退職前にあらためて確認しておく必要がある。また、確定給付企業年金の給付には「老齢給付金」と呼ばれる通常の受給のほかに、加入者期間が20年以上など長期勤続者向けに支給乗率が優遇される仕組みを設けている会社もあり、あと数年勤めるかどうかで受給額が変わる場合がある。
受給開始年齢の設定を確認する
企業年金の受給開始年齢は、公的年金と違って会社ごとの規約で60歳から65歳、あるいは70歳まで選べる範囲が定められている。定年退職と同時に受給を始められる制度もあれば、いったん退職しても受給開始は65歳からと決まっている制度もある。60歳で定年を迎え、再雇用を選ばずに完全に退職する場合、企業年金の受給開始年齢と、公的年金の受給開始年齢、退職金の受け取りタイミングがそれぞれ異なると、60代前半の数年間で受け取れる収入に空白期間ができることがある。退職前に企業年金基金や信託銀行の窓口に、自分の加入者番号をもとにした受給開始年齢と見込み受給額の照会をしておくと、この空白期間の有無を把握できる。
早期退職・自己都合退職での減額に注意する
企業年金規約の中には、定年を待たずに自己都合で退職した場合、支給乗率が定年退職者より低く設定されているものがある。定年退職と早期退職優遇制度を利用した退職とでは、同じ勤続年数でも企業年金の受給額に差がつく会社もあるため、早期退職優遇制度の見極め方を検討している人は、退職金だけでなく企業年金の減額幅も含めて比較しておく必要がある。ある元商社の管理部門に勤めていた61歳男性は、早期退職優遇制度を利用して定年の2年前に退職したが、企業年金規約に「定年退職者以外は給付乗率を0.9倍とする」という条項があることに気づかず、退職金の優遇上乗せ分だけで判断してしまった。結果的に企業年金の受給見込み額が年間で約8万円少なくなっており、規約を先に確認していれば、退職金の上乗せと企業年金の減額を合算した実質的な損得を比較できたはずだったという。
企業型DCと確定給付企業年金の両方に加入している場合
会社によっては確定給付企業年金と企業型確定拠出年金(企業型DC)の両方を併用している場合があり、それぞれ受給資格の要件や受給開始年齢が別に定められている。企業型DCの移換手続きを進める際に、確定給付企業年金の受給資格まで一緒に確認したつもりになっていると、実際には別の制度として個別に申請が必要なことに退職後気づくことがある。退職前に、加入している企業年金制度が確定給付型か確定拠出型か、あるいはその両方かを、給与明細や入社時の説明資料で確認しておく。
受給資格の確認方法
企業年金の受給資格は、多くの場合、企業年金基金の年次通知(毎年送られてくる「加入者のしおり」や「年金額のお知らせ」)に記載されている。この通知を紛失している場合は、企業年金基金または委託先の信託銀行・生命保険会社のコールセンターに、加入者番号か基礎年金番号を伝えれば、現在の加入者期間と見込み受給額を照会できる。退職前の段階で一度この照会を行い、確定給付企業年金の受け取り方とあわせて、一時金で受け取るか年金で受け取るかの検討材料にしておく。人事担当者経由でしか照会できない会社もあるため、退職日の2〜3か月前を目安に、まず人事担当者へ問い合わせ先を確認しておく。照会にかかる期間は会社や基金によって差があり、書面での回答に2〜3週間かかることもあるため、退職日の直前に思い立って照会すると、退職までに結果が届かないこともある。
企業年金基金が解散・代行返上している場合もある
企業年金制度は会社の業績や運用環境によって、基金の解散や、他の企業年金制度への移行(代行返上や確定拠出年金への統合)が行われることがある。数十年前に説明を受けた制度の内容と、現在実際に運用されている制度の内容が変わっている場合があり、古い説明資料をもとに受給額を想定していると、実際の見込み額と差が出ることがある。とくに合併や事業再編を経験した会社に勤めている人は、企業年金制度そのものが統合・変更されている可能性があるため、退職前に最新の制度概要を人事担当者から入手しておく。基金が解散している場合は、積立金が企業年金連合会に移管され、将来の受給申請先が会社ではなく企業年金連合会になっていることもあるため、退職時の案内資料で移管の有無を確認しておくと、受給申請の際に迷わずに済む。
退職金・公的年金と合わせた受給計画を立てる
企業年金の受給資格と受給開始年齢を確認したら、退職金、公的年金の繰上げ・繰下げ、企業年金の受給開始をどう組み合わせるかを考える段階に進む。公的年金の繰上げ・繰下げ受給の選択肢と企業年金の受給開始年齢が重なる時期がある場合、その時期に収入が集中しすぎないよう、あえて企業年金の受給開始を後ろ倒しにする人もいる。逆に60代前半の収入に空白期間ができる場合は、企業年金を早めに受給開始する選択肢も検討材料になる。収入の空白期間があるまま退職を決めてしまうと、退職後の生活費を退職金の取り崩しだけでまかなうことになりかねないため、企業年金の受給開始年齢は、退職日を確定させる前の段階で一度照会しておく。
よくある質問
Q. 企業年金の加入者期間はどこで確認できますか。
A. 毎年送付される加入者向けの通知に記載されているほか、企業年金基金や委託先の金融機関のコールセンターに加入者番号を伝えれば照会できる。人事担当者経由での確認が必要な会社もある。
Q. 転職を挟んでいる場合、前の会社の企業年金はどうなりますか。
A. 前の会社の企業年金制度に加入者期間の要件を満たして受給権が発生していれば、転職後も前の会社の企業年金基金から将来受給できる場合がある。制度によって扱いが異なるため、前職の企業年金基金に個別に照会しておく必要がある。
Q. 受給資格がないと分かった場合、退職金にも影響しますか。
A. 企業年金と退職金は制度として別立てになっていることが多く、企業年金の受給資格がなくても退職金の支給には直接影響しない会社が一般的だ。ただし規約によって異なるため、就業規則や退職金規程で個別に確認しておく。
実際に企業年金の受給資格を退職前に確認した体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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