NISA口座の使い方(退職後の資産運用)を読んで制度の非課税枠は理解できても、実際に口座を開いた後「では具体的にどの商品を買えばいいのか」で手が止まる人は多いものです。証券会社のアプリを開くと数千本のファンドが並んでおり、どれを選べば良いか分からないまま人気ランキング上位のものをなんとなく選んでしまう、という声もよく聞きます。ここでは、退職後に初めてつみたて投資を始める人向けに、商品選びの基本的な考え方を具体的に説明します。
インデックスファンドとアクティブファンドの違い
投資信託は大きく分けて2種類あります。インデックスファンドは、日経平均株価やS&P500、全世界株式指数(MSCI ACWIなど)といった特定の指数に連動するよう機械的に運用されるファンドです。アクティブファンドは、ファンドマネージャーが個別銘柄を選び、指数を上回る成績を目指して積極的に運用するファンドです。仕組み上、アクティブファンドは調査や運用の手間がかかるため信託報酬(運用管理費用)が年1%〜2%程度と高めになりがちなのに対し、インデックスファンドは年0.1%前後まで下がっているものも多く、コストの差が歴然としています。
長期のデータを見ると、アクティブファンドの大半は長期的に指数(インデックス)の成績を上回れないという研究結果が繰り返し示されており、退職後に初めて投資を始める人にとっては、割高な手数料を払って「当たれば大きい」アクティブファンドに賭けるより、市場平均並みの成果を低コストで淡々と積み上げるインデックスファンドから始めるほうが、値動きの予測や銘柄選びに時間を割けない退職後の生活スタイルにも合っています。
目論見書で確認すべき3つの項目
信託報酬(運用コスト)
信託報酬は保有している間ずっとかかり続けるコストで、年率で表示されます。同じ指数に連動するファンドでも、信託報酬が年0.1%のものと年0.5%のものでは、20年、30年という長期で見ると最終的な資産額に無視できない差が生まれます。たとえば運用資産300万円を年利5%で20年間運用した場合、信託報酬が年0.1%か年0.5%かの差だけで、最終的な資産額に数十万円規模の違いが出ることもあります。目論見書や証券会社の商品ページには必ず「信託報酬」または「実質コスト」という項目があるので、同じ指数に連動する複数のファンドを比較する際はまずここを見比べます。
純資産総額(ファンドの規模)
純資産総額は、そのファンドにどれだけの資金が集まっているかを示す指標です。純資産総額が小さすぎる、あるいは資金が流出し続けているファンドは、運用の継続が難しくなり「繰上償還」(運用が途中で打ち切られること)のリスクが相対的に高くなります。目安として、純資産総額が右肩上がりで増え続けており、数百億円以上の規模があるファンドを選んでおくと、この種のリスクを避けやすくなります。目論見書の運用実績のページに、月次の純資産総額の推移グラフが掲載されているファンドが多いので、増加傾向にあるかどうかを確認します。
ベンチマーク(連動対象の指数)
ベンチマークは、そのファンドがどの指数に連動することを目指しているかを示すものです。同じ「全世界株式」という名前のファンドでも、先進国のみを対象にしたものと新興国も含めたもの、日本を含むものと含まないものなど、細かい違いがあります。目論見書の1ページ目付近に必ず記載されているベンチマークの正式名称を確認し、自分がどの地域・どの規模の企業に投資しているのかを把握しておくことが、後から「思っていたものと違った」という誤解を避けることにつながります。
具体的な絞り込み方
数千本あるファンドの中から一つに絞り込む作業は、退職後に限られた時間で行うには負担が大きすぎます。実務的な進め方としては、まず「全世界株式(オール・カントリー)」または「米国株式(S&P500)」に連動するインデックスファンドという、広く分散され実績も長いカテゴリーからスタートし、その中で信託報酬が最も低い水準にあるものを2〜3本ピックアップして比較する、という順番が効率的です。個別の国やテーマ(AI関連、環境関連など)に集中投資するファンドは値動きが大きくなりやすいため、最初の1本としては避け、投資に慣れてから検討先として加えるくらいの位置づけにしておくと、退職金運用でやってはいけない失敗パターンで挙げられているような、退職金をまとめて値動きの荒い商品につぎ込んでしまう失敗を避けやすくなります。
実際に退職を機に投資を始めたCさんは、証券会社の窓口で勧められるまま複数のテーマ型アクティブファンドを購入しましたが、信託報酬の高さと値動きの大きさに疲れてしまい、半年後にすべて解約して全世界株式インデックスファンド1本に一本化しました。「最初からこの1本で始めていれば、余計な手数料を払わずに済んだ」と振り返っています。
「去年の成績が良かったファンド」を選ばない
証券会社のアプリでは「年間リターンランキング」が目立つ場所に表示されがちですが、前年に大きく値上がりしたファンドが翌年も同様に好成績を続ける保証はありません。特定のテーマや地域に集中投資しているファンドほど、ランキング上位に入りやすい一方で、その後の値下がり幅も大きくなる傾向があります。つみたて投資は数十年単位で続けることを前提にした仕組みなので、直近1年の成績よりも、信託報酬の低さと分散の広さという「続けやすさ」を軸に選ぶほうが、退職後の資産運用には向いています。
よくある質問
Q. インデックスファンドは元本保証がないので不安です。定期預金と何が違いますか。
A. インデックスファンドは株価指数に連動するため元本保証はなく、市場全体が下落すれば資産額も減少します。個人向け国債・定期預金という手堅い運用先で扱っている元本保証型の商品とは性質が異なるため、生活費として近いうちに使う予定のあるお金は投資に回さず、当面使わないと判断できる余裕資金の範囲で取り組むのが基本です。
Q. 一度に大きな金額を投資するのと、毎月少しずつ積み立てるのとでは、どちらが安全ですか。
A. 退職金のようにまとまった資金がある場合でも、一括で投資すると購入直後の値下がりの影響を大きく受けます。毎月一定額を買い付ける積立方式であれば、価格が高いときは少なく、安いときは多く買うことになり、平均購入単価が平準化される効果が期待できます。
Q. つみたてNISAから新NISAに変更した場合、それまで保有していたファンドはどうなりますか。
A. つみたてNISAから新NISAへの移行で知っておきたいことで詳しく扱っていますが、旧制度で購入した分はそのまま非課税期間が継続し、新NISAの口座とは別枠で管理されます。移行の際に商品を売却する必要はありません。
商品選びに正解が一つだけあるわけではありませんが、低コストで分散された指数に連動するファンドから始めれば、大きく判断を誤るリスクは抑えられます。まずは目論見書の信託報酬とベンチマークの欄を開いてみることから始めてみましょう。証券会社の窓口や広告で目立つ商品が、必ずしも自分に合った商品とは限らない点も念頭に置いておくとよいでしょう。
実際に退職後につみたて投資を始めた人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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