老齢基礎年金だけで暮らす65歳以上の人の中には、年金額が低くても知らないまま「年金生活者支援給付金」を受け取っていない人が少なくありません。これは消費税率引き上げの財源を活用して2019年10月に始まった公的な上乗せ給付で、要件を満たせば毎月決まった額が年金と一緒に振り込まれます。請求しなければ支給が始まらない仕組みのため、対象になりそうな人は自分から手続きをする必要があります。
年金生活者支援給付金とは
年金生活者支援給付金には「老齢」「障害」「遺族」の3種類があり、老齢年金生活者支援給付金は、65歳以上で老齢基礎年金を受給しており、かつ所得が一定水準以下の人を対象にしています。日本年金機構が所管し、支給要件を満たしている限り年金と同じ偶数月に振り込まれます。あくまで年金そのものではなく、年金に上乗せされる別建ての給付金という位置づけです。
支給の要件
老齢年金生活者支援給付金を受け取るには、次の3つをすべて満たす必要があります。1つ目は65歳以上で老齢基礎年金を受給していること、2つ目は世帯全員が市区町村民税非課税であること、3つ目は前年の公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額が一定基準額(2024年度は88万9300円)以下であることです。基準額は物価の変動に応じて毎年度見直されるため、境界線に近い所得の人は年度によって対象になったりならなかったりする可能性があります。世帯分離をしている場合とそうでない場合でも住民税の課税判定が変わることがあるため、同居する家族構成に変化があった年は特に確認が必要です。
給付額の計算方法
給付額は「保険料納付済期間に基づく額」と「保険料免除期間に基づく額」の合計で決まります。2024年度の基準では、保険料納付済期間1か月につき月額約1,750円(改定率により毎年度変動、2024年度は約5,310円/480月換算)が支給され、国民年金保険料の全額免除期間がある場合はその期間に応じて別途加算があります。国民年金を40年間(480か月)満額で納めていた人でも、所得基準を満たせば月5,000円台の給付を受けられる計算になり、免除期間が多い人ほど加算額が増える仕組みになっています。
ある六十五歳女性のケース
ある元パート勤務の六十五歳女性は、専業主婦期間が長く国民年金の保険料納付済期間が短かったため、老齢基礎年金の受給額が月5万円台にとどまっていました。年金請求の手続きで訪れた年金事務所の窓口で「所得の基準を満たしていれば年金生活者支援給付金の対象になる可能性がある」と案内され、その場で請求書を提出。結果として月5,000円台の給付金が年金に上乗せされるようになり、「知らなければ一生もらえないままだった」と話しています。年額にすると6万円台になり、固定資産税や火災保険料の支払いにちょうど充てられる金額になったと家計への影響を振り返っています。
請求手続きの流れ
65歳になって老齢基礎年金の請求と同時に該当する見込みがある場合は、年金請求書と同封されている「年金生活者支援給付金請求書」をあわせて提出することで、年金の受給開始と同時に審査が行われます。すでに老齢基礎年金を受給していて後から要件を満たすようになった人は、年金事務所または街角の年金相談センターの窓口で個別に請求書を提出する必要があります。マイナンバーの記載により所得情報の照会が省略できる場合もありますが、窓口では基礎年金番号のわかる年金手帳や年金証書の持参を求められます。郵送での請求も可能で、日本年金機構のホームページから請求書様式をダウンロードし、必要事項を記入して返送する方法もあります。
毎年の所得審査で自動的に増減する
一度認定されても、給付金は前年の所得に応じて毎年10月分から翌年9月分まで見直されます。年によって所得が基準額を上回れば支給が停止し、翌年再び基準を下回れば自動的に再開されます。ただし支給が停止されている期間が続くと、あらためて請求書の提出を求められることもあるため、日本年金機構から届く「支給有無のお知らせ」は必ず確認しておく必要があります。
基準額をわずかに超える人向けの補足的給付金
所得基準額をわずかに超えてしまい本来の給付金を受け取れない人向けに「補足的老齢年金生活者支援給付金」という緩和措置も設けられています。前年所得が基準額を超えていても一定の範囲内であれば、基準額を超えた分に応じて給付額が段階的に減額される形で支給されるため、境界線付近の所得の人でも一部の給付を受けられる可能性があります。判定は年金事務所が所得情報をもとに自動的に行うため、対象になりそうな人は請求書を提出しておけば、実際にどちらの区分で支給されるかは審査結果を待つ形になります。
繰上げ受給者は原則65歳から対象
老齢基礎年金を60歳から64歳の間に繰り上げて受給していても、年金生活者支援給付金の支給開始は原則として65歳からです。繰上げ受給によって年金額が減額されている場合でも、給付金自体は減額前の納付済期間に基づいて計算されるため、繰上げ受給を選ぶかどうかの判断材料の一つとして、65歳以降にこの給付金がいくら上乗せされるかも含めて資金計画を立てておくと見通しが立てやすくなります。
他の年金制度との関係
年金生活者支援給付金は非課税扱いのため、住民税や国民健康保険料の算定基礎となる所得には含まれません。年金の受給開始時期を早める・遅らせるかの判断は、この給付金の対象になるかどうかにも影響するため、年金の繰上げ・繰下げ受給の選び方とあわせて検討する材料になります。公的年金にかかる税金や控除の全体像は年金にかかる税金と控除の仕組み、遺族年金を受け取る立場になった場合は遺族年金の仕組み、障害年金との関係については障害年金の選択肢も参考にしてください。年金事務所や市区町村の窓口を訪ねる前のチェックリストとしては相談窓口へ行く前のチェックリスト、老後資金全体の取り崩し方は老後資金の取り崩し方も役立ちます。
よくある質問
Q. 厚生年金を受給している場合はもらえませんか。
A. 老齢基礎年金を受給していれば、厚生年金をあわせて受給していても対象になり得ます。判定に使われるのは公的年金等の収入金額とその他の所得の合計額であり、基準額を超えていなければ厚生年金の受給と併給できます。
Q. 請求を忘れていた場合、さかのぼって受け取れますか。
A. 請求した月の翌月分からの支給が原則で、さかのぼって受け取ることは基本的にできません。65歳になった時点で要件を満たしていそうな人は、年金請求と同時に手続きを済ませておくことが確実です。数年分をまとめて請求できないという点は、通常の年金の時効(5年)とは異なる扱いなので混同しないよう注意してください。
Q. 配偶者の所得も判定に影響しますか。
A. 所得基準の判定自体は本人の所得で行われますが、市区町村民税非課税という要件には世帯全体の課税状況が関わります。配偶者に一定以上の所得があり世帯として住民税が課税されている場合は、本人の年金額が低くても対象外になることがあります。同居する子どもの所得も世帯の課税状況に影響することがあるため、同居家族の税申告状況とあわせて確認しておくと判定の見通しを立てやすくなります。
実際に年金生活者支援給付金を請求して受け取るようになった体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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