現役時代は自分が家計の中心で、配偶者を扶養に入れる側だったという人も、定年退職して年金収入だけになると立場が逆転することがあります。まだ働いている配偶者の税法上の扶養に自分が入れるのかどうか、あるいは配偶者控除の金額がどう変わるのかは、多くの家庭で見落とされがちな確認ポイントです。
配偶者控除・配偶者特別控除の基本
配偶者控除は、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の合計所得金額が48万円以下(給与収入だけなら年収103万円以下)の場合に、本人の所得から最大38万円(70歳以上の配偶者は老人控除対象配偶者として最大48万円)を控除できる制度です。配偶者の所得が48万円を超えても133万円以下(給与収入なら201万6千円未満)であれば、控除額が段階的に減っていく配偶者特別控除の対象になります。
定年退職後に立場が逆転するケース
定年退職した夫の年金収入が年間200万円程度になり、まだパートや契約社員として働く妻の年収が150万円前後というような家庭では、夫を妻の税法上の扶養に入れられるかどうかが論点になります。年金収入の場合、65歳以上であれば公的年金等控除額が最低110万円あるため、年金収入約200万円の人の所得は90万円程度となり、配偶者控除の対象となる48万円をやや上回ります。この場合は満額の配偶者控除ではなく、配偶者特別控除(所得90万円台であれば控除額は21万円程度)の対象になる可能性が高くなります。控除額は配偶者の所得が上がるほど段階的に縮小し、所得133万円(年金収入で約243万円)を超えると控除額はゼロになります。
ある六十一歳女性のケース
ある会社員の六十一歳女性は、夫が63歳で定年退職し年金収入が年180万円程度になったことをきっかけに、自分の年末調整で夫を扶養に入れられないか勤務先の経理担当に相談しました。夫の年金収入から公的年金等控除を引いた所得が48万円をわずかに超えていたため、満額の配偶者控除ではなく配偶者特別控除の対象になることが判明。年末調整の扶養控除等申告書に記入し直したところ、女性自身の所得税・住民税の負担が年間で数万円軽減されたといいます。それまでは「夫は年金をもらっているから扶養には入れないもの」と思い込んでいたといい、経理担当者から金額の目安を聞くまでは確認しようとも思わなかったと振り返っています。
税法上の扶養と社会保険上の扶養は別物
配偶者控除は税金の話ですが、健康保険の被扶養者になれるかどうかは別の基準で判定されます。社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被扶養者になるには、原則として年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、かつ被保険者の年収の2分の1未満であることが目安になります。定年退職した夫の年金収入が180万円未満であれば、働く妻の健康保険の被扶養者(第3号被保険者相当)になれる可能性もあり、税法上の扶養とあわせて両方の基準を確認しておくと見落としを防げます。
扶養控除との違い
配偶者以外の親族(親や成人した子どもなど)を扶養に入れる場合は「扶養控除」が適用されます。こちらも合計所得金額48万円以下という所得要件は同じですが、控除額は扶養親族の年齢によって異なり、70歳以上の親を扶養する場合は同居か別居かでも控除額(同居老親等は58万円、その他は48万円)が変わります。定年退職を機に親の介護のために同居を始めた場合などは、この扶養控除の金額が変わる点もあわせて確認しておくとよいでしょう。逆に、親が老人ホームなどの施設に入居して住民票上は別居扱いになると、生計を同じくしていれば控除自体は継続できるものの、同居老親等の加算は受けられなくなる点にも注意が必要です。
控除する側の所得制限にも注意
配偶者控除・配偶者特別控除には、控除を受ける本人の所得制限もあります。本人の合計所得金額が900万円を超えると控除額が段階的に減り、1,000万円を超えると配偶者控除は一切受けられなくなります。定年退職後に再雇用や嘱託で働き続ける人の中には、退職金の分割受け取りや不動産収入などが重なって思いのほか所得が高くなるケースもあるため、配偶者を扶養に入れる側の所得も含めて確認しておく必要があります。
住民税の非課税限度額との関係
配偶者控除の所得税上の要件とは別に、住民税には「均等割・所得割が非課税になる所得水準」が自治体ごとに定められています。多くの市区町村で、扶養親族がいない単身者の非課税限度額はおおむね45万円前後、扶養親族が1人いれば約101万円前後に引き上げられます。配偶者を扶養に入れることで、配偶者控除の対象になるだけでなく、納税者本人の住民税の非課税判定にも影響することがあるため、あわせて確認しておくと家計全体の税負担を把握しやすくなります。
年収の壁と手続きのタイミング
配偶者控除・配偶者特別控除の適用は、年末調整または確定申告で本人が申告することで初めて反映されます。会社員であれば年末に配布される「給与所得者の配偶者控除等申告書」に配偶者の所得見込みを記入する必要があり、記入漏れがあると控除が適用されないまま源泉徴収が行われてしまいます。定年退職した配偶者がいる家庭では、退職した年の年末調整でまだ配偶者の所得が確定しきっていないことも多いため、見込み額で申告し、翌年の確定申告で精算するケースもあります。
関連する手続きもあわせて確認
配偶者の年金にかかる税金や控除の全体像は年金にかかる税金と控除の仕組みで解説しています。健康保険の扶養に関する手続きは退職後の健康保険の切り替え方、退職後の確定申告全般は退職後の確定申告のやり方を参照してください。夫婦それぞれの年収を踏まえた退職後の生活設計は年収別の退職後シミュレーション、世帯全体の収支見通しは退職後の収支シミュレーション、各種保険の見直しは保険の見直し方も参考になります。
よくある質問
Q. 配偶者特別控除は自動的に適用されますか。
A. 自動では適用されません。年末調整であれば「給与所得者の配偶者控除等申告書」への記入、確定申告であれば申告書の配偶者控除等の欄への記入が必要です。記入を忘れると控除がないまま計算されてしまうため注意してください。
Q. 配偶者が繰上げ受給で60代前半から年金を受け取っている場合も同じ基準ですか。
A. 所得税法上の扱いは年齢にかかわらず同じ計算式が使われますが、社会保険の扶養認定基準(130万円か180万円か)は60歳以上かどうかで変わります。繰上げ受給を始めた時点の年齢を基準に、どちらの収入基準が適用されるか確認しておく必要があります。
Q. 夫婦とも年金収入のみになった場合はどちらが控除を受けますか。
A. 所得の多い側が納税者本人となり、所得の少ない側を配偶者として控除の対象にするのが一般的です。ただしどちらも一定額以上の所得がある場合は、双方とも配偶者控除の対象外になることもあるため、それぞれの年金収入から所得を計算して確認することが必要です。夫婦それぞれの源泉徴収票や年金振込通知書に記載された所得金額を突き合わせると、判定がしやすくなります。
実際に定年退職後の配偶者控除・扶養控除の見直しに取り組んだ体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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