「大学でもう一度学びたいけれど、入学試験を受けて何年も通う自信はない」。定年退職後にそう感じる人は少なくありません。実は大学には、入試を受けずに授業だけに参加できる「聴講生制度」や、誰でも申し込める「公開講座」といった仕組みが用意されています。学位取得を目指す正規の進学とは違い、興味のある分野を気軽に試せる入り口として、退職後の学び直しの選択肢に加えておきたい制度です。
聴講生と公開講座の違い
聴講生制度は、大学が開講している正規の授業科目のうち一部を選んで受講できる仕組みです。単位取得や卒業を目的としないため、入試や高い学力は求められず、科目等履修生に比べても手続きが簡単な大学が多くあります。一方の公開講座は、大学が地域住民や社会人向けに独自に企画する講座で、テーマは歴史や文学、経済、健康科学など多岐にわたります。数回で完結する短期講座から、半年かけて学ぶシリーズ講座まで形式は様々です。聴講生は既存の学生と同じ教室で正規の授業を受ける点、公開講座は大学が一般向けに設計した独立した講座である点が大きな違いです。
費用の目安
聴講生は単位認定を伴わないため、科目等履修生よりも受講料が抑えられている大学が多く、1科目あたり2万〜5万円程度が相場です。国立大学では検定料や入学料が別途かかる場合もありますが、私立大学の中にはシニア向けに受講料を半額程度に設定しているところもあります。公開講座はさらに幅が広く、自治体と連携した無料の講座から、専門的な内容を扱う数千円〜2万円程度の有料講座まであります。生涯学習センターが窓口となっている大学では、60歳以上を対象にした受講料割引制度を設けているケースも見られ、費用面のハードルは正規進学よりかなり低く抑えられます。
探し方と申し込みの流れ
多くの大学は「生涯学習センター」や「エクステンションセンター」といった専門部署を設けており、そのウェブサイトで聴講生の募集要項や公開講座の年間スケジュールを公開しています。申し込みは春学期・秋学期ごとの募集期間内に願書や申込書を提出する形が一般的で、聴講生の場合は面談や簡単な書類審査が課される大学もあります。公開講座は先着順やはがき応募が多く、人気の講座は開講日前に定員に達することも珍しくありません。地元の大学だけでなく、近隣県の大学までエリアを広げて探すと、選択肢が大きく増えます。複数の大学の生涯学習センターのメールマガジンに登録しておくと、新しい講座の募集情報が届くたびに比較検討できるようになります。元高校教員の65歳、Fさんは、退職後に地元国立大学の生涯学習センターのサイトを見て、専門外だった考古学の聴講生に申し込みました。「学生に混じって講義を受けるのは緊張したが、質問すれば教授が丁寧に答えてくれ、想像以上に居心地がよかった」と話しています。
実際にどんな講座があるか
早稲田大学エクステンションセンターや慶應義塾大学の福澤諭吉記念文明塾のように、都市部の私立大学は社会人向け講座を長年運営しており、語学から哲学、資産形成まで幅広いラインナップを揃えています。地方の国立大学でも、地域史や郷土文化、農業技術といった土地に根ざしたテーマの公開講座が定期的に開かれており、地元の大学だからこそ得られる専門的な視点に触れられます。放送大学のように、面接授業とオンライン授業を組み合わせて全国どこからでも受講できる仕組みを整えている大学もあり、地方在住でも学びの選択肢を狭める必要はありません。
「試してから決める」という学び方
正規の学部や大学院への入学は、入試対策や数年単位の通学を前提とするため、退職後にいきなり踏み切るには不安が伴います。聴講生や公開講座であれば、1科目・1テーマだけを1学期分試し、自分に合うかどうかを確かめてから次のステップを考えられます。数万円の受講料で分野との相性を見極められるなら、数百万円単位の学費がかかる正規進学より試行錯誤のコストは格段に低くなります。興味の幅を広げてから進学先を絞り込みたい人にとって、いわば「お試し受講」としての役割を果たします。実際に聴講生として1年学んでから科目等履修生や大学院の社会人入試に切り替える人もおり、段階を踏んで進学先を絞り込む道筋としても使えます。大学での本格的な学び直しに関心がある場合は大学・カルチャースクールへの学び直し進学もあわせて比較しておくと、自分に合った学び方の輪郭がはっきりします。
学びを生活の一部にする
週1回大学に通うだけでも、退職後の生活に規則的なリズムが生まれます。キャンパス内の食堂や図書館を利用できる大学も多く、講義の前後に若い学生たちの活気に触れることも、職場を離れて感じにくくなった刺激を取り戻す機会になります。予習や課題図書を読む時間が加わることで、読書量が自然と増えたという声もよく聞かれます。読書を通じた学び直しの楽しみ方は読書・学び直しの楽しみ方、講座で出会った受講生同士のつながりからサークル活動に発展するケースもあり定年後に始めやすい趣味・サークルの探し方も参考になります。学びたいことのリストを整理してから受講先を選びたい人は退職後にやりたいことリストの作り方も役立つはずです。
教える側に回る道もある
学び続けるうちに、自分の専門分野や職務経験を今度は教える立場で発信したいと考える人も出てきます。大学の非常勤講師として登壇する道もあり大学の非常勤講師・地域講師という働き方で取り上げています。学ぶ側から教える側への転換を視野に入れると、聴講生としての経験がその後の選択肢を広げる一歩にもなります。講座での発表や議論の経験は、人前で話す感覚を取り戻すきっかけにもなり、現役時代のプレゼン経験とは違う形の学びとして受け止める人も多いです。
よくある質問
Q. 高校の卒業証明書がなくても申し込めますか。
A. 大学や講座の種類によって異なりますが、公開講座は学歴を問わないものがほとんどです。聴講生制度も大学によって条件が異なるため、生涯学習センターに事前に問い合わせて確認しておくと確実です。
Q. 途中で授業についていけなくなったらどうすればいいですか。
A. 単位取得が目的ではないため、無理に全講義に出席し続ける必要はありません。担当教員に相談すれば出席頻度を調整できる場合が多く、興味のある回だけ選んで参加する聴講生もいます。
Q. オンラインで受けられる講座はありますか。
A. 近年はオンデマンド配信やオンライン公開講座を実施する大学が増えており、通学が難しい人でも自宅から参加できる講座が広がっています。大学の生涯学習センターのサイトで開講形式を確認してみましょう。
Q. 何歳まで申し込めますか。
A. 年齢の上限を設けている大学はほとんどありません。実際に80代で聴講生として学び続けている受講者もおり、最初は週1科目に絞り、通学の負担を確かめてから科目数を増やす人が多いです。
聴講生制度や公開講座は、学位取得という大きな目標を掲げなくても、純粋な知的好奇心から気軽に始められる学びの入り口です。まずは近くの大学の生涯学習センターのサイトを開き、興味を引く講座があるか探してみましょう。
実際に大学の聴講生・公開講座を利用している人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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