毎年12月になると宛名書きに追われていた年賀状も、定年を過ぎた頃から「そろそろやめようか」と考える人が増えてきます。現役時代は仕事の取引先や上司への儀礼的な意味合いも大きかった年賀状ですが、退職後はその必然性が薄れる一方で、何百枚もの宛名を手書き、あるいはパソコンで作成し続ける労力は変わりません。この「年賀状じまい」という決断は、人付き合いを断つことではなく、限られた気力と時間をどこに使うかを見直す作業です。やめ方を間違えると相手に誤解されかねないため、伝え方と、その後のつながりの保ち方をセットで考えておく必要があります。
年賀状じまいを選ぶ人が増えている背景
年賀状じまいを選ぶ理由は人によって様々ですが、大きく3つに整理できます。1つ目は体力・気力の面です。何十枚、多い人では200枚を超える年賀状を、宛名確認から印刷、一言添え書き、投函まで年末の忙しい時期に行うのは、年齢を重ねるほど負担が大きくなります。2つ目は費用です。はがき代が1枚85円になった今、200枚出せば1万7千円、印刷代を含めればさらにかかり、年に一度とはいえ小さくない出費です。3つ目は、そもそも普段連絡を取っていない相手との形式的なやり取りへの違和感で、「顔も思い出せない人に惰性で送り続けている」ことに疑問を感じる人も少なくありません。こうした理由が重なり、60代から70代にかけて年賀状じまいを実行する人が年々増えています。
角を立てずに伝える「最後の年賀状」の書き方
年賀状じまいを突然やめてしまうと、相手によっては「体調を崩したのでは」「何か気に障ることをしたか」と心配や誤解を招くことがあります。そのため、やめる意思を明確に伝える最後の一枚を出すのが基本的な流れです。文面には次の3つの要素を入れておくと、角が立ちにくくなります。
- 長年のやり取りへの感謝の言葉
- 今後は年賀状での挨拶を控える旨とその簡単な理由(「今後は電話や別の形でご挨拶させていただきたく」など、負担を感じさせない表現)
- 連絡を絶つわけではないという一言と、代わりの連絡手段(電話番号やメールアドレスなど)
「今後年賀状は控えさせていただきます」だけで終えると素っ気なく感じられることがあるため、「〇〇さんとのご縁はこれからも大切にしたいと思っております」といった一文を添えると、関係を切るのではなく形を変えるだけだという意図が伝わりやすくなります。退職時の挨拶メールの書き方で紹介されている、感謝を先に述べてから用件を伝えるという文章の型は、年賀状じまいの案内状にもそのまま応用できます。実家の親世代が年賀状じまいをする際、あて先ごとに文面を変える余裕がなければ、印刷する定型文に加えて、特に親しい相手にだけ数行の手書きコメントを添えるという工夫も現実的です。
相手によって伝え方を変える
会社時代の取引先や、数年に一度しか会わない遠縁の親戚には、文面での一斉案内で十分です。一方、学生時代からの友人や、毎年近況を書き添え合っているような相手には、年賀状じまいの案内状を送るだけでなく、電話やメールで一言直接伝えておくと、より丁寧な印象になります。特に高齢の相手の場合、年賀状じまいの案内状自体を見落としてしまうこともあるため、翌年の年始に「今年から年賀状はお休みしていますが、お変わりありませんか」と電話で確認を入れると、案内が伝わっていなかったことによるすれ違いを防げます。
年賀状に代わるつながりの保ち方
年賀状じまいの後にありがちな失敗は、「やめる」ことだけを決めて、その後の連絡手段を何も決めないまま年が明けてしまうことです。年に一度のやり取りが完全になくなると、疎遠になっていくきっかけにもなりかねません。年賀状の代わりとして、次のような手段を組み合わせておくと、関係が自然に続きます。
まず、元日や松の内のうちに電話で一言挨拶をする方法です。手間はかかりますが、声を聞くことで文字だけのやり取りより近況が伝わりやすく、5分の会話が年賀状一枚以上の意味を持つこともあります。次に、スマートフォンでのSNS活用術で紹介しているように、LINEやメールで新年の挨拶を送る方法です。写真を添えられる、返信のやり取りがしやすいといった利点があり、体力的な負担も少なく済みます。さらに、暑中見舞いや誕生日カードなど、年始以外のタイミングで近況を伝え合う習慣に切り替えるという方法もあります。年賀状という形式にこだわらず、年に一度でも気持ちが伝わる接点さえ残しておけば、関係が途切れることはまずありません。
手紙という手段そのものは残す選択肢もある
年賀状という「毎年決まった時期に大量に送る」形式をやめるだけで、手紙や葉書を書くこと自体をやめる必要はありません。特に親しい数人に対しては、年始にこだわらず、季節の変わり目や相手の誕生日にあわせて一筆書き添えるほうが、かえって心のこもったやり取りになったという声もあります。離れて暮らす孫との付き合い方で触れているように、写真や近況を交えた手紙は、年に一度の形式的な挨拶より温かみを伝えやすい手段でもあります。年賀状じまいは「関係の総量を減らす」のではなく、「形式的な部分を減らし、個別のつながりに時間を使う」ことだと捉え直すと、決断そのものへの後ろめたさも軽くなります。
やめる理由を「節目」に乗せると伝わりやすい
年賀状じまいの理由を正直に「負担だから」とだけ書くと、味気なく感じる人もいます。定年退職、古希や喜寿といった節目の年齢、あるいは転居のタイミングに合わせて「この度〇〇を機に」と添えると、単なる面倒さからの撤退ではなく、生活の区切りとしての決断だと伝わりやすくなります。実際、年賀状じまいを検討している人の多くが、定年退職の翌年の年始を最初の実行タイミングに選んでおり、「現役を退いたのだから形式的な付き合いも整理する」という説明が相手にも自然に受け止められやすいようです。
地域や趣味のつながりで補う
年賀状でしか接点がなかった相手との関係が自然に整理される一方で、日常的な顔の見えるつながりを別に持っておくことも、孤立を防ぐ上で役立ちます。町内会・自治会に馴染むコツで触れているような地域の集まりに参加していれば、年始の挨拶は顔を合わせた際の会話で十分に果たせますし、年賀状のやり取りが減った分、地域や趣味を通じた新しい人間関係が生活の中心になっていくケースも多く見られます。
ある68歳の男性は、退職を機に年賀状じまいを決意し、案内状には「電話でお声がけください」と携帯電話の番号を添えて送ったところ、元日に3人の旧友から電話がかかってきたといいます。「はがきより電話のほうが、お互いの声の調子まで伝わって、実はこちらの方が近況が分かる」と話しており、形式を変えたことでかえって関係が深まったと感じているそうです。
よくある質問
Q. 年賀状じまいの案内状はいつ出せばよいですか。
A. 最後にやめる旨を伝えるなら、その年の年賀状として出すのが最も自然です。年賀状の時期を逃した場合は、寒中見舞いとして2月上旬までに出す方法もあります。
Q. 一部の人にだけ年賀状を続けるのは失礼にあたりますか。
A. 失礼にはあたりません。形式的な相手には案内状で一律にやめる旨を伝え、特に親しい数人には個別に手紙や電話で続ける形にしても問題ありません。相手ごとに関係の深さが違うのは自然なことです。
Q. 相手から年賀状じまいを知らせる年賀状が届いたら、どう返せばよいですか。
A. 無理に返信の年賀状を用意する必要はありません。代わりの連絡先が書かれていれば、電話やメールで「ご連絡ありがとうございます、こちらこそよろしくお願いします」と一言伝えるだけで十分に気持ちは伝わります。
年賀状じまいは関係を断つ手段ではなく、続けやすい形に変える判断です。実際に年賀状じまいを経験した人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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