生命保険会社の窓口や来店型の保険ショップで退職金の相談をすると、「変額保険」という商品を勧められることがあります。死亡保障を備えながら資産運用もできるという説明を受け、投資信託よりも保険としての安心感がある分だけ魅力的に感じる人も少なくありません。しかし変額保険は、支払った保険料の一部が株式や債券で運用される仕組み上、解約返戻金や満期保険金が運用実績によって変動し、元本を下回る可能性がある商品です。ここでは変額保険の仕組みと、六十代が加入・見直しを検討する際に確認すべきリスクを整理します。
変額保険の基本的な仕組み
変額保険は、契約者が支払う保険料のうち、保険会社の事業運営費や死亡保障の部分を除いた金額が、株式や債券で構成される「特別勘定」で運用される保険商品です。特別勘定の運用実績が良ければ解約返戻金や満期保険金が増える一方、運用実績が悪化すれば、支払った保険料の総額を下回ることもあります。定額保険(従来型の終身保険や養老保険)が保険会社の一般勘定で運用され、契約時に約束された利率が保証されるのに対し、変額保険は運用リスクを契約者自身が負う点が根本的に異なります。生命保険協会の統計でも、変額保険は「投資性の強い保険商品」として位置づけられています。
終身型と有期型の違い
変額保険には、保障が一生涯続く終身型と、契約時に定めた期間(例えば十年、十五年)で満期を迎える有期型があります。有期型は満期時に受け取る保険金額が運用実績によって変動するため、満期のタイミングで市場が下落していると、想定していた金額を大きく下回るリスクがあります。終身型は死亡保障が続く一方、途中で解約する場合の解約返戻金も運用実績次第で変動するため、いつ解約するかによって受け取れる金額が大きく異なる点に注意が必要です。
退職金で変額保険に加入する際の三つの論点
第一に、死亡保障が本当に必要かどうかです。子どもが独立し住宅ローンも完済している六十代であれば、大きな死亡保障を維持する必要性は現役時代より下がっていることが多く、保障と運用をセットにした商品よりも、必要な保障は掛け捨て型の保険で安く確保し、運用は投資信託で別に行う方が、それぞれのコストを抑えやすい場合があります。第二に、諸費用の水準です。変額保険には契約初期費用、保険関係費用、資産運用関係費用など複数の費用がかかり、これらを差し引いた後の金額が特別勘定で運用されるため、同じ金額を投資信託で直接運用する場合よりも実質的な運用効率が下がる傾向があります。第三に、早期解約時の元本割れです。契約後数年以内に解約すると、解約控除により払込保険料を大きく下回る解約返戻金しか受け取れないケースが一般的です。
外貨建て変額保険という組み合わせ商品
近年は、変額保険の特別勘定を米ドルなど外貨建てで運用する商品も広く販売されています。この場合、運用リスクに加えて為替変動リスクも同時に負うことになり、円換算した解約返戻金が保険料払込総額を下回る可能性がさらに高まります。契約時に円高が進んでいたタイミングと、解約時に円安が進んでいたタイミングが重なれば有利に働きますが、逆の場合は運用実績がプラスでも為替差損で相殺されることがあります。外貨建て保険商品の詳しいリスクについては、別途、外貨建て保険商品のリスク解説で取り上げています。
ある元商社勤務の六十二歳男性が経験した見直し
ある大手商社で四十年近く勤務し六十歳で定年退職した男性は、五十代前半に加入した変額終身保険を退職を機に見直すことにしました。加入時は死亡保障と資産運用を兼ねられる点に魅力を感じていましたが、保険証券を確認したところ、保険関係費用と資産運用関係費用を合わせて年率約二パーセントが特別勘定から差し引かれていることがわかりました。子どもが独立し住宅ローンも完済していたため、大きな死亡保障の必要性は下がっていると判断し、解約返戻金を確認した上で解約し、掛け捨て型の医療保険と、低コストのインデックス投資信託に運用先を組み替えました。「保険と運用を一つの商品にまとめる分かりやすさより、それぞれを別々に選んだ方が、費用の中身を把握しやすかった」と振り返っています。保険の見直し全般については保険見直しの基礎知識も参考にしてください。
解約前に確認すべき具体的な手順
変額保険の解約を検討する場合は、まず保険会社に解約返戻金の現在額を照会し、払込保険料の総額と比較します。次に、解約控除期間(多くは契約から五年から十年程度)を過ぎているかどうかを確認します。控除期間内であれば、あと数年待つことで控除がなくなり、受け取れる金額が変わる可能性があるため、解約のタイミングを見極める材料になります。また、死亡保障部分だけを別の掛け捨て型保険で確保できるか、生命保険協会の相談窓口や複数の保険代理店の担当者に見積もりを依頼して比較することも実務的な手順です。個人年金保険との違いについては個人年金保険の基礎知識もあわせて確認すると、保険商品全体の位置づけが整理しやすくなります。
加入を続ける場合のリスク管理
変額保険への加入を続ける判断をした場合でも、特別勘定の運用状況を年に一度は保険会社から送られる運用報告書で確認し、株式型の比率が高すぎないか、当初の想定と乖離していないかを見ておくことが実務的です。多くの変額保険では、特別勘定の中の資産配分(株式型、債券型、バランス型など)を契約者自身が変更できる「配分変更」の制度があり、退職後に大きな下落リスクを避けたい場合は、株式型の比率を下げて債券型やバランス型の比率を高める配分変更を行う選択肢もあります。
変額年金保険との違いを整理する
変額保険と似た名前の商品に「変額個人年金保険」があります。こちらは死亡保障よりも老後の年金原資を作ることを主目的とした商品で、年金開始前に死亡した場合に払込保険料相当額が最低保証されるタイプもあれば、運用実績によって受取額が大きく変動するタイプもあります。変額保険が保障と運用の両立を目的とするのに対し、変額個人年金保険は資産形成に重心が置かれている点が異なります。すでに加入している商品がどちらのタイプに該当するかは、保険証券の商品名や契約概要書で確認できます。契約内容を混同したまま見直しの判断をすると、必要な保障まで手放してしまう可能性があるため、まず自分が加入している商品の正確な名称と保障内容を保険会社に問い合わせて確認する作業から始めることが実務的です。退職金の運用先を比較する際は、不動産投資型クラウドファンディングなど変額保険以外の選択肢も把握しておくと判断の幅が広がります。不動産投資型クラウドファンディングとは、退職金運用でのリスクと注意点で解説しています。
よくある質問
Q. 変額保険は退職金の運用先として適していますか。
A. 死亡保障が必要な場合には選択肢の一つになりますが、諸費用が投資信託より高い傾向があり、運用リスクは契約者が負います。保障と運用を分けて、それぞれ低コストな商品を個別に選ぶ方が費用を抑えやすい場合が多いです。
Q. すでに加入している変額保険はどう扱えばよいですか。
A. 解約返戻金の現在額と払込保険料総額を比較し、解約控除期間を過ぎているかを確認します。死亡保障の必要性が下がっている場合は、掛け捨て型保険への切り替えと運用先の見直しを合わせて検討する材料になります。
Q. 特別勘定の運用実績はどこで確認できますか。
A. 契約している保険会社から年に一度送付される運用報告書や、保険会社のウェブサイトの契約者専用ページで、特別勘定ごとの基準価額の推移や配分状況を確認できます。
実際に変額保険の加入・見直しを経験した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


コメント