スマートフォンの写真や動画、サブスクリプションサービス、ネット銀行の口座、SNSのアカウント。故人が遺したこうした「デジタル遺品」の扱いに困る遺族は年々増えています。この課題に向き合う専門家として近年広がりつつあるのが「デジタル遺品整理士」という民間資格です。定年後に新しい肩書きを持ちたい人にとって、時代の変化とともに生まれた分野だからこそ、これまでの経歴を問わず一から専門性を築ける点が注目されています。
デジタル遺品整理士とは何をする人か
デジタル遺品整理士は、一般社団法人などの民間団体が認定する資格で、故人が使っていたスマートフォンやパソコンのロック解除、SNSアカウントの削除・追悼アカウント化の申請代行、サブスクリプションサービスの解約手続き、ネット銀行や証券口座の相続手続きに必要な情報の洗い出しといった業務を、遺族に代わって整理・助言する専門家です。国家資格ではないため独占業務はありませんが、遺品整理業者や行政書士、司法書士と連携しながら、デジタル分野に特化した知識を提供する立場として仕事の依頼を受けています。
なぜ今この分野が注目されているのか
総務省の調査によれば60代のスマートフォン保有率は9割を超えており、多くの人がパスワードで保護された端末やクラウドサービスに個人情報を残したまま亡くなる時代になっています。遺族が故人のスマホを開けずに解約手続きが進まない、サブスクの引き落としが止まらない、写真データにアクセスできず思い出を取り戻せないといった相談は、遺品整理業者や葬儀社にも急増しています。しかし従来の遺品整理士はデジタル分野を専門としていないケースが多く、そこに特化した知識を持つ人材のニーズが生まれました。長年システム部門で働いてきた人や、パソコン・スマホの操作に慣れている定年退職者にとって、それまでの経験がそのまま強みになる分野です。
資格取得の一般的な流れ
デジタル遺品整理士の資格は、一般社団法人が運営する通信講座を受講し、認定試験に合格することで取得できます。講座はオンラインでの動画学習とテキストが中心で、受講期間は2〜3か月、費用は5万円前後が目安です。カリキュラムにはスマートフォンのロック解除の法的な留意点、SNS各社の追悼アカウント制度の違い、相続におけるデジタル資産の扱いといった内容が含まれます。資格取得後は、遺品整理業者と提携して現場に同行したり、自分自身で個人事業として相談業務を請け負ったりと、働き方の幅があります。定年後に新しい肩書きを持つことの意味については定年後も名刺を持ちたい人へ:自分の肩書きの作り方でも取り上げています。
類似する資格・関連する仕事との違い
終活分野には「終活カウンセラー」という資格もあり、こちらは相続や葬儀、老後の住まいなど幅広いテーマを扱う点でデジタル遺品整理士とは守備範囲が異なります。資格を取って「終活カウンセラー」として活動すると組み合わせて取得し、デジタル分野を自分の専門領域として打ち出す人も増えています。また、相談員やカウンセラーとして活動する働き方全般については資格を活かした相談員・カウンセラーという働き方、資格取得を通じて新しい分野に挑戦する考え方は資格取得で新しい分野に挑戦するも参考になります。
エンディングノートとの関係を整理する
デジタル遺品整理士が扱うのは、すでに亡くなった人のデジタル情報を遺族が整理する場面です。これに対して、自分自身が元気なうちにIDやパスワード、契約中のサブスクリプションを書き残しておく作業は、エンディングノートの領域にあたります。前者は「他人の困りごとを解決する仕事」、後者は「自分が家族に残す備え」という違いがあり、両方を理解しておくと、自分の終活と仕事としての専門性の両面から取り組めます。エンディングノートの具体的な書き方はエンディングノートの書き方:何を書けばいいかで詳しく解説しています。
実際に資格を取った人の例
大手電機メーカーで社内システムの保守を担当していた63歳のEさんは、退職後に自宅のパソコンを整理していたとき、亡くなった父親のパソコンにあったパスワード付きファイルを開けられなかった経験を思い出し、デジタル遺品整理士の講座を受講しました。取得後は地元の遺品整理業者に自己紹介の連絡を入れ、月1〜2件のペースでスマホのロック解除やサブスク解約の相談に同行しています。「システム部門にいた経験がそのまま役立つとは思っていなかった」と話しており、長年の職務経験が新しい肩書きの土台になった例といえます。
仕事として成立させるための現実
資格を取っただけで依頼が舞い込むわけではなく、地域の遺品整理業者や葬儀社、司法書士事務所とのつながりを作る営業活動が欠かせません。名刺交換会や異業種交流会に参加して顔を覚えてもらう、ブログやSNSで解決事例を発信するといった地道な活動を続けている人が多いです。報酬は1件あたり2万〜5万円程度が相場とされ、専業として生計を立てるというより、月数件の依頼を受けながら年金や退職金と組み合わせて生活する働き方が現実的です。
SNSやスマホとの付き合い方を知っておく重要性
デジタル遺品整理士として活動するには、資格の学習内容だけでなく、日頃から主要なSNSやスマホアプリの操作に慣れておくことも欠かせません。LINEの引き継ぎ方法やInstagramの追悼アカウント申請、Google・Appleアカウントの死後アクセスの仕組みは頻繁に更新されるため、自分自身が普段からこうしたサービスを使いこなしていることが信頼につながります。日常的なスマホ・SNSとの付き合い方についてはスマホ・SNSとの付き合い方も参考にしてください。
よくある質問
Q. パソコンやスマホの専門知識がなくても資格は取れますか。
A. 講座はデジタル機器の基礎から解説される内容になっているため、専門的な知識がなくても学び始められます。ただし実際の業務では最新のOSやアプリの仕様変更に対応し続ける必要があるため、日頃から機器の操作に関心を持ち続ける姿勢が求められます。
Q. 資格を取れば独占的に仕事ができますか。
A. 民間資格であり法的な独占業務はありません。同じ分野に他の資格保持者や業者も参入しているため、対応の丁寧さや過去の解決事例といった実績で選ばれる仕事だと考えておく必要があります。
Q. 法律に関わる手続きは自分でできますか。
A. 相続そのものの手続きは司法書士や弁護士の業務範囲にあたります。デジタル遺品整理士はあくまでデジタル情報の整理と助言が役割で、法的な判断が必要な場面では専門の士業と連携して対応するのが一般的です。
Q. 何歳くらいまで続けられる仕事ですか。
A. 体力を大きく使う仕事ではないため、パソコンやスマホの操作に無理なくついていける限りは年齢を問わず続けやすい分野です。ただし技術の変化が速いため、講座の更新研修や情報交換会に定期的に参加して知識を更新し続ける必要があります。
デジタル遺品整理士は、まだ新しく認知度も発展途上の資格ですが、時代の変化とともに需要が伸びていく分野でもあります。自分の経歴と組み合わせて専門性を打ち出せそうか、まずは講座の無料説明会や資料請求から情報を集めてみるとよいでしょう。
実際にデジタル遺品整理士として活動している人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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