退職金をどう受け取るかは退職金の受け取り方(一時金 vs 年金)、どちらが得かで判断できても、実際に振り込まれた金額を見て「思っていたより住民税が多く引かれている」「逆にほとんど引かれずに満額に近い金額が振り込まれた」と戸惑う人は少なくありません。退職金にかかる住民税は、給与や年金と合算せずに単独で計算する「申告分離課税」という特殊な仕組みで扱われます。この記事では、その計算の考え方と、手続きの有無で結果がどう変わるかを具体的に説明します。
退職所得は「分離課税」で計算される
所得税・住民税は本来、給与所得や事業所得、雑所得などをすべて合算し、その合計額に対して税率をかける「総合課税」が原則です。しかし退職金(退職所得)は例外で、他の所得とは合算せず、退職所得だけを切り離して単独で税額を計算する「申告分離課税」の対象になっています。これは、退職金が長年の勤続に対する一時的にまとまった対価であり、他の所得と合算してしまうと税率が跳ね上がり、勤続年数に対する配慮がなくなってしまうことへの措置です。
具体的には、退職金の額面からまず「退職所得控除額」を差し引き、残った金額の2分の1を「退職所得の金額」とします。退職所得控除額は勤続20年以下の部分が1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円で計算され、たとえば勤続35年であれば控除額は「40万円×20年+70万円×15年=1,850万円」になります。この住民税(所得割10%、道府県民税4%・市町村民税6%が標準)と所得税(超過累進税率)が、この「退職所得の金額」に対してそれぞれ計算されます。
申告書を提出していれば、勤務先が自動で天引きしてくれる
退職時に勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、勤務先が上記の計算を代行し、正しい所得税・住民税をあらかじめ天引きした上で退職金を振り込んでくれます。この申告書は多くの会社で退職手続きの一環として渡され、氏名・勤続年数・他の退職金の有無などを記入するだけの簡単な書類です。この申告書を提出済みであれば、原則として確定申告や別途の住民税申告は不要で、退職金にかかる税金の手続きはこの時点で完結します。振り込まれた金額がすでに税引き後の金額になっているため、「手取りがそのまま最終的な金額」と考えて差し支えありません。
申告書を提出していないと、一律20.42%が源泉徴収される
一方、何らかの事情でこの申告書を提出していない場合、退職金の支給額に対して所得税・復興特別所得税として一律20.42%が源泉徴収されます。これは退職所得控除を考慮しない、いわば「概算での天引き」であり、本来の税額より明らかに多く引かれているケースがほとんどです。この場合、確定申告(還付申告)を行うことで、正しく計算し直した税額との差額が還付されます。確定申告のやり方自体は退職後の税金:確定申告が必要になるケースとはや退職後の確定申告、e-Taxでの電子申告のやり方で扱っている手順と同様ですが、退職所得の還付を受ける場合は「退職所得の源泉徴収票」の添付が必要になる点に注意が必要です。
なお、住民税については所得税と異なり源泉徴収の概念がやや異なり、申告書を提出していれば退職時に正しい税額が特別徴収されますが、未提出のまま処理が進んでしまった場合は、退職金を受け取った翌年に確定申告を行うことで住民税額も再計算され、納めすぎていた分は還付または翌年度の税額から調整されます。
具体的な計算例
勤続32年、退職金2,200万円のケースで考えてみます。退職所得控除額は「40万円×20年+70万円×12年=800万円+840万円=1,640万円」です。退職金2,200万円からこの1,640万円を差し引くと560万円になり、その2分の1である280万円が退職所得の金額になります。この280万円に対して所得税・住民税がそれぞれ計算されるため、退職金の額面2,200万円に単純に税率をかけるのに比べ、税負担は大幅に軽くなっていることが分かります。仮に勤続20年以下で控除額が少ないケースでも、2分の1課税の仕組みがある分、給与所得として同額を受け取るよりは有利になるよう設計されています。
実際にあった例では、Bさんが勤続38年で退職金2,800万円を受け取った際、退職所得控除額は「40万円×20年+70万円×18年=800万円+1,260万円=2,060万円」となり、差し引き後の740万円の2分の1、370万円が退職所得の金額として課税対象になりました。Bさんは退職所得の受給に関する申告書を人事部に提出していたため、振込時点ですでに正しい税額が天引きされており、確定申告の必要はありませんでした。一方、同時期に退職した同僚は転籍元の会社からの一時金についてこの申告書を出し忘れており、一律20.42%の源泉徴収がされていたため、翌年の確定申告で十数万円の還付を受けることになりました。
複数の退職金を受け取る場合の注意
企業年金(確定給付年金)の受け取り方と税金で触れているように、勤務先の退職一時金とは別に企業年金や確定拠出年金の一時金を同じ年に受け取る場合、退職所得控除額の計算が通算されるため、それぞれ別々に控除を使えるわけではありません。同じ年に複数の退職金・一時金を受け取る予定がある場合は、退職所得の受給に関する申告書にその旨を正確に記載し、勤務先や年金機構が重複控除を避けて計算できるようにしておくことが欠かせません。記載漏れがあると、後日税務署から追加の申告を求められることがあります。特に確定拠出年金(iDeCoや企業型DC)の一時金は、受け取るタイミングをずらすことで退職所得控除の枠を再度使える場合もあるため、複数の退職金を控えている人は受け取り時期を含めて事前に税理士や年金事務所へ確認しておくと安心です。
よくある質問
Q. 申告書を提出し忘れたことに、退職後しばらくして気づきました。今からでも還付を受けられますか。
A. 受けられます。退職所得の源泉徴収票を保管していれば、退職した年の翌年以降でも5年間は還付申告が可能です。源泉徴収票を紛失した場合は、退職した会社に再発行を依頼してください。
Q. 退職金にかかる住民税は、退職した年と翌年のどちらの住民税に影響しますか。
A. 退職金部分の住民税は退職所得の申告分離課税として退職時(または還付申告時)に個別に精算されるため、翌年度に来る通常の住民税の納税通知書(給与所得や年金に対する住民税)とは別枠で扱われます。住民税の支払い方法:退職後に来る納税通知にどう備えるかで扱っている翌年度の住民税とは仕組みが異なる点を混同しないよう注意してください。
Q. 退職所得控除額を計算する際の「勤続年数」は、1年未満の端数がある場合どう扱われますか。
A. 1年未満の端数は切り上げて1年として計算します。たとえば勤続20年3ヶ月であれば、21年として控除額を計算します。
退職金にかかる住民税・所得税は、申告書を出しているかどうかだけで手取り額が大きく変わる仕組みです。振り込み前に源泉徴収票の控えを確認し、申告書の提出有無をはっきりさせておくことが、余計な手続きを避ける一番の近道になります。
実際に退職金の税金や手続きで戸惑った人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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