定年退職の場合でも、条件を満たせば雇用保険の「基本手当(いわゆる失業保険)」を受け取れることがあります。「もう働かないから関係ない」と思い込んで申請しない人も多いのですが、再雇用やパートを少しでも考えているなら対象になる可能性があります。申請には期限やタイミングがあるため、退職後すぐに動き出すことが大切です。
まず確認したいこと:誰が対象になるか
失業保険の基本手当は「働く意思と能力があるのに、仕事が見つからない人」が対象です。完全にリタイアして今後まったく働くつもりがない場合は対象外になります。一方で「フルタイムは難しいが週3日くらいなら働きたい」「体力に合う範囲で仕事を探したい」という場合は、対象になる可能性が十分にあります。
また、退職日以前の2年間に、雇用保険の加入期間が通算12か月以上あることも条件です。長年同じ会社に勤めていた人であれば、この条件はほぼ問題なく満たしているはずです。
失業保険(基本手当)は何歳まで申請できるか
結論から言うと、失業保険の基本手当を申請できるのは、65歳の誕生日の前日までに離職した人です。65歳の誕生日の前日以降に離職した場合は、基本手当ではなく、一時金として支給される「高年齢求職者給付金」の対象に切り替わります。定年退職の時期が65歳前後にかかる人は、この年齢の区切りによってもらえる給付の種類や金額の仕組みが変わってくるため、退職日をどちらの制度に合わせるかを意識しておくとよいでしょう。基本手当と高年齢求職者給付金の具体的な違いや金額の目安は、この記事の後半「65歳以上で離職した場合の高年齢求職者給付金」で詳しく説明しています。
申請の流れ
退職後、会社から「離職票」が届きます。これを持って、居住地を管轄するハローワークで求職の申し込みをすると、雇用保険の受給資格が決定します。その後、原則として7日間の待期期間を経て、基本手当の支給対象期間が始まります。
離職票が手元に届くまでには、退職から1〜2週間程度かかることが一般的です。届くのを待っている間に何もできないわけではなく、先にハローワークへ相談に行き、必要書類や手続きの流れを確認しておくとスムーズです。退職前に会社の担当部署へ「離職票はいつ頃届くか」を確認しておくと安心です。
定年退職ならではの注意点
自己都合退職の場合、基本手当がもらえるようになるまでに2〜3か月の給付制限期間が設けられるのが一般的ですが、定年退職はこの給付制限がかからないケースが多く、比較的早く支給が始まります。ただし、これは会社の退職理由の記載や年度ごとの制度によって扱いが変わることがあるため、最終的にはハローワークの窓口で自分のケースを確認してください。
なお、65歳の誕生日の前日以降に退職した場合は、基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」という別の一時金制度の対象になります。年齢の区切り方や仕組みの違いについては、この記事の後半で詳しく説明します。
受給できる期間と金額の目安
基本手当の受給日数は、雇用保険の加入期間や年齢によって90日から150日程度が目安です。1日あたりの金額(基本手当日額)は、退職前6か月の給与をもとに計算され、給与が高かった人ほど支給率は低めに設定されている仕組みになっています。おおよその金額感は、ハローワークの窓口や雇用保険の給付案内で試算してもらえます。
「思ったより少ない」と感じることもありますが、退職後の当面の生活費を支える制度として、申請しておいて損はありません。受給中は原則として求職活動の実績を報告する必要があるため、実際に仕事を探す意欲がある人ほど活用しやすい制度です。
公共職業訓練を活用するという選択肢
再就職に向けてパソコンスキルや資格を身につけたい場合は、ハローワークが案内する「公共職業訓練」を受講するという方法もあります。訓練期間中は原則として基本手当の支給が続き、訓練内容によっては受給期間そのものが延長されることもあります。受講料は基本的に無料(テキスト代など実費のみ)で、介護、パソコン事務、経理など、シニア世代にも人気のコースが用意されている地域が多くあります。
「今さら訓練を受けるのは」とためらう人もいますが、新しい環境に飛び込むきっかけとして活用する人も少なくありません。興味があれば、ハローワークの窓口で開講中のコース一覧を見せてもらうところから始めてみるとよいでしょう。
再就職が決まったらどうなるか
基本手当の支給期間中に再就職が決まった場合、受給日数を一定以上残していれば「再就職手当」というお祝い金のような一時金を受け取れることがあります。早く仕事が決まるほど支給率が高くなる仕組みになっているため、「失業保険をもらい切るまでのんびり探そう」とせず、良い条件の仕事が見つかったタイミングで決断する方が結果的に得になることも少なくありません。再就職手当の条件や支給額の詳細は、受給資格決定の際にハローワークで案内される資料でも確認できます。
給付制限の仕組みと定年退職での扱い
雇用保険の基本手当は、離職理由によって受給開始までの流れが異なります。自己都合退職の場合、7日間の待期期間に加えて、通常2〜3か月程度の「給付制限期間」が設けられ、この間は基本手当が支給されません。一方、会社都合退職(倒産・解雇など)や、離職票に「定年」と明記された定年退職の場合は、この給付制限の対象外となるのが一般的で、7日間の待期期間を過ぎればすぐに支給対象期間に入ります。
ただし「通常」2〜3か月とした給付制限の期間や、対象となる離職理由の範囲は、雇用保険法の改正によって見直されることがあります。実際、自己都合退職の給付制限は以前は原則3か月でしたが、令和2年10月以降は原則2か月に短縮されています。自分の離職理由が離職票にどう記載されているか、給付制限の有無や期間がどうなるかは、申請時にハローワークの窓口で必ず確認してください。
なお、離職票の離職理由欄には「定年」であることが分かるコードが記載されます。この記載内容に誤りがあると給付制限の扱いが変わってしまうことがあるため、離職票を受け取ったら、離職理由の欄が実態(定年退職)と一致しているかを確認しておくと安心です。
求職活動実績として認められる具体例
基本手当を継続して受け取るには、原則として4週間に1回の「失業認定日」までに、決められた回数以上の求職活動の実績を報告する必要があります(初回は1回以上、2回目以降は通常2回以上が目安です)。「求職活動」というと応募のイメージが強いですが、実際に認められる実績はもう少し幅があります。
代表的な例としては、ハローワークの窓口での職業相談・職業紹介を受けること、ハローワークが主催する就職支援セミナーやセミナー形式の説明会への参加、求人への応募(書類選考や面接を含む)、ハローワークインターネットサービスでの求人検索の記録、再就職に役立つ資格試験の受験、民間の職業紹介事業者や許可を受けた地方自治体の相談窓口を利用することなどが挙げられます。単に求人情報を眺めただけでは実績として認められないため、相談や応募など、実際に行動した記録を残しておくことが必要です。
60代でパートやシルバー人材センターでの仕事を視野に入れている場合も、ハローワークでの職業相談は実績として扱われます。シルバー人材センターでの仕事を検討しながら、あわせてハローワークの窓口で相談しておくと、求職活動実績と情報収集を同時に進められます。
65歳以上で離職した場合の高年齢求職者給付金
雇用保険では、65歳の誕生日の前日までに離職したかどうかで、受け取れる給付の種類が分かれます。65歳未満で離職した人は基本手当(失業保険)の対象ですが、65歳の誕生日の前日以降に離職した人は「高年齢被保険者」という区分になり、基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」の対象になります。
高年齢求職者給付金は、毎月継続して支給される基本手当と違い、被保険者期間(1年以上か1年未満か)に応じて、基本手当日額の50日分または30日分が一括で支給される一時金です。要件を満たせば、生涯で何度でも受け取れる点も基本手当と異なります。
65歳をまたいで働き続けた場合、退職日が65歳の誕生日の前日より前か後かによって適用される制度が変わるため、退職時期を調整できるのであれば、どちらの制度がより有利か、ハローワークの窓口で試算してもらったうえで退職日を決めることもできます。再雇用制度で働き続ける場合も、退職・再雇用のタイミングとあわせて確認しておきましょう。退職金の受け取り方によっても当面の生活費の組み立てが変わるため、退職金の受け取り方(一時金 vs 年金)、どちらが得かもあわせて確認しておくと安心です。
よくある質問
Q. 年金と失業保険は同時にもらえる?
A. 65歳未満で厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)を受け取っている場合、失業保険の基本手当を申請すると、年金の支給が原則として停止されます。どちらが自分にとって有利かは、年金額と失業保険の金額を比較して判断する必要があるため、年金事務所とハローワークの両方に相談しておくと安心です。なお65歳以降に受け取る老齢基礎年金・老齢厚生年金は、失業保険と同時に受け取ることができます。
Q. 自己都合と会社都合、どちらで処理されるかで何が変わる?
A. 一般的に会社都合の方が給付制限がなく早く受給を始められ、受給日数も長くなる傾向があります。定年退職は多くの場合「特定理由ではない一般の離職」として扱われますが、制度上の優遇がある場合もあるため、離職票に記載された離職理由をよく確認しましょう。
Q. ハローワークにはどんな服装・持ち物で行けばいい?
A. 服装に決まりはなく、普段着で問題ありません。持ち物は離職票、個人番号(マイナンバー)が確認できる書類、本人確認書類、写真2枚、印鑑、本人名義の預金通帳が基本です。地域によって多少異なることがあるため、事前に管轄のハローワークのホームページで確認しておくと二度手間になりません。
Q. 申請せずに放置してしまったらどうなる?
A. 基本手当を受け取れる期間には期限があり、原則として離職日の翌日から1年間です。この期間を過ぎると、受給日数が残っていても打ち切られてしまいます。「そのうち申請しよう」と後回しにしていると権利を失うこともあるため、迷っているうちは仮でもよいので、ハローワークに一度足を運んでおくと安心です。
Q. シルバー人材センターの仕事をしながらでも受給できる?
A. 収入や働き方の内容によって扱いが異なります。基本手当を受給中に収入を得た場合は、ハローワークへの正確な申告が必要です。シルバー人材センターの登録方法と仕事の探し方を検討している場合も、事前にハローワークへ確認しておくと安心です。
失業保険は「もらえるかどうか分からないから」と申請自体をあきらめてしまう人もいますが、まずはハローワークに相談してみましょう。退職後に使える他の制度は定年後に使える自治体の支援制度まとめで、健康保険の切り替えについては健康保険の切り替え:任意継続と国民健康保険、どちらを選ぶかでも紹介しています。
実際に失業保険を活用しながら次の生き方を探した方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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