定年退職後に声を出す機会が減ったと感じる人は多い。会議での発言、部下への指示、取引先との電話——会社員時代は一日に何度も声を使っていたのに、退職した途端にその回数が急に減る。合唱団やコーラスサークルは、体を使って声を出す習慣を取り戻しながら、新しい人間関係も広がる活動として、六十代からの入団者が全国で増えている。ここでは団体の種類、費用、練習の実際、続けるコツを具体的に紹介する。
合唱団にはどんな種類があるか
地域の合唱団は大きく三つに分かれる。一つ目は市民合唱団で、市区町村の文化会館や公民館を拠点に活動し、年一、二回の定期演奏会を目標に練習する。会費は月千円から三千円程度と安く、初心者からベテランまで幅広い層が集まる。二つ目は宗教施設や大学のOB・OG合唱団で、伝統的な合唱曲を専門的に扱うため一定の経験が求められることもある。三つ目はシニア向けに特化したコーラスサークルで、公民館講座や社会福祉協議会が主催し、発声練習から丁寧に教えてくれるため未経験者でも入りやすい。まったく歌った経験がない人は、まず三つ目のシニア向けサークルから始めて、慣れてきたら市民合唱団に移るという進み方が無理がない。趣味の団体を探す一般的な手順は趣味サークルの探し方で紹介している。
体験参加の探し方
合唱団の情報は、自治体の広報誌の文化・生涯学習欄、公民館の掲示板、地域の文化会館のウェブサイトに掲載されることが多い。全日本合唱連盟の支部ページでは加盟団体の一覧を確認でき、体験練習の可否を問い合わせられる。見学だけでなく、一度練習に混ざってみて発声のペースや曲の難易度が自分に合うかを確かめてから入団を決めるとよい。多くの団体は年会費制で、途中入団の場合は月割りで会費を調整してくれる。公民館の講座情報をまとめて確認する方法は大学公開講座・聴講生制度の活用法とあわせて参考になる。
費用と練習の実際
市民合唱団の場合、年会費は一万二千円から二万四千円程度が相場で、これに楽譜代(一曲数百円から千円)、演奏会の衣装代、会場までの交通費がかかる。練習は週一回、二時間程度が一般的で、平日夜または土日の午前中に設定されている団体が多い。定期演奏会の前は練習回数が増えることもあるが、通常期は無理のない頻度で続けられる。ピアノ伴奏者や指揮者を招いている団体では、講師謝礼分として会費がやや高めに設定される場合もある。趣味にかける費用を含めた家計の考え方は退職後の家計簿の見直し方にまとめている。
楽譜が読めなくても大丈夫か
楽譜を読めない人でも、パートリーダーが音を取ってくれたり、音源を配布してくれたりする団体がほとんどで、耳で覚えて練習に参加できる。実際、六十代から合唱を始めた人の多くは楽譜の読み方を知らないまま入団し、数か月の練習を通じて自然と簡単な読譜ができるようになっている。むしろ、最初から完璧に読めることよりも、声を出し続けることの方が上達の近道になる。
始めてからの変化
ある元銀行員の六十三歳男性は、退職後の運動不足解消も兼ねて地元の男声合唱団に入団した。最初の練習では声が出づらく息切れもしたが、三か月ほど続けるうちに腹式呼吸が身につき、風邪をひきにくくなったと感じているという。「会社では役職で呼ばれていたが、合唱団では下の名前で呼ばれる。それが新鮮だった」とも話す。練習後に近くの喫茶店で仲間と話す時間が、退職前には想像していなかった楽しみになったそうだ。退職後の孤独感との向き合い方は退職後の孤独感との向き合い方でも取り上げている。一方で、最初の数回は周囲のレベルについていけず気後れしたといい、パートリーダーに個別に発声のコツを教えてもらいながら徐々に慣れていったという。
発表の場と継続のコツ
多くの合唱団は年一、二回の定期演奏会のほか、地域の文化祭や福祉施設への訪問演奏にも参加する。人前で歌う機会があることが、練習を続ける動機づけになっている人も多い。続けるコツとしては、最初から難しい曲に挑戦する団体を選ばず、自分の声域や体力に合ったペースで練習できる団体を選ぶことが挙げられる。また、複数の団体を掛け持ちする人も一定数おり、市民合唱団と教会音楽のグループを両方続けているという六十代の例もある。日々の生活リズムに練習を組み込む工夫はラジオ体操・朝の習慣づくりの考え方とも通じる。
クラシック合唱以外の選択肢
伝統的な混声合唱だけでなく、ポップスやゴスペル、シャンソンを扱うコーラスサークルも増えている。ポップスコーラスは近年ヒットした曲をアレンジして歌うことが多く、譜面を読む負担が少ないため未経験者に人気がある。ゴスペルサークルは体を動かしながら歌う練習スタイルが特徴で、発声とあわせて軽い運動効果も期待できる。シャンソンサークルは一人ずつ歌う練習も取り入れる団体が多く、人前で歌う経験を積みたい人に向いている。自分がどんなジャンルの曲を歌いたいかを先に考えてから団体を探すと、練習内容のミスマッチを避けられる。
声を出すことの体への効果
合唱は腹式呼吸を使うため、肺活量の維持や姿勢の改善につながると言われている。元中学校教員の六十一歳女性は、退職後にのどの調子を整える目的で近所のコーラスサークルに通い始めた。半年後の健康診断で肺機能の数値がわずかに改善していたといい、「歌うことがこれほど体に効くとは思わなかった」と話している。また、大きな声で笑ったり歌ったりする機会そのものが減っていた生活の中で、週一回でも思い切り声を出す時間があることが気分転換になっているという声も多く聞かれる。練習前後のストレッチを欠かさない団体も多く、姿勢を意識した発声指導が体幹の維持にも役立っている。マスク着用が求められる時期は歌唱ができない期間が続いたこともあったが、換気を徹底した会場での練習に切り替えるなど、団体ごとに運営方法を工夫しながら活動を続けてきた経緯もある。
入団前に確認しておきたいこと
入団を決める前に、練習会場までの交通手段、練習曜日と自分の予定との兼ね合い、年会費の支払い方法(一括か分割か)を確認しておくと、入団後に「思っていた条件と違った」という食い違いを防げる。また、演奏会の衣装や交通費など、会費以外にかかる費用を事前に聞いておくことも欠かせない。多くの団体は見学者向けにパンフレットを用意しているため、遠慮せずに複数枚もらって比較すると選びやすい。
よくある質問
Q. 声域が狭くなってきたが、それでも入団できるか。
A. 年齢とともに声域が狭くなるのは自然なことで、合唱団では各自の声域に合わせてパート(ソプラノ・アルト・テノール・バスなど)を割り振る。入団時に体験練習で声を聞いてもらい、無理のない声域のパートを提案してもらえる団体がほとんどだ。
Q. 人前で歌うのが恥ずかしいが、演奏会への参加は必須か。
A. 団体によっては練習のみの参加も認めており、演奏会出演は任意としているところもある。入団前に「練習だけの参加は可能か」を確認しておくと安心して始められる。
Q. 男性は少数派だと聞くが、実際はどうか。
A. 一般的な混声合唱団では女性が多数を占める傾向にあるが、男声パートは常に不足気味で歓迎されやすい。男声合唱団を専門に探せば、同世代の男性が中心のコミュニティで活動できる。
実際に定年後に合唱団・コーラスサークルへ参加した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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