老後の資産形成というとiDeCoやNISAの話題が中心になりがちですが、保険会社が扱う「個人年金保険」も、公的年金に上乗せする収入源として根強い人気を保っています。運用成果に一喜一憂したくない、あらかじめ決まった額を将来受け取りたいという人には、iDeCoやNISAとは異なる、確実性を重視した選択肢になります。ここでは個人年金保険の仕組みと、他の制度との違いを具体的に見ていきます。
個人年金保険とはどんな仕組みか
個人年金保険は、契約時に決めた保険料を一定期間払い込み、契約時に定めた年齢(60歳・65歳など)に達すると、あらかじめ決まった方法で年金を受け取れる保険商品です。保険会社が保険料を運用し、契約者は運用の結果を直接気にする必要がなく、契約時点で将来の受取額がおおむね確定している点がiDeCoやNISAとの大きな違いです。受け取り方には「確定年金」(生死に関係なく契約した期間、たとえば10年間受け取れる)、「終身年金」(生きている限り受け取れる)、「有期年金」(生存を条件に一定期間受け取れる)などの型があり、加入時にどの型を選ぶかで将来の受取総額の見込みが変わってきます。
個人年金保険料控除という税優遇
現役時代から個人年金保険に加入している人には、年末調整や確定申告で使える「個人年金保険料控除」があります。一定の条件(年金受取人が契約者またはその配偶者であること、保険料払込期間が10年以上あることなど)を満たす契約であれば、一般の生命保険料控除とは別枠で、所得税は最大4万円、住民税は最大2万8千円の控除が受けられます。定年退職後も保険料の払い込みを継続している契約がある場合は、退職後の所得税・住民税の計算でもこの控除を使えるため、年末調整の書類や確定申告書に記載を忘れないようにしましょう。年金の繰り上げ・繰り下げ受給、どちらがいいかで公的年金の受給開始時期を調整する場合、個人年金保険の受取開始時期とタイミングが重ならないよう調整しておくと、単年の所得が偏らず税負担も平準化しやすくなります。
定額型と変額型の違い
個人年金保険には大きく分けて「定額個人年金保険」と「変額個人年金保険」があります。定額型は契約時に将来の受取額が(予定利率をもとに)ほぼ確定しており、市場の変動に左右されません。ただし近年の低金利環境では予定利率が低く抑えられているため、大きな増加は見込みにくいという実情があります。変額型は保険料の運用を投資信託などで行い、運用実績によって将来の受取額が変動するタイプで、最低保証がある商品とない商品があります。「保険」という名前がついていても、変額型は実質的に投資信託に近い値動きをする点は理解しておく必要があります。加入前に「予定利率」「最低保証の有無」「解約控除の期間と金額」の3点を保険設計書で確認すると、商品の性質がつかみやすくなります。
NISAとの違いとどちらが向くか
NISA口座の使い方(退職後の資産運用)で紹介したNISAは、運用成果次第で受取額が変動する代わりに、値上がり益が非課税になり、いつでも売却して現金化できる自由度があります。一方、個人年金保険(特に定額型)は市場の変動に振り回されない代わりに、途中解約すると解約控除で元本を下回ることが多く、資金の流動性はNISAより低くなります。リスクを取ってでも増やす余地を残したい人はNISA、値動きに一喜一憂せず決まった額を確保したい人は個人年金保険、という向き不向きがはっきり分かれる制度です。ある64歳の女性は、退職金の一部を個人年金保険で「年間60万円を10年間確実に受け取れる収入源」として確保し、残りをNISAで運用に回すことで、心理的な安心感と増やす余地の両方を持たせる組み合わせ方を選びました。
iDeCoとの違い:税優遇の大きさと流動性
iDeCoは掛金が全額所得控除になる点で、個人年金保険料控除(最大4万円)よりも税優遇のインパクトが大きい制度です。ただしiDeCoは原則60歳まで引き出せず、定年が近い人が新たに始めても掛金を積み立てられる期間が限られます。iDeCo・企業型DCの受け取り方と税金で解説したように、iDeCoは加入時期に制約がある一方、個人年金保険は年齢が高くなってからでも(保険会社の引受基準の範囲内で)契約でき、受取開始年齢も比較的柔軟に選べる商品が多いという違いがあります。すでにiDeCoの掛金上限まで積み立てている人が、さらに確実性の高い収入源を上乗せしたい場合に個人年金保険を検討する、という順序で考える人も多いです。
受け取るときにかかる税金
個人年金保険は、受け取る段階でも税金がかかる点を押さえておく必要があります。契約者本人が保険料を払い込み、本人が年金を受け取る契約であれば、公的年金等控除の対象にはならず「雑所得(その他)」として扱われます。計算方法は「その年に受け取った年金額-払込保険料のうちその年の年金に対応する部分(必要経費)」で、必要経費分を差し引いた残りが課税対象です。契約者と受取人が異なる契約では、年金受給権をもらったタイミングで贈与税がかかることもあるため、契約時に受取人を誰にするかは慎重に決めておきましょう。保険会社から毎年送られてくる「支払保険料等証明書」や「年金支払通知書」に必要経費の内訳が記載されているので、確定申告の際はこの書類をもとに計算します。
どんな人に向いているか
個人年金保険が向いているのは、値動きのある資産を持つこと自体にストレスを感じる人、公的年金だけでは毎月の生活費が不足すると試算していて、その不足分を確実な収入で埋めたい人です。反対に、多少の値動きを許容できて、長期的なリターンを重視したい人にはNISAや投資信託のほうが向いています。加入を検討する際は、生命保険会社の商品を複数の保険代理店で比較し、予定利率と解約控除の条件を並べて確認すると、同じ「個人年金保険」でも条件差が大きいことが実感できます。生命保険・医療保険の見直しタイミングとあわせて、退職を機に加入中の保険全体を棚卸しし、個人年金保険を新たに組み込む余地があるかを確認してみるとよいでしょう。
よくある質問
Q. 個人年金保険は途中で解約できますか?
A. 解約自体は可能ですが、契約から一定期間内は解約控除が差し引かれ、払い込んだ保険料の総額を下回る解約返戻金しか受け取れないことが一般的です。長期間保有し続けることを前提に加入するのが基本です。
Q. 個人年金保険の年金受取中に契約者が死亡したらどうなりますか?
A. 確定年金であれば、残りの保証期間分の年金または一時金が遺族に支払われます。終身年金では型によって取り扱いが異なるため、契約時に受取保証期間の有無を確認しておくと安心です。
Q. 公的年金の遺族年金と個人年金保険は別物ですか?
A. まったく別の制度です。公的な遺族年金の仕組みと受給条件は国の制度として支給要件が決まっているのに対し、個人年金保険は契約者が自分で選んだ民間保険会社との契約に基づく給付です。両方を組み合わせて老後の収入源を考える人も少なくありません。
個人年金保険は、増やすことよりも「確実に受け取れる収入を確保すること」に重きを置いた選択肢です。iDeCoやNISAと比べてどちらが優れているというより、自分がどこまでの値動きを受け入れられるかを基準に、組み合わせ方を考えるとよいでしょう。
実際に個人年金保険を活用している人の体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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