退職金の運用先を探す中で、インターネット広告やニュースサイトで「不動産投資型クラウドファンディング」という言葉を目にした六十代の人も増えています。数万円から不動産投資に参加でき、年利三パーセントから七パーセント程度の分配金が期待できるとうたう商品ですが、仕組みを正しく理解しないまま資金を投じると、思わぬ形で元本が戻らない事態にもなりかねません。ここでは不動産クラウドファンディングの仕組みと、退職金を投じる際に確認すべきリスクを具体的に説明します。
不動産クラウドファンディングの基本的な仕組み
不動産クラウドファンディングは、事業者がインターネット上で複数の投資家から資金を集め、その資金でマンションやアパートなどの不動産を取得・運用し、賃料収入や売却益を分配金として投資家に還元する仕組みです。国土交通省の許可を受けた不動産特定共同事業者が運営し、多くのサービスは一口一万円程度から参加できるため、実物の不動産を一棟購入するのに比べてはるかに少ない資金で不動産投資の利回りを狙える点が魅力とされています。運用期間はサービスによって異なりますが、数か月の短期案件から数年の長期案件まで幅広く設計されています。
優先劣後方式によるリスク軽減の仕組み
多くの不動産クラウドファンディングでは「優先劣後方式」という仕組みが採用されています。これは、投資対象の不動産で損失が発生した場合、まず事業者自身が出資した劣後出資分から損失を負担し、一般投資家の優先出資分は一定の範囲まで元本が守られる設計です。劣後出資の割合が総額の二十パーセントであれば、不動産価格が二十パーセント下落するまでは投資家の元本に影響が及ばない計算になります。この劣後出資の割合は案件ごとに異なるため、募集ページに記載されている割合を確認することが、リスクの大きさを判断する基本になります。
退職金を投じる前に確認すべき四つのポイント
第一に、運営会社の財務状況と実績です。設立から日が浅い会社や、これまでの運用実績が少ない会社の案件は、情報が少ない分だけ判断が難しくなります。金融庁や国土交通省のウェブサイトで、運営会社が不動産特定共同事業の許可を正しく受けているかを確認できます。第二に、対象不動産の立地と稼働率です。募集ページには対象物件の住所や築年数、想定稼働率が記載されていることが多く、都市部の駅近物件か地方の物件かによってもリスクの性質が変わります。第三に、中途解約の可否です。多くの案件は運用期間中の中途換金ができず、資金が固定される点を理解しておく必要があります。第四に、想定利回りが市場相場と比べて極端に高くないかです。同種の案件の相場より大幅に高い利回りをうたう案件は、その分リスクも高い可能性があります。
元本割れが実際に起きた事例
不動産クラウドファンディング市場では、二〇二〇年代に入り複数の事業者で運用不振や事業者自体の経営破綻により、投資家への分配金の支払いが遅延したり、元本の一部が返還されなかったりする事例が報告されています。国民生活センターにも、不動産クラウドファンディングに関する相談が寄せられており、「元本保証」という言葉が使われていたにもかかわらず実際には保証されていなかったケースや、運用状況の説明が途中から更新されなくなったケースが確認されています。退職金の運用に失敗した事例全般については退職金運用の失敗事例でも紹介しています。
ある元不動産会社勤務の六十一歳女性の判断
ある不動産会社で三十年以上、賃貸管理業務に携わり六十歳で定年退職した女性は、退職金の一部を不動産クラウドファンディングに振り分けることを検討しました。長年の実務経験から、募集ページに記載された物件の稼働率を自分で調べ、周辺の賃貸相場と照らし合わせて妥当性を確認したといいます。その結果、複数の案件のうち利回りが相場より高すぎる案件は見送り、劣後出資割合が三十パーセント以上あり、運営会社の設立年数が長く情報開示が丁寧な案件のみに退職金の一割程度、百万円台を投じることにしました。「不動産の実務を知っているからこそ、利回りの数字だけで判断してはいけないとわかる。素人であればなおさら、物件情報を一つひとつ確認する手間を惜しまない方がよい」と話しています。投資から二年が経過した時点で、分配金は予定通りおおむね年四パーセント台で支払われ続けており、元本の毀損は今のところ発生していないといいます。
税務上の扱いと分配金の受け取り方
不動産クラウドファンディングの分配金は、多くの場合「雑所得」として扱われ、源泉徴収された後に振り込まれます。年間の雑所得が一定額を超える場合は確定申告が必要になることがあり、退職所得や年金収入と合算した総合課税の対象になる点も、株式投資の分離課税とは異なる注意点です。確定申告の基本的な流れについては確定申告(e-Tax)のやり方や退職後の確定申告の考え方で解説しています。
他の運用商品との比較で位置づける
不動産クラウドファンディングは、株式や投資信託に比べて値動きが直接見えにくく、運用期間中の資産価値の変動を日々確認することができません。その分、精神的な波に振り回されにくいという見方もできますが、裏を返せば運営会社からの情報開示だけが状況を知る手がかりになるということでもあります。退職金全体の資産配分の中では、リスクをある程度許容できる部分、例えば全体の一割以内にとどめ、生活費に直結する資金とは明確に切り分けて扱う位置づけが実務的です。分散投資全体の考え方については退職金運用の分散投資の基本もあわせて参考にしてください。
複数の事業者に口座を分けて情報を比較する
不動産クラウドファンディングのサービスは、COZUCHIやCREAL、利回りくんなど複数の事業者が存在し、それぞれ扱う物件の種類や利回り水準、劣後出資割合の設計が異なります。一社のサービスだけで判断するのではなく、複数の事業者に口座を開設して募集案件の情報開示の丁寧さや、過去案件の運用実績の公開状況を比較すると、事業者ごとの姿勢の違いが見えてきます。運用実績を非公開にしている事業者や、過去の元本割れ案件について説明がない事業者には、資金を投じる前に問い合わせフォームなどで直接確認する方法もあります。
よくある質問
Q. 不動産クラウドファンディングは元本保証ですか。
A. 優先劣後方式により一定範囲までは元本が保護される設計の案件が多いですが、法的な意味での元本保証ではありません。劣後出資割合を超える損失が発生した場合は、投資家の元本にも影響が及びます。
Q. 運用期間中に資金が必要になったら解約できますか。
A. 多くの案件は運用期間中の中途解約ができず、満期まで資金が固定されます。生活費として近い将来使う予定のある資金は投じず、当面使わない余裕資金の範囲にとどめることが実務的な対応です。
Q. どのくらいの割合まで退職金を投じてよいのでしょうか。
A. 明確な基準はありませんが、元本割れのリスクがある商品全体を退職金の一割から二割程度に抑え、複数の案件や運営会社に分けて投じることでリスクを分散する考え方が一般的です。
不動産クラウドファンディングで退職金を運用する場合も、他の制度や支出について知っておくと家計全体の見通しが立てやすくなります。年金生活者支援給付金とはや介護保険料の年金天引きの仕組み、60代の国民健康保険料と軽減制度も合わせて確認しておくと安心です。離婚を経験している場合は年金分割制度の基礎知識、営業を受ける機会がある場合は銀行や証券会社の営業トークの見抜き方も参考になります。
実際に不動産クラウドファンディングに投資した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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