まとまった退職金が振り込まれた直後は、一番心が動きやすい時期でもあります。「せっかくのお金を少しでも増やしたい」という気持ちにつけ込み、未公開株や海外ファンドを装った投資詐欺が、退職世代を狙って近づいてきます。警察庁の発表では、SNSを通じて勧誘される「SNS型投資詐欺」の被害額は2023年に277億円、2024年には1年間で1,000億円を超えたと報じられました。退職金という一度きりの大きな資産を守るために、典型的な手口と公的な確認方法を知っておく必要があります。
退職世代がなぜ投資詐欺に狙われやすいのか
退職金や企業年金の一時金として、数百万円から2,000万円前後のまとまった現金が一度に口座に入る人は少なくありません。退職金運用は分散投資が基本、六十代からのリスクを抑えた資産配分で紹介しているように、退職金の運用先を検討し始める時期そのものが、詐欺グループにとっては「声をかけるタイミング」になります。さらに、現役時代に株式投資や投資信託の経験が少ない人ほど、利回りの相場感がつかめず、「年利15%」「月利5%」といった非現実的な数字を見ても違和感を持ちにくい傾向があります。日中に自宅にいる時間が増え、電話やSNSのメッセージにじっくり向き合える環境になることも、相手に付け入る隙を与えてしまいます。
典型的な投資詐欺の手口
「上場前の未公開株」を持ちかける手口
「知り合いの会社が近く上場する。上場前の今だけ特別に株を買える」という触れ込みで未公開株への投資を持ちかける手口です。実際には存在しない会社の株式だったり、実在する会社でも発行会社や証券会社を通さない架空の取引だったりするケースがほとんどです。未公開株の取引は本来、金融商品取引法に基づき登録された第一種金融商品取引業者を通すのが原則で、個人や無登録の業者から直接購入を勧められること自体が強い警戒サインになります。
海外ファンド・暗号資産がらみの「必ず儲かる」話
「シンガポールの未公開ファンドで年利20%が確定している」「AIが自動売買する海外の投資アプリで元本保証」といった触れ込みで、海外送金やアプリへの入金を求める手口も広がっています。実在する金融機関や著名な投資家の名前を無断で使い、専用アプリの画面上だけ利益が増えているように見せかけ、実際に出金しようとすると「税金」「手数料」名目で追加入金を求められ、最終的に連絡が取れなくなるパターンが典型です。
SNS広告・マッチングアプリ経由の勧誘
Instagramやフェイスブックの広告、LINEのオープンチャットへの招待をきっかけに勧誘が始まり、グループ内で「儲かった」という体験談が次々と投稿される様子を見せられて信用してしまうケースも目立ちます。マッチングアプリで知り合った相手が、やり取りを重ねた末に投資話を持ちかけてくる「ロマンス型」の手口も増えており、この背景や見分け方についてはロマンス詐欺・SNS型投資詐欺とは:定年後に狙われやすい理由と見分け方で詳しく解説しています。
「元本保証」「絶対儲かる」は詐欺のサイン
金融商品取引法では、投資助言・代理業者や金融商品取引業者が「元本保証」「絶対に儲かる」といった断定的な言い方で勧誘すること自体を禁止しています。合法な金融機関や登録業者であれば、リスクの説明を必ず行うはずで、それを省いて良い話ばかりを強調してくる時点で、制度上おかしいと判断できます。NISA口座の使い方(退職後の資産運用)のように公的な非課税制度を使った運用であっても元本割れのリスクはゼロにはならないことを踏まえると、「元本保証」をうたう投資話がいかに不自然かが分かります。
金融庁・消費者庁が注意喚起しているポイント
金融商品取引業の登録を確認する
投資の勧誘を受けたら、まず金融庁のウェブサイトにある「免許・登録・届出業者等一覧」で、その業者名が金融商品取引業者として登録されているかを確認します。登録番号がない、あるいは検索しても該当がない業者からの勧誘は、その時点で取引を止める根拠になります。海外に拠点があると称する業者でも、日本国内の居住者に勧誘する場合は原則として日本での登録が必要です。
消費者庁・国民生活センターの注意喚起
消費者庁と国民生活センターは、「もうかる」「損はしない」などの言葉を使う勧誘への注意を繰り返し呼びかけており、60歳以上からの「ファンド型投資商品」に関する相談件数は高い水準が続いていると公表しています。契約や送金の前に一度立ち止まり、公的機関が公開している注意喚起の内容と照らし合わせる習慣が、被害を防ぐ具体的な手立てになります。
実際にあった被害の例
ある元建設会社勤務の六十代男性は、退職金1,800万円のうち500万円を、SNSの投資グループで知り合った「投資アドバイザー」を名乗る人物に勧められた海外ファンドに振り込みました。専用アプリの画面上では毎週数万円ずつ利益が増えていくように表示されていましたが、出金を申請すると「出金税」という名目で追加の入金を求められ、支払った直後にアプリ自体にアクセスできなくなりました。家族に相談したのは全額を失ってからで、「儲かっている画面を見ていたので、最後まで詐欺だと思わなかった」と振り返っています。
被害に遭った、または疑わしいと感じたときの相談窓口
契約前に不安を感じた場合も、実際に送金してしまった後も、消費者ホットライン188(いやや!)に電話をかけると、最寄りの消費生活センターにつながります。投資商品や金融機関の登録状況について詳しく確認したい場合は、金融庁の「金融サービス利用者相談室」に電話やウェブフォームで問い合わせることができます。すでに詐欺だと確信できる場合や、相手を特定できる情報がある場合は、警察相談専用電話#9110、または最寄りの警察署のサイバー犯罪相談窓口に連絡します。振込直後であれば、振込先の金融機関に連絡することで口座凍結の手続きが取られ、被害の一部が戻る可能性もあります。
被害を防ぐためにできること
投資話を持ちかけられたら、その場で契約や送金の返事をせず、一度電話を切って自宅で冷静になれる時間を作ります。退職金運用でやってはいけない失敗パターンで紹介しているような典型的な失敗例と照らし合わせ、同じパターンに当てはまっていないかを確認する習慣も有効です。不動産投資型クラウドファンディングのように仕組みが複雑な金融商品についても、不動産投資型クラウドファンディングとは、退職金運用でのリスクと注意点で解説しているとおり、仕組みを理解できないまま契約する状態そのものがリスクになります。家族の誰か一人にでも、投資の話が出たら必ず伝えるというルールを決めておくと、判断がおかしくなっていないかを外から確認してもらえます。電話やATM操作を使う従来型の特殊詐欺の手口については特殊詐欺・還付金詐欺から身を守る方法でも整理しているので、あわせて確認しておくと家族間の対策ルールを一本化できます。
よくある質問
Q. 相手が金融庁の登録番号を見せてきました。それでも安心できませんか
登録番号を提示されても、その番号が実在する業者のものかどうかを必ず金融庁のウェブサイトで自分で検索して確認してください。他社の登録番号を無断で使ったり、似た名前の実在企業を装ったりする手口も確認されているため、番号を見せられたことだけで安心材料にはなりません。
Q. すでに一部のお金を振り込んでしまいました。取り戻せますか
振込先の口座に資金が残っていれば、振込先の金融機関に連絡し口座凍結の手続きを依頼することで、被害額の一部が返還される可能性があります。時間が経つほど資金が引き出されてしまう可能性が高くなるため、気づいた時点ですぐに警察相談専用電話#9110と振込先の金融機関の両方に連絡することが必要です。
Q. 家族に投資詐欺だと指摘されましたが、まだ信じたい気持ちがあります
「まだ本当かもしれない」と思う気持ちは自然な反応ですが、それ自体が詐欺グループの手口に取り込まれているサインでもあります。消費生活センター(188)や金融庁の相談窓口では、業者の登録状況を第三者の立場で確認してもらえるため、家族の指摘と合わせて公的機関の判断も聞いてみることをすすめます。
実際に退職金を狙った投資詐欺に遭いそうになった方や、被害に気づいて相談窓口に連絡した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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