退職金の受け取り方には、まとめて受け取る「一時金」、年金のように分割して受け取る「年金受取」、そしてその両方を組み合わせる「併用」の3つの選択肢が用意されていることが多い。多くの人は一時金でまとめて受け取ることを選ぶが、実は併用という方法にも見逃せないメリットがある。ここでは3つの受取方法の違いと、併用を選ぶ際に確認しておきたいポイントを具体的に整理する。
退職金の3つの受取方法
一時金として受け取る
退職時に全額をまとめて受け取る方法である。前回の記事でも触れたとおり、退職所得控除(勤続20年以下なら40万円×勤続年数、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数-20年))が適用され、さらに控除後の金額に対して2分の1を掛けた額が課税対象になるため、税負担がかなり軽くなるよう設計されている。まとまった資金を早い段階で自由に使える、あるいは運用に回せる点が最大の特徴だ。
年金として受け取る
退職金を一定期間(5年、10年など企業が定める期間)に分割し、年金のような形で毎年一定額を受け取る方法である。この場合は退職所得ではなく雑所得として扱われ、公的年金等控除の対象になる。一時金と異なり、分割して受け取っている間は企業年金制度を通じて運用が継続されるため、運用実績によって受取総額が増減する仕組みを採用している企業もある。
一時金と年金を併用する
退職金の一部を一時金として受け取り、残りを年金として分割受取する方法である。たとえば退職金2,000万円のうち1,200万円を一時金、残り800万円を10年間の年金として受け取る、といった形だ。企業によって併用できる比率が「1割単位で選択可能」「一時金は最低300万円から」など細かく規定されていることが多く、制度の詳細は勤務先の退職金規程や人事部の説明会資料で確認する必要がある。
併用のメリット
併用を選ぶ最大のメリットは、退職所得控除を最大限に活用しながら、残りの資金には運用の柔軟性を持たせられる点にある。退職所得控除の枠内に収まる金額を一時金で受け取れば、その部分はほぼ非課税で受け取れる。控除枠を超える部分をすべて一時金にしてしまうと2分の1課税とはいえ課税額が発生するが、その超過分を年金として分割受取に回せば、毎年の受取額を公的年金等控除や他の所得控除と組み合わせて調整でき、結果的に税負担を抑えられる可能性がある。
加えて、まとまった資金をすべて一括で受け取ると、使いすぎや投資詐欺的な勧誘のリスクにさらされやすくなるという指摘もある。年金形式で毎年一定額が振り込まれる仕組みを一部残しておけば、生活資金として計画的に取り崩していく土台になる。一方で、一時金部分は住宅ローンの繰上げ返済や、当面の生活防衛資金として手元に置いておくといった使い分けができる。
企業によって異なる併用の可否と比率指定
併用制度の有無や具体的な条件は、企業の退職金規程・企業年金制度によって大きく異なる。確定給付企業年金(DB)を導入している企業では、一時金と年金の比率を従業員が一定範囲で選べる制度を持つところもあれば、そもそも一時金一括受取しか選択肢がない企業もある。確定拠出年金(DC・企業型)を導入している企業では、退職後に一時金として引き出すか、企業型DCから個人型のiDeCoへ資産を移換して運用を継続するか、あるいは企業年金連合会などを通じて年金として受け取るかといった選択肢になる場合もある。
比率の指定方法も企業によってさまざまで、「一時金と年金の比率は自由に選べる」「一時金は退職所得控除の範囲内でのみ選択可能」「年金部分は5年・10年・15年から選択」など、細かいルールが定められていることが多い。退職前に開催される説明会や、人事部・総務部が配布する退職金制度の資料に目を通し、不明点があれば早めに担当窓口へ確認しておく必要がある。
実際に、ある元電機メーカー勤務の62歳男性は、退職金2,400万円のうち退職所得控除の範囲内である1,700万円ほどを一時金で受け取り、残りの700万円を10年間の企業年金として受け取る併用方式を選んだ。「全額を一時金にすると税金がかかる部分が出るとわかったので、控除の枠に収まる金額だけ一時金にした」と話しており、住宅ローンの残債を一時金で完済したうえで、年金部分は生活費の一部として毎月の年金収入に上乗せする形で活用しているという。
併用を選ぶ際に確認すべきポイント
併用を検討する際は、まず自分の退職所得控除額を正確に計算し、一時金部分がその枠内に収まるかどうかを確認することが出発点になる。次に、年金として受け取る部分について、受取期間中に企業が破綻した場合の保全措置(企業年金の場合は企業年金連合会への移換制度など)がどうなっているかを確認しておきたい。長期間にわたって分割受取する以上、勤務先の経営状況や制度の存続性も無視できない要素である。
さらに、年金として受け取る期間中の税負担についても試算しておく必要がある。公的年金の受給と企業年金の受給が重なる年は、雑所得の合計額が増え、公的年金等控除の段階的な計算式によって手取りが想定より少なくなることもある。ねんきん定期便やねんきんネットで公的年金の見込み額を確認したうえで、企業年金の受取額と合わせたシミュレーションを行い、必要であればファイナンシャルプランナーに相談しながら受取比率を決めるのも一つの選択肢だ。人事部の担当者や企業年金基金の窓口でも、一般的な制度説明であれば相談に応じてもらえることが多い。
iDeCoやNISAとの組み合わせも視野に入れる
年金として受け取る部分は原則として毎年決まった額が振り込まれる仕組みだが、一時金として受け取った部分の使い道はある程度自由に決められる。住宅ローンの繰上げ返済や生活防衛資金として確保する以外に、一部を新NISAの非課税枠で運用に回すという選択をする人もいる。新NISAは年間投資枠が拡大し、非課税保有期間も無期限になった制度で、詳しい仕組みは新NISAへの移行でも解説している。ただし退職金は老後の生活を支える大切な原資でもあるため、値動きの大きい商品に一括で投じるのではなく、生活費の何年分を手元に残すかを先に決めたうえで、余剰分の範囲で運用を検討するという順序が現実的である。iDeCoに加入していた場合は、そちらの資産をどう受け取るかも合わせて調整しておくと、退職所得控除の枠を無駄なく使い切りやすくなる。
よくある質問
Q. 併用を選んだ後で、比率を変更することはできますか。
A. 多くの企業では退職時に選択した比率は変更できない。制度によっては年金受取開始後に残額の一括受取(繰上げ)ができる場合もあるため、勤務先の退職金規程を確認しておく必要がある。
Q. 年金として受け取っている途中で本人が亡くなった場合はどうなりますか。
A. 企業年金制度によって、遺族に残額が一時金として支払われる場合と、支払われない場合がある。加入している企業年金の規約を確認し、不明な点は企業年金基金や人事部の窓口に問い合わせておくと安心だ。
Q. 併用できるかどうかは、いつ確認すればよいですか。
A. 定年退職の1〜2年前に開催される退職準備説明会や、人事部が配布する退職金制度の資料で確認できることが多い。早めに問い合わせておけば、受取方法をじっくり検討する時間を確保できる。
退職金の受け取り方全般については退職金の受け取り方、iDeCoの受取方法はiDeCoの受け取り方で詳しく解説している。企業年金の確定給付・確定拠出の違いは企業年金の仕組み、公的年金の繰上げ・繰下げについては年金の繰上げ・繰下げ受給を参考にしてほしい。退職金運用で失敗しないためのポイントは退職金運用の失敗例、退職後の資金の取り崩し方は老後資金の取り崩し方にまとめている。
実際に退職金の一時金と年金受取を併用した体験談も取材しています。ご自身の経験を話してみたいという方は取材にご協力ください。


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