自分の定年退職が視野に入る60歳前後は、親の年齢がちょうど85歳から90歳前後にさしかかる時期と重なりやすく、介護の必要性が一気に高まる時期でもあります。自分自身の退職後の資金計画を立てている最中に、親の介護費用や毎日の付き添いという新たな課題が重なると、何から手をつければよいか分からなくなりがちです。二つの大きな変化が同時に来たときに、どう優先順位をつけて動けばよいかを整理します。
なぜこの重なりが起きやすいのか
平均的な出産年齢を踏まえると、60歳で定年を迎える人の親は80代後半から90代であることが多く、要介護認定率が急激に上がる年齢層と重なります。厚生労働省の統計でも、要介護認定を受ける人の割合は80代後半で急上昇する傾向が示されており、自分の定年退職の準備を始める時期と、親の介護が本格化する時期が同時に訪れるのは、偶然ではなく年齢構成上ほぼ必然的に起きる重なりだといえます。定年前後で仕事のペースが変わることを見越して、親の介護についても同じ時期に見通しを立てておくと、いざというときに慌てずに済みます。
二重の資金計画を分けて考える
この時期に難しいのは、自分自身の退職後の生活資金と、親の介護費用という、性質の異なる二つのお金の計画を同時に考えなければならない点です。自分の退職後資金は数十年単位の長い時間軸で取り崩していく計画ですが、親の介護費用は親自身の年金や資産でまかなうのが基本であり、子どもの退職金を取り崩して充てるべきものではありません。この二つを混同して一つの財布のように考えてしまうと、どちらの計画も曖昧になります。まず親自身の年金額・預貯金・保有資産を確認し、介護費用は基本的に親の資産の範囲でまかなえるかどうかを見極めたうえで、自分の退職後資金は老後資金の取り崩し方:定率 vs 定額のどちらが安心かのように、独立した計画として別枠で管理することが出発点になります。
介護保険サービスを使い切ってから離職を考える
親の介護が始まると、とっさに「自分が仕事を辞めて付き添おう」と考えがちですが、まず介護保険サービスをどこまで活用できているかを確認するのが先です。要介護認定を受けたうえで、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどを組み合わせれば、同居していなくても週の大半をカバーできるケースは少なくありません。地域包括支援センターに相談し、ケアマネジャーとともに利用できるサービスの上限まで組み込んだケアプランを作ってから、それでも人手が足りない部分だけを家族で補うという順序にすると、いきなり離職という選択肢に飛びつかずに済みます。親の介護が始まったら最初にすることで扱っている初動の手順を踏んでおくと、この段階での判断がしやすくなります。
施設入所という選択肢も早めに検討する
在宅での介護保険サービスだけでは対応が難しくなってきた場合は、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームなど、介護施設・老人ホームの選び方の基礎知識で紹介されている施設入所も選択肢に入れて早めに情報収集を始めると、いざというときの選択肢が狭まりません。特別養護老人ホームは入所までの待機期間が数か月から1年以上かかる地域もあるため、要介護度が上がってから探し始めるのではなく、要介護2〜3の段階で候補となる施設に問い合わせておくと、後の判断に余裕が生まれます。
定年のタイミングをずらすかどうかの判断
介護の負担が重なった場合、定年を予定通り迎えるか、それとも定年前に早期退職して親の介護に専念するかという判断を迫られることがあります。この判断で見落とされがちなのが、定年まで勤め上げた場合と早期退職した場合とで、退職金や失業給付の額に大きな差が出る点です。多くの会社では自己都合の早期退職は退職金の減額対象になり、雇用保険の失業給付も給付制限がかかる場合があります。早期退職と定年退職どちらが得か:退職金・失業給付の違いで比較されているように、数か月から数年早く辞めることで数百万円単位の差が生じることもあるため、介護保険サービスや短時間勤務・介護休業制度を組み合わせて定年まで勤め上げられないか、会社の制度を確認してから判断するほうが、結果的に自分自身の老後資金にも余裕を残せます。
兄弟姉妹との役割分担を先に決めておく
親の介護と自分の定年が重なる場面では、兄弟姉妹がいる場合、誰がどこまで担うのかという分担も早めに話し合っておく必要があります。実家の近くに住んでいるという理由だけで一人に負担が偏ると、その人だけが離職を迫られる事態になりかねません。定年を控えた自分がどの程度の時間を割けるのか、遠方に住む兄弟が金銭的な負担で協力できる部分はどこかを具体的な金額や頻度で分けて話し合っておくと、いざ介護度が上がったときに慌てずに役割を確認し直せます。
見守りサービスで在宅期間を延ばす
要介護度がそれほど高くない段階では、常時の付き添いではなく、一人暮らし高齢者の見守りサービス活用法で紹介されているようなセンサー型の見守り機器や、定期的な安否確認サービスを組み合わせることで、在宅での生活を無理なく延ばせる場合もあります。介護保険の枠外のサービスも含めて選択肢を広げておくと、自分が定年を迎えるまでの数年間を乗り切りやすくなります。
収入と支出を数字で見える化しておく
介護と定年が重なる時期は、感覚だけで家計を判断すると見通しを誤りやすくなります。自分の退職後の収入見込み(年金・再雇用の給与・退職金の取り崩し額)と、親の介護に関連して自分の家計から出ていく可能性のある支出(交通費、当面の立て替え費用など)を、退職後の収入シミュレーションの作り方を参考にして一度数字に落とし込んでおくと、介護の負担がどこまで自分の老後資金を圧迫する可能性があるかが具体的に分かります。数字で把握できていれば、兄弟姉妹との分担交渉や、勤務先への時短勤務の相談も、根拠のある話として進めやすくなります。
会社への相談は早いほど選択肢が残る
親の介護が本格化しそうだと分かった時点で、定年退職を待たずにできるだけ早く上司や人事部に状況を伝えておくと、介護休業や短時間勤務制度の利用、業務の引き継ぎ計画について会社側も準備しやすくなります。直前になって突然「親の介護で退職したい」と伝えると、会社側の対応も後手に回り、結果として本人にとって不利な条件での退職につながることもあります。定年までの残りの年数と、親の介護度の見通しをあわせて早めに共有しておくことが、双方にとって現実的な着地点を探る助けになります。
よくある質問
Q. 親の介護費用が足りない場合、自分の退職金を使うべきでしょうか。
A. 基本的には親自身の年金・預貯金・資産を優先してあてるべきで、子どもの退職金は自分自身の老後資金として別枠で確保しておくのが原則です。どうしても不足する場合は、親名義の不動産を担保にしたリバースモーゲージなど、親自身の資産を活用する方法を先に調べ、自分の退職金を取り崩す判断は最後の手段として考えるほうが将来の負担を抑えられます。
Q. 会社に介護休業制度がある場合、定年とどう組み合わせればいいですか。
A. 介護休業は通算93日まで、対象家族一人につき3回まで分割取得できる制度が法律で定められています。定年退職の数年前に親の介護が本格化した場合は、まず介護休業や介護短時間勤務制度を使って在宅サービスの体制を整え、そのうえで定年まで勤務を続けられるかを見極める順序にすると、退職金や年金への影響を最小限に抑えられます。
Q. 兄弟に介護を任せきりにされていて不公平だと感じています。どうすればいいですか。
A. 感情的な不満をぶつける前に、これまで自分が担ってきた時間や費用を具体的に書き出し、それをもとに今後の分担案を提示すると話し合いが進みやすくなります。話し合いが平行線をたどる場合は、ケアマネジャーに同席してもらい、専門的な立場から必要なサービス量と分担の目安を示してもらう方法も有効です。
定年と介護が重なる時期は、自分の人生の節目と親の人生の節目が同時に訪れる、負担の大きい時期です。実際に定年と親の介護が重なった時期を乗り越えた人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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