教員免許がなくても、自分の専門知識をそのまま教える力に変えられるのが家庭教師という働き方だ。長年エンジニアとして数式やロジックに向き合ってきた人が数学や理科を教えたり、海外駐在経験のある人が英会話を教えたりと、会社員時代の専門分野が生徒一人と向き合う場でそのまま生きる。定年後の時間の使い方として、週1〜2回から始められる手軽さも魅力になる。
退職者が家庭教師として教えやすい科目
家庭教師というと大学生アルバイトの仕事というイメージが強いが、シニア層の家庭教師には別の強みがある。元エンジニアや技術職出身者が中学・高校の数学や物理を教えるケース、商社や外資系企業で英語を使ってきた人が英会話やTOEIC対策を教えるケース、経理・財務畑を歩んできた人が簿記や会計の資格取得を目指す社会人・学生を指導するケースなどだ。受験対策のように短期間で結果を求められる指導よりも、基礎からじっくり理解を積み上げる指導のほうが、長年の実務経験を持つシニア講師の強みが出やすい。
ある電機メーカーで設計を担当していた66歳の男性は、退職後に中学生を対象にした数学の家庭教師を週2回引き受けている。「学校の先生とは違うテンポで、なぜその公式が成り立つのかという根本から説明できるのが自分の強み」と話す。受験のテクニックよりも、社会人として数字や論理をどう使ってきたかという経験談を交えられる点が、生徒の保護者からも評価されているという。
生徒の見つけ方:紹介会社と個人募集の違い
家庭教師紹介会社に登録する
トライグループや学研の家庭教師といった大手紹介会社は、シニア講師の登録も受け付けている場合が多い。紹介会社を通すメリットは、生徒とのマッチングや月謝の集金、トラブル対応を会社側が担ってくれる点にある。一方で紹介料として月謝の一部を会社に納める仕組みが一般的なため、個人契約に比べると手取りは目減りする。登録時には面談や模擬授業を求められることもあるので、応募前に自分が教えられる科目と学年の範囲を明確にしておくとスムーズだ。
個人で募集する
地域の掲示板やジモティーといった地域情報サイト、自治会の回覧板、あるいはシルバー人材センターを通じて個人契約の生徒を探す方法もある。紹介料がかからない分、時給は自分で設定でき、生徒との相性も含めて自由度が高い。ただし月謝の集金や急なキャンセル対応もすべて自分で行う必要があり、トラブルが起きた際の後ろ盾がない点は理解しておきたい。近所の子どもを教えるところから評判が広がり、口コミだけで生徒が2〜3人に増えたという例も珍しくない。
商社で15年間ニューヨーク駐在を経験した63歳の女性は、退職後にジモティーで「大人向け英会話個人レッスン」の告知を出し、最初の生徒は近所に住む高校生の親からの紹介だった。時給3000円で週3人、1回1時間のレッスンを自宅で行い、教材は市販の英会話テキストに自分の駐在経験談を織り交ぜる形にしている。「学校英語ではなく、実際に外国人とどう交渉してきたかという生きた話をすると生徒の食いつきが違う」と話し、口コミだけで開始半年後には生徒が6人に増えたという。
現実的な収入の目安
紹介会社経由の場合、時給の相場は2000円台から3000円台が中心で、指導実績や専門性が評価されれば4000円を超えることもある。個人契約であれば時給1500円から3000円程度が目安になるが、都市部か地方かでも差が大きい。週2回、1回90分の指導を月8回行うとすると、月2万円台から4万円程度の収入になる計算だ。生活の主軸となる収入源というより、退職後の家計簿・支出の見直し方で触れられているような生活費の一部を補う副収入として位置づけている人が多い。
塾講師との違いを理解しておく
家庭教師と混同されやすいのが学習塾の講師だ。塾講師は塾が用意したカリキュラムや教材に沿って、複数の生徒を相手に決められた時間割で授業を進める。一方、家庭教師は生徒一人ひとりの理解度やつまずいている箇所に合わせて内容を組み立てられる自由度がある代わりに、教材選びから進捗管理まで自分で考える必要がある。大学の非常勤講師や地域の公開講座で教える大学の非常勤講師・地域講師という働き方とも似ているようで、対象が社会人か子どもか、講義形式か個別指導かという点で求められる技術が異なる。自分がどちらのスタイルに向いているかは、実際に体験授業を一度やってみると判断がつきやすい。
始める前に確認しておきたいこと
指導を始める前に、自分の専門分野を教科書レベルまで一度学び直しておくことが欠かせない。実務で使ってきた知識と、中学・高校の教科書に沿った教え方には案外ギャップがあり、大学・カルチャースクールへの学び直し進学のような場でカリキュラムの組み立て方を学ぶ講師もいる。また、自宅で生徒を教える場合は近隣への配慮や、未成年者を相手にする以上、保護者との連絡方法をあらかじめ決めておくことがトラブル防止につながる。指導中の事故やケガに備え、紹介会社経由なら会社の保険内容を、個人契約ならボランティア保険や個人賠償責任保険への加入を確認しておくと安心して続けられる。
収入をもう少し安定させたい場合は、在宅ワーク・クラウドソーシングで働くという選択肢のように在宅でできる仕事と組み合わせる人もいる。得意分野を次の世代に伝えるという意味では、技能・経験を次世代に伝える「技能継承ボランティア」のような技能継承の活動とも通じるところがあり、教える相手を子どもにするか若手社会人にするかで選ぶ道が分かれてくる。
収入が増えたら確定申告が必要になる
家庭教師の報酬は雑所得または事業所得として扱われる。年金収入があり、かつ家庭教師の報酬などの副収入が年間20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要になる。退職後の税金:確定申告が必要になるケースとはで解説されている通り、年金の源泉徴収だけでは副収入分の税金は精算されないため、申告を忘れると後から追徴課税を受けることもある。交通費や教材費など指導にかかった経費は控除できる場合があるので、レシートや記録は指導を始めた月から残しておくといい。
よくある質問
Q. 教員免許がなくても家庭教師として活動できますか。
A. できる。家庭教師は学校教育法上の「教員」にあたらないため免許は不要で、紹介会社の登録でも教員免許は必須条件になっていないことが多い。求められるのは指導科目に関する実務経験や検定資格など、専門性を示せる実績だ。
Q. 何歳くらいまで需要がありますか。
A. 紹介会社によっては年齢の目安を設けている場合もあるが、70代でも指導を続けている講師は珍しくない。体力よりも科目への理解と教え方の工夫が評価される仕事のため、年齢よりも指導実績や生徒との相性が重視される傾向にある。
Q. 収入だけを見ると割に合わないのでは。
A. 時給換算だけで見れば会社員時代の給与には及ばないことが多い。ただし週1〜2回、自分のペースで続けられる点と、生徒の成長を間近で見られるやりがいを重視して続けている人が多い仕事だ。
自分が積み上げてきた専門知識を、目の前の一人の生徒のために言葉を選んで伝え直す作業は、会社員時代とはまったく違う種類の充実感をもたらす。教える科目や対象を決めるところから、まずは体験授業を一件引き受けてみるのが最初の一歩になる。
実際に家庭教師として教え始めた人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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