退職を決める前に、自分の資産と負債を一度すべて洗い出す「お金の棚卸し」をしておくことをおすすめします。漠然とした不安の多くは、自分の財産の全体像が見えていないことから生まれます。何をどう整理すればいいか、具体的な手順を紹介します。
なぜお金の棚卸しが必要なのか
預貯金、退職金、年金、保険、不動産など、資産は複数の場所に分散していることが一般的です。それぞれを個別に把握していても、全体としてどれくらいの資産があるのかを正確に理解していない人は少なくありません。棚卸しをすることで、退職後の生活に対する漠然とした不安を、具体的な数字に基づいた安心材料に変えることができます。
ステップ①:預貯金をすべて洗い出す
複数の銀行に口座を持っている場合、それぞれの残高を一覧にしておくとよいでしょう。長年使っていない口座がある場合は、この機会に整理し、必要であれば解約や統合を検討するのもよい機会です。定期預金の満期日なども確認しておくと、資金計画が立てやすくなります。
ステップ②:退職金・年金の見込み額を確認する
会社の担当部署に退職金の見込み額を確認し、退職金の受け取り方(一時金 vs 年金)、どちらが得かも参考に、受け取り方によってどう金額が変わるかを把握しましょう。公的年金については、「ねんきん定期便」や年金事務所で見込み額を確認できます。iDeCoや企業年金に加入している場合は、その分もあわせて確認しておきましょう。
ステップ③:保険・投資商品を確認する
加入している生命保険、医療保険、投資信託、株式などをリストアップし、解約返戻金や現在の評価額を確認します。生命保険・医療保険の見直しタイミングで紹介したように、退職を機に保障内容の見直しをあわせて検討するのもよいタイミングです。
ステップ④:負債(ローンなど)を確認する
住宅ローンや自動車ローン、クレジットカードのリボ払いなど、残っている負債もすべて洗い出しましょう。退職金で完済するかどうか、完済後の生活費にどれだけ余裕が生まれるかを試算しておくと、退職後の資金計画がより具体的になります。
ステップ⑤:不動産の評価も確認しておく
持ち家がある場合、将来的に売却や活用を考える可能性があるなら、おおよその市場価値を不動産会社の査定などで確認しておくと安心です。すぐに売却する予定がなくても、資産全体を把握する上で重要な情報になります。
資産と負債を一覧表にまとめる
すべての項目を洗い出したら、資産と負債を一覧表にまとめ、差し引きした「純資産」を一度計算してみると全体像がつかめます。この数字が、退職後の生活を支える基盤となります。退職後の収入シミュレーションの作り方と合わせて活用すれば、より具体的な資金計画を立てることができます。
家族と情報を共有しておく
お金の棚卸しをした結果は、自分だけで抱え込まず、配偶者や信頼できる家族と共有しておくと安心です。万が一の際に、家族が資産状況を把握できていないと、手続きに大きな混乱が生じることがあります。退職を決める前に家族と話すべき5つのこともあわせて参考にしてください。
デジタル資産・サブスクリプションも忘れずに
近年は、ネット証券の口座やポイント、サブスクリプションサービスなど、通帳や書類に残らない「デジタル資産」も増えています。IDやパスワードの管理が本人にしか分からない状態のままにしておくと、万が一の際に家族が把握できず、資産が埋もれてしまうこともあります。利用しているサービスの一覧と、大まかなログイン情報の管理方法を、家族にも分かる形で残しておくと安心です。
専門家に相談するタイミング
資産の内容が複雑な場合や、相続を見据えた対策が必要な場合は、ファイナンシャルプランナーや税理士に相談することも検討しましょう。退職後の税金:確定申告が必要になるケースとはもあわせて確認し、早めに専門家のアドバイスを受けておくと、後々の手続きがスムーズになります。
棚卸しの結果を資金計画に活かす
資産の棚卸しができたら、次はそれを具体的な収支計画に落とし込んでみましょう。退職後の収入シミュレーションの作り方と組み合わせることで、退職後何年分の生活費をまかなえるのか、より正確な見通しを立てられます。
やりたいことと資金のバランスを確認する
お金の棚卸しは、単に不安を解消するためだけでなく、退職後にやりたいことを実現するための土台にもなります。自分に合った退職後の選択肢を見つける診断チェックリストとあわせて、資金面の裏付けを持った上で、自分らしい退職後の生活を計画していきましょう。
エンディングノートと組み合わせて管理する
お金の棚卸しをした情報は、「エンディングノート」のような形でまとめておくと、日々の資産管理だけでなく、万が一のときの家族の負担も大きく軽減できます。資産の一覧に加えて、加入している保険会社の連絡先、貸金庫の有無、デジタル資産のログイン管理方法などを一冊にまとめておくと、家族が慌てずに手続きを進められます。市販のエンディングノートを使ってもよいですし、ノートやスプレッドシートで自作しても構いません。
棚卸しをきっかけに不要な契約を整理する
資産や負債を洗い出す過程で、使っていないサブスクリプションサービスや、内容を忘れていた保険契約が見つかることもあります。「なんとなく契約したまま」になっている支出は、棚卸しの絶好の機会に一つずつ見直しておくとよいでしょう。不要な契約を解約するだけでも、毎月の固定費が想像以上に軽くなることがあります。退職後の家計簿・支出の見直し方もあわせて参考にしてみてください。
よくある質問
Q. どれくらいの頻度で見直すべき?
A. 退職前は一度しっかりと棚卸しを行い、退職後は年に一度程度、資産状況を確認しておくと安心です。大きな変化(住宅の売却や相続など)があった際は、その都度更新するとよいでしょう。
Q. 借金があると退職しにくい?
A. 負債の状況によりますが、退職金での完済が可能か、退職後の収入で無理なく返済を続けられるかを、事前に試算しておく必要があります。不安な場合は、金融機関の窓口やファイナンシャルプランナーに相談しておくと安心です。
Q. 家族名義の資産も棚卸しに含めるべき?
A. 世帯全体の生活を考える上では、配偶者名義の資産や負債も含めて把握しておく方が安心です。個人のプライバシーに配慮しつつ、少なくとも大きな枠組みは共有しておくと安心です。
Q. 棚卸しの結果、不安な数字が出たらどうすればいい?
A. 不安な結果が出たとしても、それは今後の対策を立てるための貴重な情報です。支出の見直しや、就労による収入確保など、具体的な対策を検討する第一歩として活用しましょう。
Q. エンディングノートは今から書く必要がある?
A. 早すぎるということはありません。資産の棚卸しと同時に書き始めておくことで、内容の更新もしやすくなります。堅苦しく考えず、まずは資産の一覧から書き始めてみるとよいでしょう。
お金の棚卸しは、退職という大きな決断を、感覚ではなく事実に基づいて判断するための土台になります。時間をかけてでも、一度しっかり向き合ってみましょう。
実際にお金の棚卸しをして退職を決めた方の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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