定年退職後、頭を使う時間を意識的に作りたいという人に選ばれているのが囲碁・将棋クラブだ。将棋会館や囲碁サロンに通う人の年齢層は年々上がっており、六十代から本格的に始めて段位を取得する人も珍しくない。対局を通じて自然と会話が生まれ、年齢や職業の異なる相手と定期的に顔を合わせる関係ができるのも特徴だ。ここでは教室・クラブの種類、費用、上達の流れ、続けるコツを具体的にまとめる。
囲碁・将棋クラブの種類
まず選択肢になるのが、日本将棋連盟や日本棋院が運営・認定する「将棋道場」「囲碁サロン」だ。都市部の主要駅前に多く、一日の対局料は五百円から千五百円程度で、会員登録すれば回数券や月謝制で割安に通える。次に、公民館や地域の福祉センターが開く無料または低額のクラブがあり、月二、三回の開催で会費は月数百円というところも多い。三つ目は、カルチャーセンターの囲碁・将棋講座で、プロ棋士や指導員資格を持つ講師から体系的に教わることができる。まったくの初心者は公民館クラブか初心者向け講座から入り、ルールと基本の型を覚えてから道場に移る流れが無理がない。自分に合う教室の探し方は趣味サークルの探し方でも紹介している。
オンライン対局との併用
近年は将棋ウォーズや囲碁クエストといったオンライン対局アプリを併用する人も多い。自宅で好きな時間に対局できる手軽さがある一方、対面での対局に比べて相手の表情や間合いを感じにくいという声もある。通所型のクラブに通いながら、練習量を増やす目的でオンライン対局を補助的に使うという組み合わせ方が現実的だ。スマートフォンの操作に不安がある場合はスマホ・SNSとの付き合い方を先に確認しておくとよい。
費用と上達の目安
将棋道場の場合、月会費は三千円から六千円程度で、これとは別に一回ごとの対局料がかかる道場もある。囲碁サロンも同水準で、初段前後までは月一万円以内に収まることが多い。上達の目安としては、まったくの初心者でも週一回の対局を半年から一年続ければ、級位で二、三段階は上がっていくのが一般的だ。将棋・囲碁ともに段位認定のための昇級・昇段試験を実施している連盟・道場が多く、目標を持って取り組める仕組みが整っている。趣味にかける費用も含めた家計管理は退職後の家計簿の見直し方で詳しく取り上げている。
指導者から学ぶという選択肢
日本将棋連盟や日本棋院には「指導員」「普及指導員」という資格制度があり、一定の棋力がある人が受験できる。この資格を持つ講師がいる教室では、対局後に一手ずつ振り返る「感想戦」を丁寧に指導してもらえるため、独学では気づきにくい癖を修正しやすい。自分も将来的に指導員を目指したいという場合は、早い段階から資格保有者のいる道場を選んでおくと道筋が見えやすい。指導的な立場に関心がある人はスポーツ指導員・審判資格の取り方で紹介している考え方も参考になる。
始めてからの変化
ある元システムエンジニアの六十五歳男性は、退職後に自宅近くの将棋道場に通い始めた。現役時代は将棋のルールを知っている程度だったが、週二回のペースで一年間通い、初段の認定を受けるまでになったという。「盤面に集中している間は仕事の心配事を忘れられる」と話し、道場で知り合った七十代の常連から手筋を教わることも多いそうだ。一方で、最初の数か月は負けが続き悔しさから足が遠のきかけたが、道場主から「初段になるまでは誰でも負け続ける」と声をかけられ、通い続ける気持ちを取り戻したという。今では月一回の大会にも参加し、対局後の食事会が楽しみの一つになっている。退職後に新しい交友関係を築く際の距離感については一人時間との付き合い方も参考になる。
大会や交流イベントへの参加
多くの道場やクラブでは、月例大会や地域対抗戦を開催している。大会は初心者向けの級位別クラスから設定されていることが多く、いきなり上級者と当たる心配は少ない。地域によっては小学生から高齢者まで参加する世代交流の大会もあり、孫世代との会話のきっかけになったという声も聞かれる。年に一度、都道府県単位で開かれるシニア向けの囲碁・将棋大会に出場することを目標にする人もいる。
認知機能への効果と過信しないこと
囲碁・将棋は先を読む思考を繰り返すため、認知機能の維持に役立つという研究報告がいくつも発表されている。ある地域の囲碁サロンでは、七十代・八十代の会員が「盤面を見ている間は頭がすっきりする」と話すことが多く、脳トレを目的に通う高齢者も少なくない。ただし、対局だけで健康全般が保証されるわけではなく、適度な運動や食生活とあわせて生活全体を整える一部として捉えておくと現実的だ。実際、道場に長く通う会員ほど、対局の行き帰りに歩く習慣が自然と身についているという声もある。
女性会員の増加
かつて将棋道場や囲碁サロンは男性会員が中心だったが、近年は女性棋士の活躍もあって女性会員が増えている。ある囲碁サロンでは、退職後に夫婦で通い始めた六十代の女性が「最初は夫の付き添いのつもりだったが、今では自分の方が段位が上になった」と笑って話す。女性専用の時間帯を設けている道場や、女性同士のグループ対局を企画するサロンもあり、一人での参加に不安がある人は事前に問い合わせて雰囲気を確認しておくとよい。
道具を揃える楽しみ
将棋盤・駒、囲碁盤・碁石は、入門用のプラスチック製なら三千円から五千円程度で揃えられるが、木製の本格的な盤や、蛤(はまぐり)を使った碁石など、こだわり出すと数万円単位の品もある。道場に通ううちに自分専用の盤や駒への愛着が湧き、腕前が上がるにつれて少しずつ良い道具に買い替えていくという楽しみ方をする人も多い。特に将棋の駒は書体や木材の種類によって表情が変わり、骨董市や将棋会館の売店で気に入った一組を探す時間そのものを趣味にしている愛好家もいる。自宅で一人で並べて眺めるだけでも、対局のない日の楽しみになる。定年前から自宅に将棋盤を置いていたが、忙しさから何年も使わずにしまい込んでいたという人が、退職を機に道場通いを再開するきっかけとして箱から取り出すケースも多く聞かれる。学生時代や若手社員のころに指していた記憶を頼りに、ルールを思い出しながら少しずつ勘を取り戻していく過程も、囲碁・将棋ならではの再入門の面白さといえる。
よくある質問
Q. ルールを全く知らないが、六十代から始めても大丈夫か。
A. 公民館クラブやカルチャーセンターの初心者講座では、駒の動かし方や石の置き方から丁寧に教えてくれる。まったくの未経験から始めて数年で級位者として大会に出場するようになった六十代の例も多い。
Q. 対局中に長時間座り続けるのが体力的に不安だが。
A. 対局時間は持ち時間の設定次第で調整でき、初心者向けの早指し対局なら一局十五分から三十分程度で終わることが多い。休憩を挟みながら参加できる道場も多く、体力に応じたペースで通える。
Q. 囲碁と将棋、どちらを選べばよいか。
A. どちらもルールを覚える難易度は大きく変わらない。将棋は駒の動きに個性があり戦略の幅が広く、囲碁は陣地の取り合いというシンプルな目的の中に奥深さがある。両方の体験教室に参加してみて、盤面を眺めていて楽しいと感じた方を選ぶという決め方でよい。
実際に定年後に囲碁・将棋クラブへ通い始めた方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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