マッチングアプリやSNSで知り合った相手とのやり取りが、いつの間にか投資話や送金の依頼にすり替わっている。定年後にこうした「ロマンス詐欺」「SNS型投資詐欺」に巻き込まれる六十代が増えています。警察庁のまとめでは、SNS・マッチングアプリ経由の投資詐欺被害は2023年から急増し、2024年には1年間の被害額が1,000億円を超えたと報じられました。恋愛感情や信頼関係を利用するこの手口は、一般的な投資詐欺よりも本人が気づきにくいという特徴があります。仕組みと、定年後の生活が狙われやすい背景、家族が気づいたときの対応を整理します。
ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺とはどんな手口か
ロマンス詐欺:恋愛感情を利用した詐欺
マッチングアプリやSNSのメッセージ機能を通じて恋愛関係を装い、数週間から数カ月かけてやり取りを重ねた末に、「事業でトラブルが起きた」「治療費が必要」などの理由で送金を求める手口です。相手のプロフィール写真は実在する別人の写真を無断使用しているケースがほとんどで、実際に会ったことがない、あるいはビデオ通話にも「回線が悪い」などの理由で応じないまま関係が進むのが典型です。
SNS型投資詐欺(ロマンス投資詐欺):恋愛と投資話がセットになった手口
恋愛関係を築いた相手から、「自分が使っている海外の投資アプリで一緒に資産を増やそう」と持ちかけられ、専用アプリへの入金を求められる手口です。退職金を狙う投資詐欺の手口と対策:未公開株・海外ファンドに注意で紹介した投資詐欺の手口と重なる部分が多いものの、恋愛感情がからむ分、相手を疑う判断が遅れやすいという特徴があります。アプリの画面上で利益が増えているように見せかけられ、出金しようとすると税金や手数料名目で追加入金を求められる流れも共通しています。
なぜ定年後の六十代が狙われやすいのか
配偶者との死別・離婚後の孤独感
配偶者と死別した、あるいは熟年離婚・夫婦関係の変化にどう向き合うかで触れているような形で離婚を経験した六十代は、日々の生活の中で会話の相手が減り、SNSやアプリでのやり取りが数少ない交流の機会になりやすい状況にあります。遺族年金を受給しながら一人で暮らす人にとって、遺族年金の仕組みと受給条件で紹介したような公的な支えがある一方、心の支えとなる相手を求める気持ちにつけ込まれやすい面があります。
SNS・マッチングアプリを始めたばかりで警戒心が薄い
定年後に時間の余裕ができ、子や孫の勧めでSNSやマッチングアプリを始めたばかりの六十代は、若い世代であれば当たり前に持っている「知らない相手からの急な好意は疑ってかかる」という感覚がまだ身についていないことがあります。プロフィール写真の使い回しを見抜く画像検索の方法や、実在の企業ロゴを無断使用した投資アプリの見分け方を知らないまま、相手の言葉をそのまま信じてしまう傾向も見られます。「孤独感」との向き合い方:孤立を防ぐ小さな工夫で触れているように、日々の孤独感そのものは誰にでも起こり得る自然な感情ですが、その感情がオンライン上の見知らぬ相手への急な信頼に置き換わっていないかを、本人も周囲も意識しておく必要があります。
典型的な会話パターン・時系列
最初の数週間は投資や送金の話は一切出さず、日々の近況や体調を気遣うメッセージのやり取りに終始し、相手への信頼を丁寧に積み上げます。1〜2カ月ほど経ち、「もう家族のような存在」と感じ始めた頃合いを見計らって、「実は投資で成功している」「一緒に資産を増やしたい」という話が持ち出されます。最初は数万円程度の少額から始め、実際にアプリの画面上で利益が出ているように見せることで警戒心をさらに下げ、その後に数百万円単位のまとまった送金を求めてくるのが典型的な流れです。まとまった送金の直後、あるいは出金を申し出たタイミングで、相手からの連絡が途絶えるか、追加の名目で入金を求め続けられます。
実際にあった事例
ある元中学校教員の六十代女性は、夫との死別から2年ほど経った頃、娘に勧められて始めたマッチングアプリで、海外在住と名乗る同年代の男性とメッセージのやり取りを続けていました。半年近くかけて信頼関係を築いた後、「香港の投資アプリで一緒に資産運用をしよう」と持ちかけられ、退職金の一部である300万円を専用アプリに送金しました。アプリの画面では利益が増えていくように表示されていましたが、出金を申請すると手数料名目の追加送金を求められ、支払った直後に相手のアカウントごと消えてしまいました。「毎日届くメッセージが生活の張り合いになっていたので、お金より先に、話し相手を失ったことのほうがつらかった」と振り返っています。
家族や周囲が気づいたときの対応
親や家族が急にスマートフォンの操作時間が増えた、聞いたことのない相手の名前を口にするようになった、金融機関の窓口で高額送金をしようとしているといった様子が見られたら、まず本人を責める言い方を避け、相手とのやり取りの画面を一緒に見せてもらうところから始めます。相手のプロフィール写真をGoogleの画像検索にかけると、別人のSNSアカウントや広告写真として使われていることが判明する場合があり、客観的な証拠を本人と一緒に確認する作業が効果的です。金融機関の窓口やATMでは、高額出金の際に職員が目的を確認する取り組みが行われていることが多く、この段階で家族が同行し状況を説明することで、送金を止められるケースもあります。特殊詐欺・還付金詐欺から身を守る方法で紹介した、家族間で合言葉やルールを決めておく対策は、ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺への備えとしても同じように機能します。
相談窓口
送金前に「これは詐欺かもしれない」と感じた場合も、すでに送金してしまった場合も、消費者ホットライン188に電話をかけると最寄りの消費生活センターにつながり、状況を整理したうえで対応方法を案内してもらえます。相手の詳しい情報が分かっている場合や、すでに被害に遭った場合は、警察相談専用電話#9110、または各都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口に連絡します。振込直後であれば、振込先の金融機関に連絡し口座凍結の手続きを依頼することで、被害額の一部が戻る可能性があります。
よくある質問
Q. 本人はまだ相手を信じていて、詐欺だと認めません。どう伝えればいいですか
本人にとっては大切な相手との関係を否定されるように感じられるため、頭ごなしに「詐欺だ」と決めつける言い方は避け、消費生活センター(188)に一緒に電話をかけ、公的機関の第三者としての見解を聞く形を取ると、本人も受け入れやすくなります。
Q. まだ会ったこともない相手ですが、本当に詐欺だと判断できますか
出会ってから一度もビデオ通話や対面での面会に応じない、投資や送金の話が出た時点でまだ一度も会っていない、といった状態が続いている場合は、ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺の典型的なパターンに当てはまっています。相手のプロフィール写真を画像検索にかけて、別人の写真として使われていないか確認することも有効な判断材料になります。
Q. 孤独感を埋める交流自体を諦めたほうがいいのでしょうか
マッチングアプリやSNS自体をやめる必要はなく、定年後に新しい友人を作る方法、現役時代とは違うつながり方で紹介しているような、地域のサークルや趣味の集まりなど対面で確認できるつながりを並行して持つことが、オンラインだけの関係に依存しない状態を作る助けになります。
実際にロマンス詐欺・SNS型投資詐欺に遭いそうになった方や、被害後に相談窓口へ連絡した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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