定年後、配偶者の外出が増えたり、単身で暮らすようになったりして「一人分だけ食事を作る」機会が増えた人は少なくありません。長年、家族の人数分をまとめて作ってきた人ほど、一人分の献立は意外と組み立てにくいものです。品数を減らしたつもりが結局同じようなメニューの繰り返しになり、気づけば栄養が偏っていた、というのはよくある落とし穴です。一人分の食事だからこそ、意識して整えないと栄養バランスは簡単に崩れます。
一人分の食事で最初に欠けやすい栄養
一人分の食事で真っ先に減るのが、たんぱく質源の種類と、野菜の品数です。肉や魚を一人分だけ買って使い切るのは手間がかかるため、卵や納豆といった手軽な一品に偏りがちになり、日によって主菜そのものを省いてしまう人もいます。また、野菜も一人分だと使い切れずに傷ませてしまう心配から、キャベツやもやしなど日持ちする数種類に固定化しやすく、結果として色や種類の少ない食卓になりがちです。品数が少なくても品目を工夫すれば栄養は補えますが、「作るのが面倒だから」と品数そのものを削ってしまうと、炭水化物中心の単調な食事に寄っていきます。
特に見落とされやすいのが、噛む力や消化力の低下に合わせて、無意識のうちに柔らかい炭水化物中心の食事(うどんやおかゆ、パンのみなど)を選ぶ回数が増えることです。一品で完結して片付けも楽なため、忙しくない日でもつい選んでしまいますが、続けるとたんぱく質やビタミン・食物繊維の不足につながります。
主食・主菜・副菜という組み立て方
栄養バランスを毎回細かく計算するのは現実的ではありませんが、「主食・主菜・副菜」という3つの枠で献立を考えるだけで、大きな偏りは防げます。主食はご飯やパンなどのエネルギー源、主菜は肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質源、副菜は野菜・きのこ・海藻などのビタミン・ミネラル・食物繊維源です。この3つを毎食すべて揃えるのが難しい日でも、1日の中でどこかに抜けている枠がないかを振り返るだけで、翌日の献立を調整しやすくなります。例えば昼にうどんだけで済ませた日は、夜に主菜と副菜を意識的に増やす、といった帳尻合わせで十分です。
コンビニやスーパーの惣菜を利用する場合も、この3枠を意識して組み合わせると偏りを防げます。おにぎり(主食)だけで済ませず、焼き魚や冷奴などの惣菜(主菜)、お浸しやサラダ(副菜)を一品ずつ加えるだけで、栄養バランスはぐっと整います。惣菜のパッケージに記載された栄養成分表示を見て、たんぱく質量が極端に少ない組み合わせになっていないか確認する習慣も、一人分の食事を整える助けになります。
一人分でも無駄にならない実践的な工夫
冷凍保存を軸にする
肉や魚は購入したその日のうちに1食分ずつ小分けにしてラップに包み、冷凍しておくと、必要な分だけ解凍して使えます。下味をつけてから冷凍すれば、解凍後に焼くだけ・炒めるだけで一品が完成し、平日の負担も減ります。野菜も、きのこ類や小松菜、ほうれん草などは下茹でしてから小分け冷凍しておくと、汁物や炒め物にそのまま使え、副菜が一品足りないときの助けになります。冷凍野菜のミックスパックを常備しておくのも、傷ませる心配なく品数を増やせる手段です。
少量パック・カット済み食材を活用する
スーパーで売られている少量パックの肉や、カット済みの野菜は、一人分だと割高に感じられることもありますが、食材を余らせて捨てるロスと天秤にかければ、結果的に無駄が少なく済むこともあります。豆腐や納豆、卵など、一人分でも使い切りやすい食材を主菜の柱に据えつつ、週に1〜2回は肉や魚をまとめ買いして小分け冷凍する、という組み合わせが現実的です。一人暮らしでも回る家事の基本で紹介している買い物や在庫管理の考え方も、一人分の食材ロスを減らす助けになります。
作り置きと単品調理を使い分ける
副菜だけを週末にまとめて数品作り置きしておき、平日は主菜だけをその都度調理するというやり方も、一人分の食事作りの負担を減らす方法です。きんぴらごぼうやひじきの煮物、酢の物など、日持ちする副菜を2〜3品常備しておけば、主菜さえ用意すれば栄養バランスの取れた一食が完成します。
自炊の基礎が心配な人はどこから始めるか
これまで料理をほとんどしてこなかった人が、いきなり栄養バランスまで意識して一人分を作るのは負担が大きすぎます。男性が自炊習慣を身につけるコツで紹介されているように、まずは包丁を使わずに済む食材(カット野菜、レンジ調理可能な食材)から始め、慣れてきたら主菜の種類を少しずつ増やしていくという段階を踏むと挫折しにくくなります。定年後の食生活と自炊の基本で触れている調味料の揃え方や基本の調理器具も、一人分の栄養バランスを整える土台になります。まったく料理をしない前提で惣菜と冷凍食品だけを組み合わせる場合でも、主食・主菜・副菜の3枠を意識するという考え方自体は変わりません。
年齢とともにたんぱく質の重要性が増す理由
年齢を重ねると、同じ量のたんぱく質を摂取しても、若い頃より筋肉の合成に使われにくくなることが分かっています。そのため、一人分だからと肉や魚、大豆製品を減らしてしまうと、筋肉量の減少(サルコペニア)を招くリスクが高まります。加齢による筋肉量減少(サルコペニア)の予防法でも触れられているとおり、筋肉量の維持には運動だけでなく、日々の食事でたんぱく質を継続的に確保することが欠かせません。一般的な目安として、体重1kgあたり1日1.0〜1.2g程度のたんぱく質摂取が推奨されており、体重60kgの人であれば60〜72g程度が目安になります。肉・魚・卵・大豆製品を毎食のどこかに必ず一品組み込むことを意識すると、この目安に近づけやすくなります。
ある67歳の男性は、妻が趣味のサークル活動で週に数回外出するようになり、夕食を一人で用意する日が増えたといいます。最初の頃は「面倒だから」とレトルトカレーやカップ麺で済ませる日が続き、体重は変わらないのに以前より疲れやすくなったと感じたそうです。健康診断で血中のたんぱく質値の低下を指摘されたことをきっかけに、冷凍しておいた焼き魚と作り置きの副菜を組み合わせる習慣に切り替えたところ、数か月で体調の変化を実感したといいます。「品数を増やすというより、冷凍庫にストックを持っておくだけで随分違った」と振り返っています。
よくある質問
Q. 一人分だと品数を減らしてしまいがちです。最低限これだけは揃えたい、という基準はありますか。
A. 主食・主菜・副菜のうち、主菜(たんぱく質源)だけは毎食欠かさないことを基準にすると、大きな偏りを防げます。副菜が用意できない日は、味噌汁やスープに野菜を多めに入れることでも代用できます。
Q. 惣菜やコンビニ食が多くなっています。栄養は偏りますか。
A. 惣菜自体が問題というより、組み合わせが偏ることが問題です。主食だけで済ませず、たんぱく質源の惣菜と野菜の惣菜を一品ずつ加える組み合わせを意識すれば、手作りでなくても栄養バランスは整えられます。
Q. 食が細くなり、一人分の食事量そのものが減っています。どうすればよいですか。
A. 量が減る分、品目の密度を上げる工夫が有効です。卵や豆腐、チーズなど少量でたんぱく質を補える食材を組み合わせると、食べる量が少なくても必要な栄養を確保しやすくなります。極端な食欲低下や体重減少が続く場合は、かかりつけ医に相談してください。
一人分の食事は工夫次第で十分に整えられます。実際に一人分の食事作りを続けてきた人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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