50代後半になると、会社から早期退職優遇制度の案内が届いたり、自分から自己都合で辞めて次のキャリアに進むことを考え始めたりする人が増えます。定年まで待つべきか、早めに区切りをつけるべきか。退職金の計算方法と失業保険の受け取り方には見落とされがちな違いがあり、数字で比べてみると印象が変わることも少なくありません。
退職金の計算方法はこう違う
定年退職の場合、多くの企業では就業規則に定められた「勤続年数×支給率」の基準にもとづいて退職金が算定され、会社都合に近い最も高い支給率が適用されます。勤続35年で基本給35万円の場合、支給率が最大42ヶ月分程度に設定されている企業であれば、退職金は1500万円前後になる計算です。
一方、早期退職優遇制度(希望退職)に応募した場合は、通常の退職金に加えて割増金が上乗せされます。割増率は企業ごとに大きく異なりますが、残りの勤続年数に応じて月収の12〜36ヶ月分を上乗せするケースが一般的です。制度の打診を受けたときの考え方は早期退職制度(希望退職)を打診されたときの考え方で詳しく解説しています。割増分があるぶん、退職金の総額だけを見ると早期退職の方が定年退職より多くなる場合もあります。退職金の受け取り方自体の損得は退職金の受け取り方(一時金 vs 年金)、どちらが得かもあわせて確認しておくと、税負担まで含めた比較ができます。
失業保険の給付制限期間が異なる
ここが見落とされやすい違いです。自己都合退職や早期退職優遇制度への応募による退職は、雇用保険上「一般の受給資格者」として扱われることが多く、ハローワークで手続きをしてから実際に基本手当が振り込まれるまでに約2ヶ月の給付制限期間が設けられます。申請から受給開始までの流れは失業保険の申請方法とタイミングで具体的に説明しています。
これに対して定年退職は、本人の意思による自己都合ではなく就業規則上のルールによる離職であるため、ハローワークの実務上は給付制限を科されないケースが多く、7日間の待期期間を経ればすぐに基本手当の支給が始まります。さらに定年退職者には特例があり、退職後すぐに求職活動をしない場合でも、申し出により受給開始を最長1年間先送りできる制度が用意されています。旅行や休養をしてから求職活動を始めたい人にとっては使い勝手のよい仕組みです。実際の扱いは離職票に記載される離職理由やハローワークの窓口での判断によって変わるため、退職前に会社の人事に離職理由の分類を確認しておくと安心です。
給付日数の枠も年齢で変わる
基本手当の所定給付日数は、勤続年数と離職時の年齢によって決まります。45歳以上60歳未満で勤続20年以上の場合は150日、60歳以上65歳未満で勤続20年以上の場合も150日が上限です。早期退職で55歳前後に離職する場合と、定年で60歳を迎えてから離職する場合とで、日数の枠自体に大きな差はありませんが、給付制限の有無によって「実際にいつからお金が入り始めるか」が数ヶ月単位でずれてくる点が重要です。
早期退職と定年退職の違いを表で整理すると、以下のようになります。
| 比較の観点 | 早期退職 | 定年退職 |
|---|---|---|
| 退職金の割増の有無 | 割増金が上乗せされ、総額が多くなる場合がある | 就業規則の基準どおりの支給率で、割増はつかない |
| 失業給付の給付制限 | 一般の受給資格者として約2ヶ月の給付制限がかかることが多い | 給付制限が科されないケースが多く、7日間の待期期間後に支給が始まる |
| 再就職のしやすさ | 年齢が若いうちに動けるため、選択肢を広げやすい | 現職の再雇用制度をそのまま利用でき、新規の就職活動をせずに済む |
10年間の受取総額を試算してみる
55歳で早期退職優遇に応じるケースと、60歳の定年まで勤め上げるケースを、65歳までの10年間で比較してみます。あくまで一つのモデルケースとしての試算です。
ケースA:55歳で早期退職優遇制度に応募
退職金(基本分+割増分)約2600万円、55〜60歳は転職先で年収400万円×5年=2000万円、失業給付は給付制限2ヶ月を経て約90万円、60〜65歳は再雇用や年金の一部繰り上げなどで年収250万円×5年=1250万円。合計はおよそ5940万円になります。
ケースB:60歳の定年まで勤務し定年退職
55〜60歳は現職のまま年収600万円×5年=3000万円、60歳時点の退職金は満額で約2400万円、失業給付は給付制限なしですぐに受給開始し約97万円、60〜65歳は再雇用で年収300万円×5年=1500万円。合計はおよそ6997万円になります。
このモデルでは定年まで勤めた方が約1000万円多くなる計算です。ただし早期退職優遇制度の割増率が大きい企業や、早期退職後により高い収入の仕事に就けた場合は結果が逆転することもあります。自分の会社の退職金規定と再就職の見込み年収を当てはめて、退職後の収入シミュレーションの作り方を参考に一度試算してみると、実際の判断材料がはっきりします。
退職所得控除の差も見落とせない
退職金にかかる税金は「退職所得控除」を差し引いた残りに対して課税されます。控除額は勤続20年までは1年につき40万円、20年を超えた部分は1年につき70万円で計算されます。勤続35年なら控除額は800万円+15年×70万円=1850万円となり、退職金がこの額を下回れば税金はかかりません。早期退職で勤続年数が33年になった場合は控除額が1780万円に減るため、割増金を含めた退職金の総額次第では課税対象になる部分が発生することもあります。数年の勤続年数の差が控除額に直結する点は、退職時期を決めるうえで意外と大きな要素です。
数字以外に見ておきたい点
ある機械メーカーに33年勤めた男性は、54歳のときに早期退職優遇制度の対象になり、割増金込みで通常より600万円多い退職金の提示を受けました。しかし当時は住宅ローンが残っており、再就職先の年収が現職より150万円下がる見込みだったため、結局は制度を利用せず定年まで勤め上げる道を選びました。「目先の退職金の多さだけで判断していたら、60歳以降の生活が苦しくなっていたと思う」と振り返っています。退職金の総額だけでなく、その後何年働けるか、次の仕事でどれだけ稼げるかまで含めて比較することが、後悔しない判断につながります。
住民税の支払いタイミングにも注意
退職時期によって、住民税の徴収方法が切り替わるタイミングも変わってきます。年の途中で早期退職すると、それまで給与天引きだった住民税が普通徴収に切り替わり、退職後にまとまった額の納税通知が届くことがあります。定年退職でも同様の仕組みですが、退職時期が年度末に近いかどうかで納付回数が変わる点は共通の注意点です。詳しくは住民税の支払い方法:退職後に来る納税通知にどう備えるかで解説しています。
よくある質問
Q. 早期退職優遇制度に応募すると失業給付の給付制限はなくなりますか?
A. 制度の内容や会社都合退職に準じる扱いになるかどうかで変わります。会社側が「会社都合」の離職票を発行する制度であれば給付制限が科されない場合もあるため、募集要項や離職票の記載内容を事前に確認しておきましょう。
Q. 定年退職なら誰でも給付制限が免除されますか?
A. 一般的には給付制限が科されないケースが多いとされていますが、最終的な判断はハローワークが離職票の内容にもとづいて行います。手続き前に管轄のハローワークで確認しておくと確実です。
Q. 早期退職と定年退職、どちらが税金面で有利ですか?
A. 退職所得控除は勤続年数に応じて増えるため、勤続年数が長いほど控除額が大きくなり税負担は軽くなります。早期退職で勤続年数が短くなる場合は、その分控除額も小さくなる点を考慮しておく必要があります。
早期退職と定年退職、どちらが得かは退職金の額だけでなく、給付制限の有無や再就職後の収入まで含めて初めて見えてきます。自分の会社の制度と照らし合わせて、具体的な金額で比較してみましょう。
実際に早期退職と定年退職で迷った方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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