定年退職の日が近づくと、送別会の段取りや引き継ぎ資料の準備に気持ちが向きがちだが、実務面で見落とすと後々困るのが「書類」である。会社から受け取るべき証明書類の一部は、退職日以降は総務部門に何度も問い合わせなければ手に入らなくなることが多く、なかには発行に数週間かかるものもある。退職前にやることリストと合わせて、退職日までに手元に確保しておくべき書類を具体的に整理しておく。
退職時に会社から必ず受け取る書類
源泉徴収票
その年の1月から退職日までに支払われた給与と、天引きされた所得税額が記載された書類である。年内に再就職しない場合は、翌年の確定申告や、退職金にかかる税金の精算で使う場面が出てくる。多くの企業では退職日から1〜2週間程度で発行されるが、給与計算システムの締め処理の都合で1か月近くかかる会社もあるため、いつごろ届くのか総務担当者に退職前の段階で確認しておくと安心である。
雇用保険被保険者証
雇用保険に加入していたことを示す証明書で、被保険者番号が記載されている。再就職先で雇用保険に再加入する際や、ハローワークで失業給付の手続きをする際に必要になる。会社が保管しているケースと、入社時に本人へ渡されて手元に保管しているケースの両方があるため、まず自宅の書類ファイルを確認し、見当たらなければ総務に在職中のうちに所在を尋ねておく。
離職票(離職票-1・離職票-2)
失業給付(基本手当)の申請を受け取るために必須の書類である。離職票-1には雇用保険の資格喪失に関する情報、離職票-2には退職理由や直近6か月の賃金額が記載されており、これをもとにハローワークが給付日数と金額を算定する。会社がハローワークに離職証明書を提出し、そこから離職票が発行されるため、退職日から届くまでに10日から2週間ほどかかるのが一般的である。退職理由の欄は会社都合か自己都合かで給付開始時期が大きく変わるため、記載内容に事実と違いがないか届いた時点で必ず確認する。
健康保険資格喪失証明書
退職により会社の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)の被保険者資格を失ったことを証明する書類である。退職後に国民健康保険への切り替えを行う場合、市区町村役場の窓口でこの証明書の提示を求められることが多く、これがないと手続きが進められない自治体もある。会社によっては退職後に郵送で届く運用になっているため、届く時期の見込みを事前に聞いておくと、市区町村役場への訪問日程を組みやすい。
年金手帳・基礎年金番号通知書
会社に年金手帳を預けている場合は退職時に返却してもらう。2022年4月以降は年金手帳に代わって基礎年金番号通知書が発行される運用になっているが、いずれにしても基礎年金番号が確認できる書類は、国民年金への切り替えや年金の各種手続きで必要になるため、退職までに所在を確認しておく。
退職前に自分で確認・準備しておきたい書類
会社から受け取る書類のほかに、自分で内容を確認したり、写しを取っておいたりすべき書類もある。退職金の支給明細と源泉徴収税額の内訳は、退職所得の受給に関する申告書を提出したかどうかで税額の扱いが変わるため、金額の根拠を確認しておく。企業年金基金や厚生年金基金に加入していた場合は、加入期間と将来の受給見込み額が分かる書類を人事部門から取り寄せておくと、後日の受給手続きがスムーズになる。財形貯蓄や社内持株会に加入していた人は、解約や名義変更に必要な書類が別途あるため、担当窓口で必要書類の一覧をもらっておく。引き継ぎ資料の作り方を整理する過程で、自分の給与・保険関係のファイルも一緒に棚卸ししておくと二度手間にならない。
ある地方銀行に38年間勤めた64歳の男性は、退職日の1週間前になって離職票の発行時期を人事に尋ねたところ「退職後2週間ほどかかる」と言われ、失業給付の申請予定が想定より遅れてしまった。結果的にハローワークでの求職申込みまでに空白期間が生じ、給付開始が1か月ずれ込んだという。書類の発行時期は退職日直前ではなく、退職の意思を伝えた段階で早めに確認しておくべき事項である。
受け取り忘れた・紛失した場合の対処法
源泉徴収票を受け取り忘れた、あるいは退職後に会社が発行に応じない場合は、まず元の勤務先の経理担当者に再発行を依頼する。それでも対応してもらえない場合は、所轄の税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出することで、税務署から会社に発行を指導してもらう仕組みがある。
離職票が届かない場合は、まず会社に発行状況を確認し、会社が手続きを行っていないことが分かれば、管轄のハローワークの窓口に直接相談する。ハローワークから会社へ交付を促してもらえる場合がある。年金手帳や基礎年金番号通知書を紛失した場合は、最寄りの年金事務所で基礎年金番号の照会と再交付の手続きができる。健康保険資格喪失証明書がすぐに手に入らない場合、多くの市区町村では「健康保険資格喪失連絡票」など代替書類での受付や、後日提出での仮受付に応じてくれることがあるため、窓口担当者に相談してみる。
退職金・税金関連で見落としやすい書類
退職金を受け取る際は「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払者に提出しているかどうかで、天引きされる税額が変わる。提出済みであれば所得税・住民税は退職金の金額に応じて適正額が源泉徴収されるが、未提出のまま受け取ると一律20.42%の税率で徴収され、後日自分で確定申告をして差額の還付を受ける必要が生じる。退職金の支払明細に「退職所得の源泉徴収票」が添付されているか、提出した申告書の控えを保管しているかを退職前に確認しておくと、翌年の確定申告で慌てずに済む。
住民税についても書類の扱いを知っておきたい。在職中は給与から天引きされる「特別徴収」だが、退職すると未納分の残りが一括徴収されるか、自分で納付書を使って支払う「普通徴収」に切り替わる。会社から「給与所得等に係る市町村民税・都道府県民税特別徴収税額の異動届出書」の写しや、退職後に市区町村から送られてくる納税通知書がいつ届くのかを、総務担当者や市区町村役場の税務課に確認しておくと、退職直後の資金計画が立てやすくなる。退職金と住民税の関係も踏まえて、税金面の書類は退職金の受け取り前に一通り目を通しておく。
よくある質問
Q. 会社から書類が一切届かない場合、どこに相談すればよいですか。
A. 書類の種類によって窓口が異なる。源泉徴収票は所轄の税務署、離職票は管轄のハローワーク、年金関係は年金事務所が相談先になる。まずは元の勤務先に督促の連絡を入れたうえで、それぞれの窓口に状況を伝えるとよい。
Q. 離職票はいつまでに受け取ればよいですか。
A. 法律上の明確な期限はないが、失業給付の申請には離職票が必要なため、退職後できるだけ早くハローワークで手続きするために、遅くとも退職から3週間以内には手元に届いているか確認したい。
Q. 書類の保管はどのようにすればよいですか。
A. 年金手帳・基礎年金番号通知書、雇用保険被保険者証、源泉徴収票、離職票はクリアファイル一冊にまとめ、コピーを取ったうえで原本は自宅の分かりやすい場所に保管しておくと、後日の各種手続きで慌てずに済む。
実際に退職前後の書類手続きで苦労した体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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