長年勤めた会社に「確定給付企業年金(DB)」がある場合、退職金とは別に、老後の収入源としてこの企業年金をどう受け取るかで手取り額が大きく変わります。iDeCoや企業型DCとは仕組みも税金の計算方法も異なるため、案内が届いてから慌てて調べる人が少なくありません。ここでは確定給付企業年金の基本と、受け取り方による税金の違いを具体的な数字とともに整理します。
確定給付企業年金(DB)とDCの根本的な違い
確定給付企業年金は、あらかじめ決められた計算式(給与や勤続年数をもとにした「給付乗率」など)によって将来もらえる金額が決まる制度です。運用は会社(または年金基金)が行い、運用がうまくいかなくても会社側が不足分を穴埋めする義務を負います。一方、iDeCoや企業型DCは加入者自身が運用商品を選び、運用成績によって将来の受取額が変動します。iDeCo・企業型DCの受け取り方と税金で解説した制度と混同している人が多いのですが、DBは「将来の金額が約束された制度」、DCは「将来の金額が運用次第で変わる制度」という点が根本的に違います。同じ会社にDBとDCの両方がある「ハイブリッド型」も珍しくないため、自分の会社がどちらか、あるいは両方かをまず人事部の年金担当窓口で確認しておく必要があります。
一時金で受け取るか、年金で受け取るか
確定給付企業年金の多くは、退職時に「一時金として一括で受け取る」か「5年・10年・終身などの年金として分割で受け取る」かを選べます。両者は税金の計算方法がまったく異なります。
一時金:退職所得控除の対象
一時金で受け取る場合、退職金と合算して退職所得控除が適用されます。控除額は勤続20年以下なら「40万円×勤続年数」(最低80万円)、20年を超える部分は「70万円×(勤続年数-20年)」を800万円に加算して計算します。たとえば勤続35年なら控除額は800万円+70万円×15年=1,850万円となり、退職金と企業年金一時金の合計がこの範囲に収まれば税金はかかりません。ただし、同じ年に会社の退職金も一時金で受け取る場合は合算されるため、合計額が控除枠を超えないか事前に試算しておくことが欠かせません。
年金:公的年金等控除の対象
年金形式で受け取る場合は「雑所得(公的年金等)」として扱われ、公的年金等控除が適用されます。65歳以上で公的年金等の年間受給額が330万円以下なら控除額は110万円で、企業年金と老齢厚生年金・老齢基礎年金を合算した金額からこの控除を差し引いた残りに所得税・住民税がかかります。公的年金を繰り下げて企業年金だけを先に受け取る人もいますが、その場合は年金収入が一本化される時期とのバランスを考える必要があります。この判断は年金の繰り上げ・繰り下げ受給、どちらがいいかで扱った選択とも密接に関わってきます。
自分の見込み額を確認する3つの手段
確定給付企業年金の見込み額は、毎年送られてくる「年金額のお知らせ」やねんきん定期便とは別物で、自分から動かないと詳細がわからないことが多い制度です。まず退職の1〜2年前に人事部・企業年金担当窓口へ「予想年金額計算書」の発行を依頼しましょう。転職経験があり、以前の勤務先にもDBがあった場合は、その分の記録が企業年金連合会に移されている可能性があるため、企業年金連合会のコールセンター(0570-02-2666)に基礎年金番号で照会すると、忘れていた受給権が見つかることもあります。受給が確定すると「年金証書」が発行され、これが正式な受給額と受給開始日を示す書類になります。退職後の収入シミュレーションの作り方を作る際は、この年金証書の金額を軸にすると精度が上がります。
転職している場合の注意点
確定給付企業年金には「受給資格期間」が定められており、多くの企業では勤続3年未満で退職すると企業年金の受給権自体を得られず、掛金相当額のみが脱退一時金として支給される規定になっています。勤続3年以上でも、完全な受給権(将来の年金額を満額受け取れる権利)を得るには、企業ごとに定めた年数(10年、15年など)の要件があることが一般的です。ある58歳の男性は、40代で一度転職した際に前職のDB年金を放置しており、退職準備を始めて初めて企業年金連合会に月1万円強の年金記録が残っていたことに気づきました。転職の予定がなくても、過去の勤務先に企業年金があったかどうかは一度洗い出しておく価値があります。
一時金と年金、どちらを選ぶ人が多いか
実務上は「退職所得控除の枠が余っているなら一時金、枠を使い切るなら年金」という判断が基本線になります。退職金だけで控除枠をほぼ使い切る人は、企業年金部分を年金形式にして公的年金等控除の枠で受けたほうが手取りが増えるケースが多く見られます。反対に、住宅ローンの一括返済や事業資金など、まとまった資金が必要な事情がある人は一時金を選びます。一部の企業では一時金と年金を按分して受け取れる「一部一時金」制度もあるため、選択肢を人事部に確認しておくと判断の幅が広がります。定年前に人事・上司と交渉しておきたいことで触れたように、退職1年前のタイミングで年金担当者と面談する機会を作っておくと、こうした制度の細部まで確認しやすくなります。
再雇用で働きながら受け取る場合の注意
定年後も同じ会社で再雇用され、給与を得ながら企業年金を受け取り始める人もいます。ここで押さえておきたいのは、給与と年金を合算して支給停止になる「在職老齢年金」の仕組みは老齢厚生年金にのみ適用され、確定給付企業年金は対象外だという点です。つまり再雇用による給与が高く老齢厚生年金の一部が支給停止になっている間も、企業年金は満額受け取れます。ただし所得税の計算上は給与所得と雑所得(企業年金)が合算されるため、確定申告で税額が想定より上がることがあります。年間の公的年金等の収入が400万円を超え、かつ給与など他の所得が20万円を超える場合は退職後の税金:確定申告が必要になるケースとはで触れた申告義務が発生する点も忘れずに確認してください。
よくある質問
Q. 確定給付企業年金と厚生年金基金は同じものですか?
A. 別の制度です。厚生年金基金は公的年金の一部を代行運用する仕組みで、現在は解散・他制度への移行が進んでいます。自分がどちらの記録を持っているかは、企業年金連合会への照会で判別できます。
Q. 年金で受け取り始めた後、一時金に変更できますか?
A. 原則としてできません。多くの制度では受給開始時に一時金か年金かを選択すると、その後の変更は認められていません。受給開始前に、税金と生活資金の両面からしっかり比較しておく必要があります。
Q. 確定給付企業年金にも障害給付や遺族給付はありますか?
A. 制度によります。多くのDB規約には遺族給付金の定めがありますが、支給要件や金額は企業ごとに異なるため、年金証書とあわせて送られる制度概要か、企業年金担当窓口で確認してください。
確定給付企業年金は、公的年金や退職金と組み合わせて初めて全体像が見えてくる制度です。受け取り方を決める前に、控除枠の余り、必要な資金のタイミング、過去の勤務先の記録という3点を人事部や企業年金連合会に照会しながら固めておくと、後から後悔しにくくなります。
実際に確定給付企業年金の受け取り方を選んだ人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


コメント