退職して自由に使える時間や資金ができると、残念ながらそこを狙う特殊詐欺のターゲットにもなりやすくなります。「自分は大丈夫」と思っていても、手口は年々巧妙になっており、誰でも被害に遭う可能性があります。退職後の生活を守るために、代表的な手口と対策を知っておきましょう。
特殊詐欺とはどんなものか
特殊詐欺とは、電話やメールなどを使い、対面せずに相手を信用させてお金をだまし取る犯罪の総称です。オレオレ詐欺(親族などを装う)、還付金詐欺(税金や保険料が戻るという名目)、架空請求詐欺、預貯金詐欺など、手口は多岐にわたります。共通しているのは、「急いでいる」「今すぐ対応しないと大変なことになる」と不安をあおり、冷静な判断をさせないよう仕向けてくる点です。
退職世代が特に狙われやすい理由
退職金や年金など、まとまった資産や定期的な収入があること、日中に自宅にいる時間が長いこと、そして家族と離れて暮らしているケースが多いことなどから、退職世代は詐欺グループにとって狙いやすい対象とされています。「自分は騙されない」という自信が、かえって油断につながることもあるため、誰にでも起こり得ることだと認識しておく姿勢が、最初の防御策になります。
還付金詐欺の典型的な手口
市区町村や年金事務所、税務署の職員を名乗り、「医療費や保険料の還付があるのでATMを操作してほしい」と電話をかけてくる手口です。実際の行政機関がATM操作で還付手続きを求めることは絶対にありません。「ATMに行ってほしい」という電話がかかってきた時点で、詐欺だと判断して間違いないと覚えておきましょう。
オレオレ詐欺・親族を装う手口への対応
「事故を起こした」「会社のお金を使い込んでしまった」など、慌てさせる内容の電話がかかってきても、その場で振込や現金の手渡しに応じないことが鉄則です。電話を切った後、必ず家族本人の携帯電話や、普段使っている連絡先に直接かけ直して事実確認をしましょう。「今すぐでないと間に合わない」という切迫感を演出するのが詐欺の常套手段であることを、家族全員で共有しておくことが有効です。
キャッシュカードをだまし取る手口
警察官や銀行協会の職員を名乗り、「あなたの口座が犯罪に使われている、カードを新しくする必要がある」といった口実で、自宅を訪問しキャッシュカードを封筒に入れさせ、すり替えて持ち去る手口も報告されています。警察官が自宅を訪れてキャッシュカードを預かることは通常ありません。制服を着ていても、その場で安易に渡さず、必ず一度電話を切ってから警察署の代表番号に確認する習慣をつけましょう。
防犯対策として今すぐできること
知らない番号からの着信には、留守番電話設定にしておき、一度切ってから確認する習慣をつけるだけでも被害を大きく減らせます。自治体や警察が無料で配布している、通話を自動録音する「防犯機能付き電話機」の助成制度を利用するのも効果的です。定年後に使える自治体の支援制度まとめで紹介したような窓口でも、こうした防犯グッズの案内を受けられることがあります。
家族との合言葉・ルールを決めておく
「お金の話が出たら、一度電話を切って家族の別の連絡先に確認する」というルールを、家族間であらかじめ決めておくことも効果的です。合言葉を決めておく、あるいは「電話でお金の話は絶対にしない」という家族内のルールを作っておくことで、とっさの場面でも冷静に対応しやすくなります。退職を決める前に家族と話すべき5つのこととあわせて、詐欺対策についても一度話し合っておくとよいでしょう。
スマートフォン・SNS経由の詐欺にも注意
近年は、SNSやメッセージアプリを通じた投資詐欺やロマンス詐欺も増えています。スマホ・SNSとの付き合い方で紹介したように、知らない相手からの甘い投資話や、急な送金依頼には、必ず疑いの目を持つことが大切です。少しでも不安を感じたら、契約や送金の前に、家族や消費生活センターに相談しましょう。
もし被害に遭ってしまったら
万が一お金を振り込んでしまった、渡してしまったと気づいた場合は、すぐに警察(警察相談専用電話#9110、または110番)や、最寄りの消費生活センター(消費者ホットライン188)に連絡しましょう。振込直後であれば、銀行に連絡することで振込先の口座を凍結できる可能性もあります。恥ずかしさから連絡をためらう人もいますが、早い行動が被害の拡大を防ぐ鍵になります。
投資詐欺・利殖商法にも要注意
退職金というまとまった資金を狙って、「元本保証で年利10%」「必ず儲かる未公開株」といった甘い言葉で近づいてくる投資詐欺も後を絶ちません。通常の金融商品では考えられないような高いリターンを提示された時点で、まず疑ってかかることが鉄則です。NISA口座の使い方(退職後の資産運用)で紹介したような、公的に認められた制度を活用した堅実な運用と比べて、うますぎる話には裏があると考える習慣を持っておきましょう。
高齢者を狙う訪問販売・点検商法
「無料点検に来ました」と訪問し、「今すぐ工事しないと家が危ない」などと不安をあおって高額な契約を迫る悪質な訪問販売も、特殊詐欺と並んで注意すべき手口です。屋根の修理や布団・浄水器の販売などでよく見られるパターンで、その場で契約せず、必ず家族や消費生活センターに相談してから判断することが大切です。契約してしまった場合でも、一定期間内であればクーリングオフ制度を使って解約できることがあるため、慌てず対応しましょう。
地域の見守りネットワークを活用する
多くの自治体では、警察・金融機関・地域住民が連携して高齢者の詐欺被害を防ぐ「見守りネットワーク」を構築しています。金融機関の窓口では、高額な出金の際に目的を確認する取り組みが行われていることもあり、「なぜそんなに聞かれるのか」と煩わしく感じても、それが被害を未然に防ぐための仕組みであることを理解しておくと、スムーズに協力しやすくなります。地域とのつながりを作る:自治会・町内会に馴染むコツで紹介したような地域とのつながりも、いざというときの見守りの目として機能します。
よくある質問
Q. 息子や孫の声に似ていたら信じてしまいそうです
A. 電話越しの声だけで本人と判断せず、必ず一度電話を切って、本人が普段使っている番号にかけ直して確認しましょう。事前に家族だけが知っている合言葉を決めておくのも有効な対策です。
Q. 一度断ってもしつこく電話がかかってきます
A. 相手にしないことが一番です。着信拒否の設定や、非通知拒否の設定を活用し、不審な番号からの着信には出ない習慣をつけましょう。あまりにしつこい場合は、警察に相談することもできます。
Q. 家族に相談すると心配をかけてしまいそうで言いにくいです
A. 一人で抱え込むことの方が、被害を大きくするリスクがあります。多少心配をかけたとしても、早めに家族や専門機関に相談することが、結果的に自分を守ることにつながります。
特殊詐欺は、知識を持っているかどうかで被害を大きく防げる犯罪です。「自分は大丈夫」と思わず、日頃から家族と対策を共有しておきましょう。
実際に詐欺の被害に遭いそうになった・対策をしている方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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