定年退職して会社の健康保険から国民健康保険(国保)に切り替えると、保険料の請求額に驚く人が少なくありません。国保料は前年の所得をもとに計算されるため、在職中の給与水準がそのまま反映されるからです。ただし国保には所得に応じた法定軽減や、会社員の扶養家族だった高齢者向けの独自の軽減制度が用意されており、知らずに満額を払い続けている人も多くいます。
国民健康保険料の仕組みをおさらい
国保料は「所得割」「均等割」「平等割(自治体による)」の組み合わせで計算されます。所得割は前年の総所得金額等に保険料率をかけたもの、均等割は加入者一人当たりにかかる定額部分です。市区町村ごとに料率や上限額(賦課限度額、2024年度は医療分・後期高齢者支援金分・介護分の合計で106万円程度)が異なるため、同じ所得でも住む自治体によって年間数万円の差が出ることがあります。
所得に応じた法定軽減(7割・5割・2割)
世帯の前年所得が一定基準を下回ると、均等割と平等割が自動的に7割・5割・2割のいずれかの割合で軽減されます。この判定は世帯主と加入者全員の所得を合算して行われ、申請は原則不要で、市区町村が住民税の申告内容などから自動的に判定します。ただし年金収入以外に一時的な所得(不動産の売却益など)があった年は基準を超えて軽減対象から外れることがあるため、退職した年に資産の整理などを行う予定がある場合は所得の見込みを事前に把握しておくとよいでしょう。
旧被扶養者に対する減免制度
会社の健康保険や共済組合の被扶養者(扶養家族)だった65歳以上の人が、扶養者本人の退職などによって国保に加入する場合、「旧被扶養者減免」という独自の軽減が受けられることがあります。多くの市区町村で、所得割は当面の間全額免除、均等割は資格取得から2年間半額になるという内容です。この制度は本人が65歳以上で、かつ被用者保険の被扶養者だった期間があることが条件となるため、加入手続きの際に「以前は配偶者の扶養に入っていた」ことを窓口ではっきり伝える必要があります。黙っていると軽減が適用されないまま通常料率で決定されてしまうこともあるため注意が必要です。
ある六十五歳女性のケース
ある元パート勤務の六十五歳女性は、長年会社員の夫の健康保険の扶養に入っていましたが、夫が定年退職したことで自身も国保に加入することになりました。市役所の国保年金課窓口で手続きをした際、担当者から「以前は健康保険の扶養に入っていましたか」と尋ねられ、旧被扶養者減免の対象であることが判明。所得割が全額免除となり、想定していたよりも年間の保険料が3万円以上安くなったといいます。本人は「聞かれなければ自分から申し出るとは思わなかった」と話しており、窓口でのやり取り一つで負担額が変わることを実感したそうです。あとで同世代の知人に話したところ、同じように扶養から国保に切り替わったのに減免を知らないまま満額を払っていたケースもあったといい、制度の周知不足を感じたと振り返っています。
年金収入だけになった場合の試算例
年金収入が年間180万円の65歳単身者を例に考えます。公的年金等控除(65歳以上で最低110万円)を差し引いた所得は70万円程度となり、基礎控除43万円を引いた住民税上の所得は27万円程度です。この水準であれば、多くの自治体で7割軽減の対象となり、均等割・平等割が本来の3割に圧縮されます。一方、退職1年目は前年の給与所得(たとえば500万円)がそのまま反映されるため軽減の対象外となり、年間保険料が20万円を超えることも珍しくありません。厚生労働省の「国民健康保険実態調査」でも、所得階級別の保険料(税)算定状況として同程度の水準が示されており、同じ人でも退職1年目と2年目以降で保険料が数倍変わる点は、資金計画を立てるうえで見落とされがちなポイントです。
任意継続被保険者との比較も忘れずに
退職後の医療保険は国保だけでなく、それまでの健康保険を最長2年間継続できる「任意継続被保険者制度」も選択肢になります。保険料は在職時の約2倍(会社負担分もすべて自己負担になるため)ですが、上限額が定められているため、国保より安くなるケースもあります。どちらが有利かは前年所得や扶養家族の人数によって変わるため、両方の見積もりを取って比較することが欠かせません。切り替え手続き全般については退職後の健康保険の切り替え方で詳しく解説しています。
無収入の年でも所得の申告が必要
法定軽減は所得の申告内容をもとに自動判定されるため、確定申告をしていない年があると、たとえ収入がゼロであっても軽減の判定材料がなく、満額の均等割・平等割を請求されてしまうことがあります。給与所得も年金所得もなかった年であっても、市区町村への住民税の申告(いわゆる「住民税の簡易申告」)を済ませておかないと、軽減が適用されないまま賦課決定されるケースがあるため注意が必要です。確定申告をしていれば税務署から市区町村へ情報が連携されるため、あらためての申告は不要です。
高額療養費制度との関係
国保に加入していても、医療費の自己負担には高額療養費制度による上限があります。70歳未満と70歳以上で自己負担限度額の区分が異なり、所得区分によっても上限が変わるため、保険料だけでなく医療費が高額になった場合の負担上限もあわせて把握しておくと安心です。詳しくは高額療養費制度の仕組みを参照してください。また、医療費控除を確定申告で活用する方法は医療費控除の申告方法で解説しています。
介護保険料とあわせて把握する
65歳以上になると、国民健康保険料とは別に介護保険第1号被保険者としての保険料が原則として年金から天引きされます。国保加入と介護保険料の徴収開始が同時期に重なることも多いため、家計への影響をまとめて確認しておくと資金計画が立てやすくなります。詳しくは介護保険料の負担の仕組み、住民税の減免制度については住民税の減免制度もあわせてご覧ください。失業給付を受けている期間は国保料がさらに軽減される特例もあるため、失業保険の申請方法も参考になります。
よくある質問
Q. 旧被扶養者減免は自分で申請しないと受けられませんか。
A. 市区町村によって運用が異なりますが、多くの場合は加入手続きの際に扶養に入っていた事実を自己申告する必要があります。申請書に該当する欄がある自治体もあるため、加入時に「以前は健康保険の扶養家族でしたか」と聞かれなくても、自分から申し出るようにしましょう。
Q. 法定軽減の判定はいつの所得で行われますか。
A. 原則としてその年度の前年(1月から12月)の所得で判定されます。退職した年の翌年度は前年の給与所得が反映されるため軽減の対象になりにくく、退職2年目以降に年金収入だけの所得水準になってから軽減対象になるケースが多く見られます。
Q. 国保料が高くて払えない場合はどうすればよいですか。
A. 法定軽減や旧被扶養者減免のほかに、災害や失業などによる個別の減免制度、分割納付の相談も可能です。納付が難しいと感じた時点で、放置せず市区町村の国保年金課窓口に相談することで、延滞金の発生や資格証明書への切り替えを避けられます。滞納が長期化すると通常の保険証が使えなくなる場合もあるため、早めの相談が結果的に医療費の自己負担を抑えることにもつながります。
実際に国民健康保険料の軽減制度を利用した体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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